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連載:城東の奇跡~大激戦!東京15区選挙レポート 第18節:聖人

 我々が歓喜の渦に包まれている中で、開票立会人として深夜まで裏方仕事に従事した方がいるのを忘れてはならない。

 立憲民主党、江東区唯一の区議、高野はやとさんだ。高野さんは、1982年生まれ。母子家庭で育ち、ベンチャー企業勤務を経て、蓮舫参議院議員秘書を務めた。江東区東雲在住(東雲イオン前での街宣の反応が湾岸エリアにしてはよかったというのはこれが要因だろう)。2021年の東京都議選に出馬し、惜敗。2023年春の江東区議選で初当選し、諸事情で唯一になってしまった立憲江東区議として、ひとりで4議席分の働きをしている。高野さんの熱いところは、自分のビジョンを、たとえ多勢に無勢でも貫くこと。2023年12月の江東区長選に酒井なつみさんが出馬する際には、当時の会派で酒井さんの支持を表明したのは高野さんだけであったが、まったくぶれることなく、始終酒井さんを支えた。そののち高野さんは新たに「立憲民主党・市民の声」と名の付く会派を組み、江東区自民党の汚職問題に他党派とともに解明を求めている。「古い政治ときっぱり決別」「まっとうな政治へ」を体現する人だ。高野さんの魅力は、弱者の味方でありたいというところ。有権者の声もそうでない人の声もしっかりと耳を傾けるところ。子どもにも気さくに話しかけるし、高野さんのもとには自然と人が寄ってくる。選挙期間中は、度重なる妨害にも陣頭指揮の立場から最後まで酒井なつみさんを守り抜いた。他方で、非常にユーモラスで、演説も弁が立つ。一緒にいて飽きさせない。お笑いがお好きだというが、笑いの神に好かれている感じがする。場を盛り上げるのが上手い。江東区議会の立憲をひとりで切り盛りする力はやはり尋常ではない。開票立会人も自ら務め、まさに八面六臂の働きだ。

 酒井さんの当選が決まり、一夜明けて、高野さんは早速政治活動を再開したようだ。前夜の開票立会いもありお疲れだろうに、もう「次」を見据えている。前夜のNHKの江東区における出口調査で、立憲民主党の江東区における支持率は11%であった。維新の8%よりも多い。支部長が長らく不在で都議もおらず、区議が高野さんひとりだった状況でこれは予想外だった。昨年の区議選でも5人の候補のうち2人が苦杯をなめた結果だったのだが、1年の間に世論は確実に変わっている。そして、いつにもまして分厚い無党派層(40%以上)のうち最も多くが期待したのが酒井さんであった。もちろん、政治とカネの問題という「風」もあろうが、雨の日も風の日も江東区中を回り続け立憲ブルーの旗を掲げ続けた高野さんの存在は大きいだろう。
 そんな高野さんによる「酒井なつみ当選報告街宣」を聴きに豊洲に向かうこととした。
 もうじきお別れの選挙ポスターを改めて眺める。9人による混戦の中で、酒井なつみさんが選ばれたのだという感慨を改めてかみしめる。これから江東区の代表として、どんな活躍を繰り広げてくれるのだろうか。

 演説の会場にはもうひとり、私と旧知の間柄である熱心な支持者の方が来ており、島根長崎も含めて立憲が3勝出来て本当に良かったと喜びを分かち合った。
 そこへ高野さんが登場。「さっき、自転車回していて後ろに誰かいるなと思ったら、共産党の皆さんでした。」と言って、颯爽とやって来た。そういえば、その少し前に共産党の街宣車が目の前を横切っていくのに手を振ったところだった。
 高野区議の「江東区かわら版」というその日のニュースを告知するボードには、「酒井なつみ初当選」という見出しが躍っていた。高野さんの演説も、第1声は、「皆さま、昨日行われました衆議院補欠選挙で、立憲民主党の酒井なつみが当選しました。」という当選報告。「選挙が終わりましたので、今日から高野はやとの政治活動を再開させていただきます。期間中は大変お騒がせを致しました。」そんな高野さんに、早速「おめでとう」という声や、かわら版にまじまじと注目を寄せる人が。勝ったことは着実に力になっている。酒井なつみの名前を、今回投票した方にも、投票されなかった方にも、あるいは投票に行かなかった/行かれなかった方にも、しっかり告知しようと高野さんは熱心に活動していた。

 街宣が終わった。私たち二人が高野さんに拍手を送ると、
「ありがとうございました。いや~、ホントうれしいわぁ。最高!」
 高野さんは、誰よりも酒井さんの当選を喜んでいた。私から昨晩の事務所の様子をお話すると、高野さんは自分のことのように喜んでいたし、その場にいられなかったことを残念そうにしていた。
「ところで、おふたりは政治家になろうとか考えたことはあるんですか?」
 高野さんから質問を受けたが、私は今のところそんなつもりもないと答え、もうひとりの方も首を横に振った。
 すると高野さんはしみじみとこう言った。
「あら、私ね、政治家になろうとも思わないのにここまで熱心になってくださるのはもう聖人だと思いますよ。」
 いや、何をおっしゃるのですか。聖人というのは、高野さんのことを言うのですよ。江東区のたったひとりしかいない立憲区議として、立憲の宣伝活動を日々行い土壌を作り、千載一遇のチャンスを見事に勝ち切る原動力となったのですから。高野さんなくして、東京15区のこのミラクルは起こり得なかったでしょう。

「じゃあ、またよろしくお願いします。相手も早速地元周りしているようだし、今から動かないと。」
 高野さんはそう言って、夕暮れの豊洲をあとにしていった。

 今回の選挙の勝因は、この「聖人」高野さんもそうだが、様々な要因があった。世論調査や出口調査も活かしながら、私の独自の考察を加えていきたい。

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