「90%超に効果」独スタートアップ発ファイザーが開発する新型コロナワクチンの発表が意味すること
11月9日、独バイオベンチャーBioNtech(ビオンテック)と米製薬大手ファイザーが共同開発中の新型コロナワクチンに「90%の予防効果」という報道が、国内外のメディアを賑わせました。WHOのテドロス事務局長もNIAIDのファウチ所長も、大統領選を争ったトランプ氏もバイデン氏もこの明るいニュースを歓迎するコメントをツイッター等で発表しています。
10月後半からは、私の勤めるベルンハルト・ノホト熱帯医学研究所でも、ファイザーとビオンテックのワクチンの第3相試験(ワクチンが承認されるための最終段階の治験)が始りました。ドイツでは他にもチュービンゲンにあるスタートアップのキュアバック(CureVac)、ドイツ感染症研究センター(DZIF)と共同開発を行う老舗のIDT ビオロギカ(IDT Biologika)が新型コロナワクチンの開発を進めています。
ビオンテックとはどんな企業なのか。今回のニュースはなぜこんなに大々的に報じられたのか。ファイザーの戦略のどこに世界はうなったのか。今回の発表を私たちはどのくらい喜んでよいのか。解説します。
マインツにあるBioNTech(ビオンテック)は、抗がん剤を中心に医薬品の開発を進めてきた約1500人の従業員を抱える、12年の歴史のある企業だ。
とはいえ、実際に製品を上市した実績はない。
世界のどこにでもある、一獲千金を狙うバイオベンチャーである。
ところが、今年に入ってこの企業が世界的な注目を集めるようになった。
WHOの「緊急事態宣言」よりも早い1月中旬、「光のスピード(Lichtgeschwindigkeit)」と名付けたプロジェクトで米製薬大手ファイザーと組み、世界初の新型コロナワクチンの開発を文字通りのスピードで急いできたからだ。
世界に数多あるベンチャーの医薬品候補(シード)に目を光らせ、実績を何ひとつも持たないにドイツの地方都市のスタートアップに白羽の矢を当てたのは、さすがの「製薬巨人」ファイザーである。
これまでビオンテックの運営資金の90%以上が、個人投資家の投資によるものだった。最大株主は双子の ストリュングマン兄弟だ。 ストリュングマン兄弟は製薬企業ヘクサルの創設者として知られるが、2005年には同社を売却。その後、ビオンテックを含むいくつものバイオ関連企業に投資してきた。
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