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忘れない、は難しい

後であれやろう、これやろう。でも、すぐ忘れてしまいます。

思い出せたりもするのですが、そのまま思い出せないことも多々あります。もしかすると忘れていることに気付いていない、そんなこともあるのかもしれません。

思い出させてくれる存在が傍にいてくれれば、と思います。


「死にたくない。死んだら忘れられてしまう。それが怖い。」

亡くなった母は口癖のようにそう言っていました。母の遺志を尊重したい、母のことを忘れたくないと思った私は、意識的に母のことを考えていました。ですが、楽しかったはずの思い出も、「母が死んだ」という事実により悲しさと辛さに塗り替えられてしまいます。

母が癌を再発させてから死ぬまで、母と私の思い出の登場人物はほとんどが母と私の2人だけ、そう思っていました。私が忘れてしまったら、母が忘れられてしまう。母と過ごした時間がなかったことになってしまう。その意識から辛くてもやめられませんでした。当時、私は私が母を忘れることを許せませんでした。母を思い出しては、涙が止まらず胸が張り裂けるようで、母親が恋しいと泣き叫ぶ夜が続きました。


母が死んで、もうすぐ3年が経ちます。

今でも日常的に母を思い出します。世界で一番大好きですから、やっぱり忘れたくはありません。ですが、気付かないところで思い出が零れ落ちていると思います。私一人の力では記憶を留め続けることは難しいようです。

以前のように泣き叫ぶことは少なくなりました。楽しかった思い出は楽しく思い出したい、そう考え、心のスイッチの切り替える術をこの3年で身につけました。

これは楽しい嬉しい思い出だから、笑顔で思い出そう。

これは悲しい辛い思い出だから、少しなら泣いてもいいよ。

そういう心のスイッチです。


忘れていた過去を思い出すスイッチも、思わぬところから現れるのだと気付けた3年でもありました。母との思い出を持っているのは、私だけではないのです。当たり前のことですが、気付けるまで3年かかりました。

先日、本当に思いもよらぬところから過去を思い出しました。サプライズが好きな母でしたが、今になって不意打ちはやめて欲しい。まだまだ、貴女が恋しい私は頬を濡らさずにはいられないのです。

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