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生成AIが大好きで大嫌いな話
生成AIに助けられていて、そしてうんざりしている
ChatGPTを使わない日はありません。もっと簡潔に伝えられるメールの文章を作ったり、自力ではほとんど書けないGoogle Apps Scriptを書いたり、プロジェクトの振り返りの壁打ち相手に使ったり、書いたドキュメントを複数言語に翻訳したり。自分の生産性や能力を拡張するために、とにかくたくさん使っています。
一方で、「生産性の向上」が一番のセールスポイントとして挙げられているAIツールにはもう飽き飽きしている自分がいます。手当たり次第にそのようなツールのデモ動画をキャプチャして、生産性を100倍にする神業30選についてスレッドを並べるTwitterインフルエンサーとそのインプレッションを見てはうんざりしています。別に「生産性」で評価されたくありません。仕事に関連するそのようなツールをもっとたくさん欲しいとは思いません。
生成AIの奴隷という言葉
最近、とあるツイートを見かけました。
生成AIは良くも悪くも「それっぽいアウトプット」を生成するのが得意。 ただ、生成AIが作ったアウトプットで意思決定ができるかというと、それは難しい。
なぜならあらゆる変数(例えば組織の強み、弱み、市場環境、有効な施策の実数値など)をAI側は考慮できないからだ。
最近増えている生成AI系副業人材は2枚目の左側のように、「整理はするけど、意思決定できない」アウトプットを提出してくるケースがめちゃくちゃ多い。
つまるところ、思考することを放棄し、生成AIにキュレートさせた情報だけで仕事をしている(つもりになっている)。
生成AIが登場してから、生成AI系副業人材が増えたんだけど、生成AIによる弊害が生まれていると思っていて、話を聞いて欲しい。
— Tom | ドバイで生成AIやってる人 (@0x__tom) September 10, 2024
例えば、「B向けの営業・マーケ施策を考えてきて」というお題をメンバーに与えるとする。
まず「生成AIを使わない人」 VS… pic.twitter.com/298ggNhq2E
このツイートでは「B向けの営業・マーケ施策を考えてきて」というお題が例挙げられていましたが、経営に関する意思決定、プロダクトに関する意思決定、事業・デザイン・文章・イラスト・音楽・アートの制作等何かを生み出す様々な行為に当てはまることだと思います。
私が大好きなプロダクトのひとつであるProcreateのCEO James Cudaは、公式アカウントが投稿した動画の中で「Procreateの製品に生成AIを取り入れません」と明言しています。
彼は、「皆様に生成AIについてよく聞かれます」とし、「個人的に生成AIは本当に不愉快です。いまこの業界で起きていることも、アーティストに与えているさまざまな痛みも納得いかないです」と、生成AIに反対の立場を表明しています。さらには、「この物語がどこへ向かうのか、どのように終わるのかは正確には分かりませんが、人間の創造性をサポートする正しい道へと進んでいると思います」と述べています。
生成AIは私たちの未来ではない。
— Procreateジャパン (@ProcreateJapan) August 18, 2024
詳細はここから: https://t.co/ae8YT4nLBU pic.twitter.com/YzT2SX0IyS
創ることは考えること
James Cudaの「生成AIが好きではない」という言葉は、生成AIを使ったプロダクトの多くが、プロセスに参加させずにアウトプットをすぐに提供することに重点を置いていて、思考・掘り下げ・失敗・発見は単なる障害であるように扱われることに対するアンチテーゼのように感じました。
「生成AIの奴隷」という言葉を使ったツイートの中にも「思考することを放棄し、生成AIにキュレートさせた情報だけで仕事をしている(つもりになっている)」という表現がありました。このような生成AIがもたらす人間の思考の欠如に対する警鐘に共感する人々が増えている気がします。
創造的リスクを取るための生成AI
これまで生成AIに対する批判的な意見を取り上げてきましたが、それでも私は生成AIが大好きで、それに助けられて仕事をしています。
ジェームス W.ヤングの『アイデアのつくり方』には「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせにすぎない」そして「その才能は、事物の関連性を見つける力に依存する」とあります。この考え方に私は深く共感しています。
たとえば、Pinterestはクリエイティブな人々に愛されており、既存の要素を集めること自体が素晴らしいインスピレーションになります。ただし、「新しい組み合わせを作る才能」は関連性を見つける能力に依存しており、難しい部分です。ここに生成AIを使うことで、思考を最大限に広げられるのではないかと考えています。
生成AIがすべての要素やセンスを完璧に考慮して、そのまま使えるアウトプットを出す可能性は低いです。しかし、いくつかの要素や組み合わせを反映した「それっぽい」ものを出してくれます。それらをベンチマークにして自分の考えを深め、最終的な形を自分で作り上げていくことで、ひとりでゼロから考えるよりも、より良いものが生み出せるのではないでしょうか。
つまり、生成AIには不確実性があるものの、このテクノロジーを活用することで、より大胆な創造に挑戦できるという仮説を持っています。現在、さまざまな環境で試行錯誤するためのコストが大幅に下がり、多くのバリエーションやプロトタイプを手軽に生み出せる環境が整いました。もちろん、生成AIには課題もありますが、これまでリスクが高すぎたり、現実的ではないと思われていたアイデアにも、低コストで挑戦できるようになり、その結果、可能性の幅が大きく広がると考えます。そして最終的には、人間の思考が意思決定の軸となり、そのプロセスで生まれるストーリーや独創性、感情が、さらに創造性を高めるキーになると信じています。
この記事の著者について
SPAAK株式会社の石橋莉子です。小・中学生のための次世代アートスクール「SPAAK online」と、知識情報のためのPinterest「ootoro」をつくっています。常にアイディアとセンスについて考えています。
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