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大人ってなんだ

大学生らしい物語にしようと、今の自分たちにぴったりな「働く大人」をテーマに学生目線からイメージした物語となっています。

この脚本は演劇台本として執筆した作品で、講義内で実際に演じました。

童話をモチーフにした作品がほとんどの中、差異を出すためにオリジナル作品にした我がチームでしたが、多少ヘビーな内容になって演じづらかったところはありました。気持ち的に沈む、みたいな笑


ぜひ主人公を応援しつつ、物語に共感していただけたら幸いです。


【登場人物】
 北川(22)A社の新入社員
 東郷(28)北川の直属の上司
 花澤(28)別部署の憧れの先輩
 鈴木(22)北川の同期 

○居酒屋・内(夜)
   北川、緊張した面持ちで酒を飲んでいる。
北川(M)「知らない顔ばっかで緊張するな」
   北川、辺りを見渡す。
花澤「全然飲んでないじゃない」
   花澤がやってきて、北川の隣に座る。
北川「あ、えっと」
花澤「花澤です。別部署だけど宜しくね」
   手を差し出し、握手をする。
北川「宜しくお願いします」
花澤「もしかして緊張してる?」
   花澤、片手に持っている酒を一口飲む。
北川「そう、ですね」
紅竜「まあそうか、これから仕事頑張ってくださいねっていう飲み会だもんね」
北川「あはは、プレッシャーですね」
   北川、持っているグラスを置く。
花澤「そんな怯えなくても大丈夫よ。それにみんな期待してるわ、あなたたちに」
北川「ええ、そうですかね?」
   北川、頬をかく。
花澤「そうそう。ここにもそんな新人に期待してる大人がいるからさ」
   花澤、笑顔で北川の肩を軽く叩く。
花澤「もし仕事で不安なことあったらいつでも聞くよ」。
北川「あ、ありがとうございます!」
   北川、頭を下げる。
北川「じゃあ早速なんですけど」
花澤「今からかい!」
   北川、花澤に相談し始める。
北川(M)「花澤先輩、優しい人だな。面倒見も良くて憧れるなあ」

○会社のオフィス・内(朝)
東郷「君が北川君?」
   北川、東郷の方を向いて慌てて立ち上げる。
北川「あ、はい。北川です」
   東郷、無表情で。
東郷「君の教育係になった東郷です。宜しく」
北川「宜しくお願いします!」
   北川頭を下げる。握手を待つも、手は差し出されない。
東郷「早速だけど、この資料まとめてくれる?」
   差し出した手に、資料が入ったファイルを乗せられる。
北川「あ、わかりました」
東郷「じゃあ、宜しく」
   東郷、すぐにその場を立ち去る。
北川(M)「え、それだけ? なんか愛想ないな」
   デスクにつく北川。
北川「これが普通なのかな」
   不安そうにつぶやく。


○同・内
   北川、資料を探している。(ファイルの中の)
北川「ここの資料抜けてるよな」
   北川のもとに東郷が来る。
東郷「ちょっと、いつになったらできるの」
   北川はっとして東郷を見上げる。
北川「すみません、でも渡していただいた資料に抜けてる箇所があって」
   北川ファイルを開け、ページを東郷に見せる。
東郷「なにやってんの」
北川「え?」
   東郷、面倒そうに顔をしかめる。
東郷「抜けてるって分かったら、その場ですぐ言って」
北川「あ、すみません」
   東郷、ちらりと部長の方を見る。
東郷「もう少し遅れるって部長に伝えるから、早急にやって。足りない資料は、二階の資料室から持ってきて」
北川「はい。すみませんでした」
   北川、頭を下げる。
   東郷、早足でその場を去る。
   北川、椅子に力なく座る。
北川(M)「確かに俺がすぐに言わなかったのは悪いけど、そんな言い方しなくても……」
   少し顔をうつむかせ、呟く。
北川「はあ、なんかなあ」


○同・昼・内
東郷「ちょっと、ここ間違ってるじゃない」
   東郷、ほかの部下に怒鳴っている。
   北川、ちらりと東郷の方を見る。
北川「またか」
   前に向き直り仕事を再開する。
北川(M)「ここ数日で、東郷さんがどんな人かわかってきた気がする」
   北川手を止めて、少し考え込む。
    × × ×
(フラッシュ)
   東郷が北川のデスクに来る。
東郷「ねえ、別部署の鈴木君だっけ、同期なんでしょ」
北川「あ、はい。そうですけど」
東郷「話に聞くと仕事できるみたいだし、こっちに来てくれたらありがたいのにね」
北川「は、はあ」
北川(M)「え、なんだいきなり。俺に対する嫌味か?」
   北川、肩を落とす。
    × × ×
北川(N)「てなこともあったしなあ」
   北川ため息をつく。
花澤「鈴木君ちょっといい?」
   聞こえてきた花澤の声に北川顔を上げる。
   隣の部署の様子を見る。
鈴木「あ、はい!」
   鈴木が駆け寄り、花澤資料を見せる。
花澤「ここなんだけど、こうした方がいいんじゃないかな」
   二人の様子を北川が見つめる。
北川「良いなああいつは。花澤さんが上司で。同じ先輩でもこうも違うのか、大人って難しいな」
   北川、再びため息をつく。
   その二人の様子を東郷も見ている。
   東郷小さな声で。
東郷「ちっ、仲良しこよししてんじゃないわよ」
   舌打ちをし、その場から去る。


○カフェ・内(夕)
北川、椅子に座ってコーヒーを飲んでいる。
北川「はあ。疲れた」
   花澤がやってきて、北川の肩を叩く。
花澤「お疲れ。なんだか元気ないね」
北川「花澤さん」
   花澤同じテーブルに座る。
北川「その、なんというか、大人ってなんだろうなあって」
花澤「えーなにそれ?」
北川「いや、なかなか付き合い方が難しくて、東郷さんとの」
花澤「んー東郷さんかあ」
   花澤、腕を組んで考え込む。
花澤「私、東郷さんとは同期なんだけど、よく思われてないっていうかね」   北川「……」
   舌打ちをする東堂の様子を思い出して、黙る北川。
花澤「あの人結構頭ごなしで怒るでしょ、それでみんなも怖がっちゃってるところあってね」
   花澤、持っているコーヒーを一口飲む。
北川「……正直めちゃくちゃ怖いですけど、でも、これが社会の荒波に揉まれる、みたいな? 普通にあることなのかもなと」
花澤「いやいや。そりゃそういう人もいるけど」
   持っているコップを机に置く。
花澤「北川君はさ、組織の中の大人ってどんな人のことだと思う?」
北川「え、いきなり難しい質問ですね」
花澤「北川君のさっきの質問と同じようなものよ」
   花澤がふっと笑う。
北川「うーんやっぱり仕事できる人ですかね」
花澤「それはもちろんだけど、私は違うと思うんだよね」
北川「じゃあ花澤さんの思う大人ってなんですか?」
   北川、花澤の方へ向き直す。
花澤「私は、自分の思うところまで上手く誘導できる人かなって思うよ」
北川、少し首をかしげる。
北川「というと?」
花澤「誰しも自分の考えって持ってるものでしょ? だけど絶対的にその考えが通用する訳じゃない」
   花澤、机に置かれたコップに指を添える。
花澤「だから、周りの人と上手く付き合って、協力体制を作るのよ」
北川、眉間にシワを寄せ考え込む。
北川「つまり?」
花澤「東郷さんと上手く付き合っていく方法は、相手の体勢をうけ入れつつも、自分の考えがあるなら遠慮せず周りに発信していくべきってこと」
北川「……分かったような分からないような」
花澤「今はそれで大丈夫よ、きっとこれから少しずつ分かっていくから」
北川「精進します」
   花澤少し笑って。
花澤「頑張って。それに、君が思ってるほど東郷さんは大人じゃないわよ」
   席を立つ花澤。
花澤「じゃ、休憩時間終わるから、北川君も遅れないように」
   花澤その場から立ち去る。
   北川慌てて立ち上がる。
北川「あ、ありがとうございました !」
   再び椅子に腰掛けつぶやく。
北川「……やっぱり大人って分からない」


○オフィスの廊下・内(夕)
   北川伸びをしながら。
北川「あと少し頑張るか」
   社員二人が北川とすれ違う。
社員A「怒られてたって、東郷さん」
社員B「あれ、前もじゃなかったっけ。仕事できそうに見えて、案外そうじゃないのかもね」
   北川、二人の会話に足を止め社員二人を見送る。


○オフィス・内(夕)
   東郷、苛立った様子で仕事をしている。
   北川、東郷のデスクへ向かう。
北川「お疲れ様です。頼まれた案件できました」
   東郷、怪訝そうな顔で北川を見る。
東郷「お疲れ。そこ置いといて」
   東郷、ぶっきらぼうに返事を返し。再び仕事に戻る。
北川「分かりました」
   北川、デスクに資料を置き、その場を後にする。
   ちらりと東郷を見ながら。
北川(M)「思ったより大人じゃない、か」


○同・内(夕)
   北川、自分のデスクに座り、仕事をしている。
北川(M)「相変わらず、東郷さんには怒られっぱなしではあるけれど、あの時から何か自分の中で吹っ切れた気がする」
   東郷が北川のデスクにやってくる。
東郷「北川君、さっき頼んだ仕事できた?」
北川「あ、はい。終わってます。でも、指示があったところ分かりにくかったので、自分なりに変えてみました」
東郷「え、あれでいいって言ったじゃない」
   東郷少し声量を上げる。
北川「でも他の先輩や部長にも見ていただいて、良いって言ってもらえたので」
   東郷、怪訝そうな顔をする。
北川「でも、それが提案できたのも東郷さんが資料をまとめてくださったおかげなので、ありがとうございました」
   北川、頭を下げる。
   東郷、不服そうにしながら。
東郷「そう、なら良かったじゃない。じゃあお疲れ」
   早足でその場から去る東郷。
   北川、目の端で東郷を追いながら。
北川(M)「上手く付き合う、か。果たしてできてるのかは分からないけど、少しでも大人に近づけてたら良いな」

○同・内(夜)
   北川、デスクを片しながら帰り仕度をする。
   隣の部署から花澤がやってくる。
花澤「お疲れ」
北川「お疲れ様です!」
   立ち上がる北川。
花澤「もう上がりだよね? この後よかったら飲みに行かない?」
北川「ぜひ!」
   北川、PCを閉じてその場を後にする。


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