【自由研究】暑すぎるので水で太陽の温度を測ってみた
こんにちは。バーチャル理科教師の西薗です。
猛暑の続く中、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。
白衣は地獄です。
なぜなら半袖とかにするわけにもいかないから。
なんでこんなに暑いのかというと、完全にコイツのせいです。
太陽。こいつが諸悪の根源です。
その証拠に、太陽の光が届きにくい南極や北極はめちゃめちゃ涼しいという噂があります。
しかし、近年では温室効果ガスが地球温暖化でサブプライムローンがリーマンショックで米騒動みたいな話も聞きますね。知らんけど。
もしかしたら暑いのって人間のせいの可能性ある……?
真偽を確かめるべく、バーチャル理科教師西薗は太陽の表面温度を測定してみることにしました。
とはいえ手持ちの温度計では太陽に届きそうもないので、ここはサイエンスの力を使って測定しようと思います。
用意するもの
水
温度計
かき混ぜるための棒状のもの
断熱容器(あれば)
黒い塗料(あれば)
以上です。
特別な機械や技術は必要ありませんので、ご家庭でも気軽に試すことができます。
測定の原理
物理学の世界にはこんな法則があります。
もっとわかりやすく書くとこんな感じ。
これはシュテファン=ボルツマンの法則といって、簡単に言えば「物体が放出する光エネルギーはその物体の温度の4乗に比例する」という法則です。
(※反射や透過が一切ないとした場合)
つまり、太陽から出ている光エネルギーさえ測れれば、シュテファン=ボルツマンの法則を使って太陽の表面温度を計算することができるのです。
かがくのちからってすげー!
ではどうやって太陽の光エネルギーを測定するか?
簡単です。太陽光で水の温度がどのくらい上がるのか調べれば良いのです。
水は1gあたり4.2Jのエネルギーを得ると温度が1℃上がります。
つまり逆に言えば、水の温度がどのくらい上がったのかを測れば、どのくらいのエネルギーを得たのか計算できるということになります。
以上より、太陽の表面温度を求める過程としてはこんな流れになります。
この作戦で夏の暑さに反撃の狼煙を上げていきましょう。
精度を上げるための工夫
ざっくりとした測定原理は上記の通りですが、実際の物理現象は上で説明したほど単純ではありません。
ここでは、可能な限り測定の精度を向上させるためのいくつかの工夫について書いていきます。
(読み飛ばしてOK)
容器の選定
太陽光が当たる場所に水を置いたとしても、水と熱のやりとりをするのは太陽光だけではありません。
例えば水と接触している周りの空気や水の入った容器も、水に対して熱のやりとりをします。
太陽から得た熱が容器に逃げてしまったり、大気からも熱をもらっているのでは、太陽の光エネルギーだけを正確に測定することはできません。
そこで、私は容器としてステンレス製の断熱容器を使用しました。
断熱構造なら熱が外部に逃げるのをある程度防ぐことができます。
さらにステンレスは温度が変化しやすいので、断熱環境下では水からあまり熱を奪いません。
透明でないため周囲からの反射光をカットしてくれるのも好ポイント。
本来は缶飲料を保温しておくためのグッズなのですが、ここでは実験グッズとしてなるべく用意しておくと良いと思います。
光の吸収率を上げる
水は光エネルギーを100%吸収するわけではありません。むしろ光のほとんどが透過または反射してしまいます。
しかし温度上昇から光エネルギーを測定するためには、可能な限り100%に近い吸収率を目指したいところです。
というわけで水を黒くしました。
黒は光の吸収率が高いというのはよく知られた話ですが、これって実は因果が逆で、光を吸収する(=反射・透過が少ない)物質は黒く見えるというだけのことだったりします。
今回は水に絵の具を溶かして黒くしました。
おまわりさんに見つかったら任意同行待ったなしなので、そこは見つからないように各自祈って頂く形になります。
大気による吸収の考慮
太陽光のエネルギーは地表に到達するまでに大気によってある程度吸収されてしまうのではないか?という疑問は多くの人が思い浮かべると思います。
調べてみたところ、文科省の資料(平成21年度)に次のような記載がありました。
これによると、大気による吸収は考慮しなくても良いようです。
ただし、さすがに雲や水蒸気には遮られると思うので、なるべく雲がなく、湿度の低い日に測定を行うのが良さそうですね。
測定
というわけで実験当日。
気温は32℃、雲一つない快晴で風もなく、絶好の実験日和です。
インドア派の人間からすると地獄みたいな日です。
実験場所は日当たりが良ければどこでも良いですが、反射光の発生する高層ビルや、水蒸気を発生させる川や海などが近くにないほうが望ましいです。
今回は近所の公園で実験を行いました。
まずはペットボトルに入れてきた黒い水 500mLを断熱容器に移し替えます。
まさか断熱容器自身も、開封されて最初に入れられるのがこんな正体不明の黒い液体だとは思いもしなかったでしょう。
ちなみにこの黒い水は自室で丸1日放置して27℃程度の常温にしています。
黒い水を移し替え、かき混ぜる用の割り箸も用意してセットアップ完了。
そして温度計の数値が落ち着くのを待つこと1分ほど。
温度計の表示は27.8℃となりました。
この時点で時刻は11:30。太陽が最も高くなる直前の時刻です。
それでは実験スタート。
ここから1分ごとに温度計の表示を記録していきます。
え????全然温まってなくない???
焦り始める西薗。
リアルに「バ、バカな!私の計算ではうまくいくはず……!」となりました。
そういえば温度の記録にいっぱいいっぱいで全然水をかき混ぜていませんでした。
上下に対流を作るように撹拌して……
温度が上昇しました。
なるほど、ちゃんと混ぜないと温度計が反応してくれないらしい。
とりあえず温度がちゃんと上がって安心しました。
黒い水をかき混ぜながら測定を続けます。
なんか思ってた上がり方と違う。
ちょっと溜めてから急に上がる傾向がありますね。
"ししおどし"みたいなもんか。それにしては清涼感ゼロですね。
(実際は温度計の応答の問題かと思われますが、よくわかりません。)
真夏の昼、あっつ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
気が付けば直射日光を浴びながら20分も過ごしてました。
実は当初は20分程度の測定で十分の予定だったのですが、思ったより温度上昇にムラがあったので、データを多めに取った方が良さそうだと判断し測定を続行。
熱中症対策に持ってきたポカリスエットをちびちび飲みながら続けます。
ここでいよいよ記録用のiPadに限界が来ました。
画面には「高温注意 本体温度が下がるまでお待ちください」の表示が。
しかし水の温度上昇は停滞中のためここでやめるわけにもいかず、iPadを日陰で休ませて測定を続行。
iPhoneでストップウォッチとメモ帳を交互に起動しながら記録していきます。
女性「あの~」
西薗「はい?」
女性「これって何の実験してるんですか~?」
西薗「アッハイ、エット、これはですね、太陽の光で水の温度が上がりますよね」
女性「はい~」
西薗「この水の温度の上がり方で太陽の表面温度が測れるんですね」
女性「……へえ~^^;」
子連れの女性に話しかけられましたが、微妙な空気になりました。
炎天下では気体は膨張しても話は膨らまないようです。
ここでマルチタスクをこなしていたiPhoneの画面に「高温注意」の文字が。
タイムキープと記録の手段が断たれたかと思われましたが、ここで日陰で休んでいたiPadが復活。
蘇生したiPadが倒れたiPhoneの遺志を継ぎ、灼熱の空気に耐えながらマルチタスクをこなします。
とはいえiPadが倒れるのももはや時間の問題なので、60分が経過したら測定を終えることに決めました。
もってくれよ、俺のiPad……!
測定終了~~~~~~~~~!!!
なんとか走り切りました。
最終的に27.8℃→31.7℃まで温度が上がりました。
断熱容器内でここまで温度が上昇するのは間違いなく光のエネルギーによる仕事でしょう。
熱中症対策に持ってきたキンキンに冷えたポカリスエットも、測定が終わる頃には28.9℃と、温水プールくらいまでぬるくなっていました。
とりあえず熱中症にならなくて良かったです。
片付けてすぐに帰宅し、冷房の下でガツンとみかんを食べました。
計算
※ この章での計算はわかりやすさのために情報をかなり削ぎ落しています。より正確で詳細な理論は別記事にて解説しています。
さて、ガツンとみかんのせいで「やりきった感」が出てしまってますが、あくまで測定は第1フェーズであることを忘れてはいけません。
ここからは測定結果から太陽の表面温度を計算する第2フェーズに移っていきます。
まず、実験結果をグラフで見てみましょう。
このグラフの傾き0.066は、温度の上昇ムラを加味すると1分あたりに0.066℃ 温度が上がっていることを示しています。
これを秒あたりに変換すると、0.066 ÷ 60= 0.0011 となります。
これに水の比熱4.2と水の質量500をかけることで、水が1秒あたりに受け取った光エネルギーが
0.0011 × 4.2 × 500 = 2.31 W
となることがわかります。
さらにこれを面積あたりの光エネルギーにすると、
2.31 ÷ 0.00357 = 647 W/m^2
となります。(※面積は別途計算しました。)
随分と小さい値に見えますが、これは太陽が放出している光エネルギーではなく、あくまで地表で水が受け取った光エネルギーであるということに注意する必要があります。
太陽光は太陽表面で放出されてから地表に辿り着くまでに、距離による減衰と地球による反射を受けます。
太陽が放った光エネルギーを求めるには、この2つについて補正する必要があります。
太陽の表面から放射された光は、地球に到着するまでに約0.00218%にまで減衰します。この分を補正すると、
647 ÷ 0.0000218 = 29678899 W/m^2
となります。
さらに、太陽光は地球の表面で3割が反射され、地表に届くのは残り7割とされています。(地球全体での反射能なので、ざっくりの値)
この分を補正すると、
29678899 ÷ 0.7 = 42398427 W/m^2
となります。
これが太陽表面から放射される光エネルギーの正味の値となります。
最後の仕上げです。
シュテファン=ボルツマンの法則に光エネルギー42398427 W/m^2を当てはめます。
つまり、
42398427 = 0.0000000567 × (温度)^4
という方程式になります。
あとは両辺をシュテファン=ボルツマン定数 0.0000000567で割って、
(温度)^4 = 42398427÷0.0000000567 = 747767671957672
両辺に√を被せます。
(温度)^2 = 27345341
次が最後の計算です。
もう一度両辺に√を被せます。
(温度) = 5229 K
よって、太陽の表面温度は5229K。
摂氏温度に直すと、5229-273=4956 ℃ となります。
つまり、こういうことになります。
感想
5000℃の炎が照りつけてたらそら暑いわ。
むしろおいしそうに焼かれないだけありがたいまでありますね。
というわけで、夏の暑さは全て太陽のせいだということがわかりました。
その上温暖化なんてしちゃったら人類は全員カリカリベーコンになります。
STOP!地球温暖化!
……とまぁ、夏の暑さも風物詩の1つということで納得するとして、完走した感想を語っていきます。
実験結果としては、まぁまぁ悪くない値が出たかなと思います。
国立天文台が発行している「理科年表2020」を見ると、太陽の温度は5777Kとされています。
今回の実験で得られた5229Kは誤差10%以内。水と温度計だけの実験にしてはそこそこの結果だと思います。
ただシュテファン=ボルツマンの法則はとにかく「温度の4乗」が強くて、水の温度変化の値がめちゃくちゃでも誤差が1/4乗に矮小化されてしまうので、測定精度が悪くてもそれらしい値が出てきてしまうという側面はあると思います。
逆に言えば、測定さえすれば"一見ちゃんとした"結果が出せるので、夏休みの自由研究にはもってこいだと思います。
この記事を読んでいる方に中学生~高校生の方がいたら是非やってみてほしいと思います。
あと天文学系の自由研究はかなり先生にウケやすいです。
これさえやっておけば2学期の理科の成績は「5」で間違いないでしょう。
(※個人差があります)
わからない点があれば、是非コメントやTwitter等で質問してください。
可能な範囲で私バーチャル理科教師西薗がお答えします。
まとめ
というわけで、水で太陽の温度を測定してみました。
まぁ太陽の温度が5000℃程度とわかったところで夏の暑さはどうにもならないんですが、こんな1.5億km離れた位置から個人情報を特定されたとなればさすがの太陽も肝を冷やしたことでしょう。
まだまだ暑さは続くと思いますが、皆さんもどうか熱中症にはお気をつけてお過ごしください。
それでは西薗はこれからコメダ珈琲のでっけ~かき氷を食べてきますので、この辺で失礼いたします。
お疲れ様でした。
※理論の解説をしている記事
https://note.com/riko_nishizono/n/ne13666ce79c4
付録:計算フローチャート
この実験を実際にやってみるときにお使いください。
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