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自由診療について

とあるCMで癌患者の方が「なんとしても生き抜いてやるって……治療を選ぶ時もしっかりと妻と先生の話を聞きました」とお話されていますが、私はあのCMが苦手です。癌患者の方、皆、きっと同じこと思っています。それでも、生きる人は生きるし、死ぬ人は死にます。奇跡は気持ちの大きさ次第だ、と言われているみたいな気持ちになってしまいます。

私の母は生に貪欲でした。

大切な人が1日でも長く生きてくれるのであれば、最新の医療を受けさせたい。そう思う人は少なくないのではないでしょうか。

少なくとも、私は「是」でした。

私の母は全身に癌が転移している状態、ステージ4、末期の癌患者でした。手術や放射線治療などの局所治療は出来ず、抗がん剤治療を受けていました。沢山種類のある抗がん剤から効果の出るものを探し、効果が続くまで治療を受け、効果が出なくなったらまた次の抗がん剤。診療は一喜一憂の繰り返し。沢山あると持っていた抗がん剤も、使用できるものは日に日に少なくなっていきました。治療の終わりが来る、ということは、もう緩和ケアしか残された手段がないということ。「死」を受け入れるということ。私には受け入れがたいことでした。

何か手はないか。どこかに治療方法があるはずだ。私が母を救うんだ。

そうして行きついた場所が、九州にあるクリニックでした。2018年に亡くなられた女優・樹木 希林さんが通われていた、と噂されるクリニックです。放射線の全身照射を専門とするそのクリニックは自由診療でした。

自由診療とは保険適用外。高額医療制度も使えません。それでも、お金でどうにかなるのであれば、私はそれでよかった。母にずっと隣にいて欲しかった。母も治療を希望していました。

「身分不相応な治療をするな」

そう、兄には言われました。ですが、縋れるものには縋りたい。出来ることは全てしたかった。ただ死に向かうだけなんて嫌だ。その一心で、治療費は私が払いました。当時私は社会人1年目でしたが、そこそこ真面目に貯蓄をしていたので、貯金をかき集めればギリギリ手の届く治療だったのです。

主治医の下で抗がん剤治療を受けながら、自由診療の放射線治療を交互に受けていました。主治医の方は、保険適用外の治療に反対をすることが多いと聞きますが、母と私の意思を尊重してくれた主治医の先生には今でも感謝しています。

結論を申しますと、自由診療で受けた治療の効果があったのか分かりません。大学病院で主治医に余命3年と言われていた母は2年でこの世を去りました。進行の早い癌だったのかもしれないし、放射線治療を受けている間抗がん剤の投薬は中止していたからかもしれません。

母が自由診療を受けたことに後悔はありません。強いて言うのであれば、最期の夏、治療の為とはいえ3か月間母を独りにしてしまったことです。もし自由診療を受けず主治医の下で治療を受けていれば、その間母は大好きな家で少しでも長く過ごせたわけですから。

きっと何を選択しても後悔は残るものだと思います。そうであるならば、行動した理由が未来の自分を納得させることが出来るのか、考えながら少しでも小さい後悔を重ねて生きていきたい。

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