工学部公式Instagramに投稿する女子学生の話
工学部の広報をお手伝いしている修士課程の学生です。
手伝いをはじめてから2年ほど経ったので、これまでを振り返ってみました。
きっかけ
所属研究室のメーリングリストで流れてきたお知らせがはじまりでした。
テックアンバサダーはメタバース工学部(通称 メタ工)という組織に関わる学生TAのことを指しているようで、具体的に何をするのかはわかりませんでした。また、メタバース工学部もなんだかよくわからない響きで、メタバースなのかリアルなのか何なのかは今でもわかりません。でも、工学部に関して中高生への広報や女性のキャリアパス情報を発信するのは楽しそうだな、と思って応募しました。
2022年6月くらいに採用案内が届き、正式に参加することになりました。掲示を見て面白そうだなと思って申し込んだのが5月、採用されてチーム分けをしたのが6月です。
そこから、ダイバーシティについての講演会に出席したり、自分がなぜ工学部に来たのか振り返ってみたり、広報冊子や動画コンテンツに協力したり、中高生向けイベントのスタッフや登壇者をやったりしてきました。
今は情報発信チームで、主にメタ工Instagramの投稿を作っています。
チームのみんな
自分が所属する情報発信チームでは、週に1回ほどの頻度で集まって、各自が持ってきたお昼ご飯を食べ、ワイワイおしゃべりしながら作業しています。メンバーは、主に学部4年生から修士2年生までの学生で構成されており、女子学生と男子学生どちらもいます(女子メンバーの方が多め)。
チームではこれまでに、東大工学部・工学系研究科YouTubeチャンネル「卒業生のリアル」企画、2023年度版Women in Engineering(東京大学工学系研究科・工学部ロールモデル集)発行、韓国の梨花女子大学とのコラボ企画などをしてきました。
2023年の6月から、メタ工公式のInstagramも開始しました。YouTubeほどカッチリしすぎない企画を!ということで、みんなで企画会議をしたり、広報の先生方からの承認フローを整備したりと、少しずつ動いています。
https://www.instagram.com/ut.metaschool/
自分が企画して制作した投稿
メタ工のインスタには、学生が作ったリールズ動画もいくつかアップされています。普段の実験の様子だったり、なぁぜなぁぜを考えてみたり、キャンパスで踊ってみたり、建物を紹介してみたり、ゆるーく日常を投稿しています。
自分が企画・制作した動画シリーズを紹介します。
ハスの葉の表面観察シリーズ
ハスの葉の撥水性(ロータス効果)を確かめる動画です。
きっかけは、TAを担当することになった学部1,2年生向けの体験授業で、ハスの葉の顕微鏡(SEM)観察をしたことです。それならいっそInstagramのネタにしてしまおうと思って作りました。
実際に大学近くの池でハスの葉を採取し、撥水性の確認や、顕微鏡観察結果、他の種類の葉との定量的な比較をしています。
制作の流れとしては、動画撮影後、個人のアカウントで編集、プレビュー画面を画面収録してslackで共有、みんなからフィードバックをもらっています。これはInstagramのBGMが書き出せないためです。FBを受けた後は、先生にチェックしていただき、承認を得たらメタ工のインスタに書き出した動画をアップしてBGMを追加して、指定した日時に投稿します。
先生やメンバーからしっかりコメントやFBいただけたのがありがたかったです。特に、これは面白いですね!とコメントがついた時は、作ってよかったなという気持ちになります。実際に動画を作ってみて、作ったものにポジティブな反応があるのはとても嬉しいものなのだと実感できました。
ハスの葉のロータス効果は、研究ではなく既知の事実を確かめただけですが、「小さい頃から知ってるけど、実際に観察したことはないもの」を自分の手で調べて観察して人に伝えられたのは純粋にとても楽しかったです。
自分は身近な文房具だったり、建物の剥がれたタイルだったり、道端に生えてる植物だったり、世界を作っているモノを見るのが好きです。その中でもスケルトンの文房具が大好きで、「何でできているのか」が一番気になるポイントなんだなと大学に入ってから気づきました。自分の好きなものを追いかけるうちに、理科一類から工学部に入り、今では材料科学の研究をしています。
今回のハスの企画は、自分が工学部に入った原点を振り返るような動画になったなと思っています。
第3弾まであるシリーズものなので、もしよければ見ていってください↓
ここで観察してたハスの葉について、記事にもまとめています。
公開前に承認をいただいている先生方は、もともとInstagramをやっていませんでした。アカウントも持っていない先生方も多く、まだまだ知られていないInstagram企画ですが、これからも少しずつ、自分たちの楽しーいゆるーい動画を上げていけたらいいなと思います。
工学部女子学生であること
こんなふうに、メタ工で広報活動を手伝っていますが、はじめから「工学部の女子率を上げたい!」と自分事として思っていたわけではありません。
女子率アップには、あまり興味を持てないでいました。
それは今でもあまり変わっていません。
それでも、工学部を選んだ以上、これから先もずっと「女性の〇〇」という話題からは逃れられない予感はしていました。女性の先生方を見ていてもそう思います。それならいっそのこと、「女性の〇〇」について今のうちから知見を広げて、自分が納得できること、腑に落ちるところを考えてみたいと思いました。
テックアンバサダーになってから、さまざまな機会を得て、感じたことや考えたことを(やっと言語化できたので)紹介します。
女性3割計画
テックアンバサダーになって最初の頃は、女性3割計画チームに所属していました。具体的に何が起きれば工学部の女子率が上がるか、考えてみるチームです。
なんで自分が工学部を選んだのか自分を振り返って考えてみたり、ダイバーシティ・アンコンシャスバイアスがテーマの講演会を聞いたり、utokyo-womenのslackに参加して#how to increace womenチャンネルで先輩方の話を覗いたり、「なぜ理系に女性が少ないのか」を読んだり、「女性エンジニアをなぜ増やすのか?」で友達と話をしてみたり、マイクロアグレッションについて考えてみたり。
工学部の中でも建築系やデザイン系には女性が多いことや、建築士などの資格を希望する傾向が見られること、そもそも身近なところに工学のロールモデルが少ないこと、インポスター症候群(自分が選ばれたのは性別のおかげで能力はないと思い込んでしまって自信を失うこと)など、今まで気づいていなかったこと、知らなかったことを知るきっかけにもなりました。
人と話すうちに、自分は中高が女子校だったことで、女子に向けた教育を受けてきたことがわかってきました。女性であるあなたたちは、あらゆるステレオタイプ(「女性は家庭、男性は外で働く」とか「女性は理系に向かない」とか)にとらわれる必要はなく、自由に人生を選択していいと、ステレオタイプの存在をはっきりと意識する以前の中高時代から、繰り返し刷り込まれてきました。そして実は、当たり前に皆が言われてきた訳ではないらしいのです。
男女どちらの友人たちとも話ができたことで、身近な人でも当たり前は違うと、改めて知ることができました。率直に話してくれた友人たちに感謝です。
東大工学部の女子率が上がる = 工学部を知る + 理系を選ぶ + 東大を志望する
女子率を上げるためには、単純に理系選択を増やすだけではなく、工学部ではこういうこともできるんだよと、工学部自体を知ってもらうこと、入試の難易度が高い大学にチャレンジしてもいいと思えるきっかけを持ってもらうこと、地方から東京の大学に来てもらうことなども必要です。
単に工学部の魅力を発信するだけでなく、少しずつ違った角度の発信も必要なのではないか、と議論になりました。
そもそも、大学がなんで女子率を上げようとしているのかも疑問で、友人と議論したりもしました。
自分は、100%の気持ちで「女性(同種の人)が増えて欲しい」と思っているわけではないです。正直に言うと、女性が増えて欲しいと思っていると同時に、残りの数%は、今自分が割とやっていけてるから考えたくないと思っている部分もあるし、でも女性が少なくて嫌だったこともあるし、後輩が嫌な思いをするのは良くない気もするし、でも強制的に誰かを連れてくるのも違うし….みたいな小さな思いがたくさん詰まっています。
自分の立場から見ると、大学が女子率を上げようと銘打つのは、男女共同参画基本計画の目標への追従が大きな理由ではある気がします。でもその中にも、これを機会に「うるさい女だと言われるリスクを考えて、言えなくなっていたこと」をやっていこうとしている人も、少子化の時代にさまざまな人から求められる大学になるべきと考えている人も、構成員それぞれが違う考えを持っていそうだなと感じます。「女性の人数」という数字で示される指標の裏に、何重にも、うまく定量的に表せない事柄が含まれている気がします。
卒業生のリアル
「狂ate the FUTURE」の撮影に参加したり、「卒業生のリアル」や「工学部のリアル」イベントの裏方を手伝って、工学部のいろいろな方の話を直接聞く機会に恵まれました。
特に「卒業生のリアル」は、実際の先輩のキャリアの話を聞いたことで、自分の将来を考えるきっかけになりました。先輩たちが、いろんなことにチャレンジして、その時々で壁にぶつかりつつも振り切ってやってきたこと、出産で仕事をしながらの子育てが大変だったこと、実際に話している方を目の前にするとこれがリアルなんだと身に迫る思いでした。
お話を聞いてから数週間は衝撃が抜けず、大学を卒業したらどこに行きたいのか、結婚・出産はいつ考えたらいいのか、周囲の友人や先生に話を聞いてもらって、話を聞かせてもらって過ごしました。自分の道は自分で決めると思いつつ、まだまだ将来は不透明ですが、こうやって考えるきっかけになったのは、自分の中で大きな出来事でした。
どうしても、学内で会う先輩や先生方は、ほとんどが男性です。キャリアの考え方は、同期の女子から聞く考え方とは異なっていると感じます。同じ結婚に対しても、男子学生からは「このままで結婚相手が見つかるだろうか」、女子学生からは「これからのキャリアの中でいつ結婚したらいいか、そもそも自分は子供が欲しいのか」といった話が出ます。立場が違うからこそ、どうしても話が合わないこともあります。そうした状況で、女性の先輩の話は貴重で、自分ごととして捉えられたのだと思います。
工学部のリアル
「工学部のリアル」イベントのお手伝いでは、情報発信チームで仲良くなった子と働いたり、撮影担当が知り合いだったりと、良い雰囲気の現場でした。
これらのイベントは、主に大学の先生方が運営しています。
普段から研究やラボ運営でお忙しい先生方が、所属学科・専攻・研究科の運営だけでなく広報、それも中高生向けのイベントまでやられていることにびっくりしました。ラボに所属すると、教授・准教授の先生の忙しさを目の当たりにします。あの多忙な先生たちが、広報委員や男女共同参画委員などの委員の仕事もされ、その上、人事が1年単位で交代してしまい数年単位の施策も打ちづらいなど、大学の裏側はとても大変なのだと知ることになりました。
Women in Engineering
工学部ロールモデル集「Women in Engineering」の企画にも関わることができました。手を挙げたのは、広報誌の企画って楽しそう!と思ったからです。
いざロールモデル集を作る会議に参加して感じたのは、自分は本当にロールモデルなのか?ということでした。
イベントのたびに「工学部へ進学する女性率UP!」と掲げられ続けて、自分の気持ちとズレがあることに悩んだ時期もありました。
自分は工学部に進んでよかったと思っているし今も楽しく過ごしているけど、確かに辛かった時期も悩んだこともあって、純粋な気持ちでおすすめすることはできない、と思ったからです。完璧な笑顔で「ぜひ工学部へ!」とお薦めするのは気が引けてしまいます。それに、自分は何か突出した経歴があるわけでもなく、自分なりに楽しく学生生活を過ごしてきただけです。
女性の先生とお話しする機会に恵まれて相談してみたところ、「工学部は楽しい」というメッセージを伝えるだけでいいのではないか、と言われて納得できました。それなら自分にもできそう、と思えました。
工学部女子を「代表する」ことはできないけど、自分が良いと感じていることなら伝えられると思います。こんな自分がここにいることを伝えるだけでいいのかもしれません。それをロールモデルと呼ぶなら、自分にもできそうです。大学入学直後に自分が先輩に憧れたように、もしかしたら誰かには素敵に見えるかもしれません。
最近見かけた自分も共感できる考え方があったので、貼っておきます。
Girls be Ambitious
工学部のオープンキャンパス企画「Tech Girl Meetup」や、メタ工主催のイベント「Girls be Ambitious ~東大生と考える進路選択~」、「東大メタ工 × 女子中高生秋祭り」などに参加しました。その中で、登壇したり、質疑応答を担当したり、実際に中高にお邪魔したり、現役の中高生とも話をしてきました。
正直なところ、女子学生が増えてほしく"ない"訳じゃないけど、無理して増えてほしい訳でもなくて、ただ後輩が楽しく生きていってほしいと思っています。
自分は理系の中でも「強い女の子、受け流せる女の子」なのかなと思います。
大学入学後、男性ばかりのサークルに入って、活動場所に女子が自分1人だけで数年間過ごしてきました。
最初の1~2年の間は環境に慣れず、家に帰ってこっそりお風呂で泣いていたこともあります。心からやりたいと思って入ったサークルでしたが、自分は周りより圧倒的に体力がなく、歩くのが遅くて皆に追いつけない、誰も話しかけてくれない、隣に座ってくれない、おしゃべりの輪に入れない、話題が合わない、などなど。精神的にも体力的にもキツい時期でした。
男子校のノリで、女性がいることを考慮されていない発言に傷ついたこともあります。そういう時は、空気を壊さないように精一杯明るくツッコミを入れて、自分を守っていました。幸い良い仲間に恵まれ、率直に伝えれば直してくれて、お互いに気を遣って、居心地の良い場所になりました。でも当時は、自分がこのコミュニティの中で異質な存在であると、日々感じて過ごしていました。そして、居心地が良くなった今でも、その感覚は0にはなりませんでした。
それでも、女性であることで覚えてもらえたり、イベントに参加できたり、選ばれたり、得られたチャンスもたくさんあると思います。進路でも、女性理系キャリアは歓迎されているよ、と言われることもしばしばです。少数派になったからこそ、自分は何者かを考えるきっかけになったし、その場に合った自分の活かし方があると考えられるようになりました。工学部の女性ってお得なんじゃない?と思っている自分は確実に存在します。
その一方で、男性ばかりで生きづらい人の話や、人間関係で悩む人の話、工学の道に来たことを後悔する人の話を聞くと、お得かも?と思っていること自体が申し訳ない気持ちになります。男性ばかりの職場で働く方が「一人で吠えてるような気分になる」とおっしゃっているのを聞いたこともあります。男性の立場から「女子率を上げようとか、学生であるあなたが考えなくてもいいんじゃない?」と言っていただいたこともあります。
女性であることで、一生こういう話を聞いて過ごしていくんだろうなと思うと、なんとも言えないやるせない気持ちになります。同時に、チャンスに感謝したり、自分が強い女子であることに引け目を感じたり、複雑な思いを抱いています。
そうやって上級生になって、ある時、自分自身が男性社会に慣れてしまっているのを感じました。
女子の後輩が「それはセクハラです」と言う発言に対して、自分は「あー、また言ってる」くらいで受け流すようになってしまっていました。「〇〇なんて変わってるね」と言われても、ヘラヘラ笑って気にしなくなりました。どんどん現状に馴染んでいる自分に気がつきました。
それは、自分は痛みを感じなくなって快適ではあるものの、後輩が感じられる、本当の悩みや痛みに鈍感になっているってことです。自分も、ちゃんと立ち止まってみると、本当は確かに傷ついているし、不快に思っていることなのに、やり過ごせてしまっている。女性である自分ならセクハラかどうかわかる、と無意識に思っていたところもあり、気づかなくなっていたことがショックでした。自分がマイクロアグレッションの加害側になってしまうのではないかと、自分が怖いです。
https://youtu.be/QhZdsIRYSqA?si=mOil5mcmp_cBEH1v
まとめ
テックアンバサダーになって、Instagramのリールズ企画を考えることで自分の創作欲を程よく満たしつつ、自分の将来について自分ごととして考えたり、自分が置かれている環境や周りの人に思いを馳せてみたりしています。
自分の当初の目的であった、「女性の〇〇」について自分が納得できることは、様々なことや人を見聞きしながら、少しずつ集まってきている感覚があります。こういった話題で出てくるジェンダー論については、私には全くむずかしくて、触れる時にはかなりびくびく緊張しながらです。これからもそうでしょう。
ここまであまり紹介できませんでしたが、何よりもサークルを引退してラボに篭りがちな修士に入ってから、それまで会う機会すらなかった(女子の)友人がたくさんできたことがすごく嬉しいです。週1のミーティングは、企画を考えつつも、他愛もない話もプライベートな話もどちらもできて、すごく安心感があり、参加すること自体がリフレッシュになっています。