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連載:城東の奇跡~大激戦!東京15区選挙レポート 第14節:共闘

 投開票日が間近に迫った金曜日、私は亀戸の街宣へと向かった。

 この日の街宣は、市民連合主催の野党合同街宣。告示直後にも1度行われていたが、運悪く出席かなわず。そしてこの日は日程非公開であったため、関係者のほかはまさに「その場で偶然見かけた人」が聴取しているということになる。私は幸いにもほぼ真正面の特等席にありつくことができた。
 応援弁士は、江東市民連合の宇都宮健児弁護士、立憲民主党の野田佳彦元総理、小池晃共産党書記局長という錚々たるメンバーである。特に、「保守系」としてよく知られる野田元総理が共産党の議員と街宣カーに乗るという光景はなかなか壮観であった。
 演説会は盛り上がった。唯一のアンラッキーなことと言えば、亀戸駅前の工事にぶつかってしまったことで通行人の動線確保がかなり難しかったことであった。所せましと立憲民主党、共産党、諸派、市民連合、一般の皆様が埋め尽くす中で手塚よしお幹事長の司会のもと街宣は行われた。ボランティアのリーダー格の方によると、「立ち止まって見始めた未決定の方に酒井なつみさんの魅力を知っていただくことができた」というように、街の関心を惹きつけることができたようである。
 酒井なつみさんはいつもながら優しい口調だが、いつになく演説に熱が入っていた。大好きな江東区が汚職にさらされていることに対する憤りと江東区の暗黒時代を終わらせんという気迫を落ち着いた語りの中にも感じた。

 翌日、つまりは投開票日前日には北砂アリオ前で江東区市民連合による合同街宣が開かれた。地元の立憲、共産、諸派の皆さん(共産党の小堤さんもいらっしゃり、ご挨拶した)やボランティアが集まり、にぎやかな催しであった。市民有志によるスピーチは、介護、ジェンダー、中小企業の困窮などの問題を当事者の観点から赤裸々に語っていただいた。私もブルージャンパーを着ながら「投票に行こう」というメッセージのプラカードを引っ提げ、アリオにお買い物に来る方々や前の通りを通行する方々への手ふり、アピールを行った。こうした形の街宣はとかく「無党派層が忌避する」として忌避する人たちもいるが、実際には森下や門仲などで行われた立憲単独の他の街宣とビラの受け取りや注目度にさしたる差は見られなかった。それどころか、アリオ前を通った車いすの人に付き添いの方が、「あ、まにわさんよ(間庭尚之江東区議、高野はやと江東区議と同じ区議会派)」と気付いていたり、お買い物に来る家族連れの方が夫妻でそろってビラを受け取ってくださったり、街宣を後方からじっと聞いてくださる方がいたりと反応は良かったのだ。この反応を見た私も、今回の野党共闘は順調だとの認識を得られた。

 ここで、野党共闘について振り返りたい。
 今回の3補選では、東京、島根、長崎で立憲民主党と共産党が候補者調整を行い、いずれも立憲民主党の候補に一本化した。
 共産党がそれほど前面に出ていなかった島根と長崎とは異なり、東京では共産党も、そして社民や諸派の皆さん、市民連合やフェミブリッジの皆さんもかなりはっきりと酒井なつみさんの宣伝活動を行った。既に第11節において述べたように、本人無し街宣や独自の宣伝活動をかなり活発に行い、妨害の影響で日程公表がかなわない中でも酒井なつみの名前を江東区のいたるところに響かせてくれた。時には、酒井なつみさんが妨害を受けたときに、そうした市民の皆様が身を挺して止めてくださったこともあると聞く。街宣のみならず、電話かけや支持者、有権者への呼びかけ、ポスター貼りにおいても共闘陣営の皆さんの影響が大きかった。共産党ポスターの横に酒井なつみポスターが貼ってあるのを何軒も目の当りにした。「今回は共産党出てないから選挙いかない」と言っていた方を投票所まで連れ出すことに成功したこともあった。こうした収穫があってなお些細なことで共闘陣営を論う向きがあるのは残念なことであるし、何より一本化に向けて尽力した地元の多方面に対する冒涜侮辱と言わざるを得ない。江東区の立憲民主党は4月3日までの時点で支部長無し、都議無し、区議ひとり。これでどう独力で戦えというのだろうか。勝てても負けても共闘陣営の他のメンバーに責任をなすり付けようとする人ほど現場をよく見ていないというに尽きる。中には、党内のある中堅議員が東京のこうした明確な共闘について「まあ東京は共産党の票がないと勝てないからな」と半ば嘲笑うように発言したこともあったが、その議員もまた希望の党に入党して臨んだ2017年の衆議院選では小選挙区で議席を落としており、次の選挙で共産党との一本化で選挙区の議席を回復しているのである。
 また、こうした選挙戦術を「自己満足」「無党派に広がらない」と言うなら、私にはそれよりもよほど思い当たるパターンがある。例えば、今回の街宣でもなかったわけではないが、最終日にかけて各地から応援が入る中で同じ党の仲良しな関係者同士でビラ配り中もずっと喋っているなど候補者を勝たせることよりも内輪の交流に意識が向いている(内部の会合でやってくださいという話)、演説が終わり次の陣営がすぐそこに来ているにもかかわらず記念写真や内輪でのおしゃべりに明け暮れ片付けのひとつもせずはけもしない……これらは陣営にいる私でも気が引けるし、動線確保もできないので通行する方にも悪影響である。あるいは、各地から応援に来た議員のリレートークをえんえんと続けるだけの一方通行街宣、果ては地元の人には誰ともわからない関係者来賓の紹介(〇〇区議会議員、××さん、続いて◇◇区議会議員、△△さん……というように。卒業式の際に、普段会いもしない背広のオッさんたちを延々と紹介されて興醒めしたことはないだろうか。それと似た感覚である。支持者や知人でもない限りそうした紹介をされても何も感じるところはない。2年前の参議院選でも私がボランティアに入った陣営は前半このパターンで非常に反応が悪く、後半に有権者との対話集会でいくらか好転したのだった。ちなみに目黒区長選でも都民ファースト推薦で落選した候補の陣営がこのパターンだった)……。今回の選挙で言えば、「無所属」候補が都知事やその一派とともに(いくら警備上の理由があったとはいえ)異常な多さの警察部隊を配備して大がかりに演説会を実行していたが、むしろ一般市民からすればそうした「ものものしさ」の方が異様に映ったのではないか。
 黄緑色のジャンパーで統一感を出す陣営を見習えという向きもある。確かに、こちらも立憲ブルーを来たスタッフやボランティアがビラ配りをして統一感を出していた。更には、共産党の小堤さんをはじめとする皆さんがブルージャンパーを着用するなど、かなり協力を賜っていた。他方で砂町銀座を、立憲ブルーのジャンパーを着た人もそうでない人も皆自然と一体になって歩いた光景のような「一色に染まらない」良さもまた「見せ方」としてはありなのではないか。常日頃は別の党派である我々が酒井なつみを押し上げようとそれぞれの舞台で自分なりに訴え、時に上記合同街宣のように演説を行い一体感を出した。市民スピーチなどは演説手法や見栄えは決して洗練されたものではないかもしれない。だが、見ている方は見ている。
 後日、地元市民連合の方と振り返る機会があったが、「程よい距離感でできた」というのが率直な感想である。私たちは党派も細かな主張も異なる部分はある。しかし、その違いを乗り越えて一体となって「酒井なつみ」を江東区にアピールした。皆が酒井なつみを中心に、手を繋いでいた。そしてそのエネルギーはしっかりと内から外に向かっていたのだ。

 こうした多様な応援を力に、気付けば酒井なつみさんと歩んだ選挙戦も最終日になっていた。

長い補足;市民がプラカードを持ったりスピーチする街宣についてはたびたび、「無党派が引く」「保守が取り込めない」「自己満足」と言われる。野党支持者なかんずく立憲支持者にそれを唱える人もいる。その心理自体は想像に難くない。要するに、「一般市民が政治的主張をするのは『意識高い系の怖い人』に見える」という私たちなら大なり小なり持っている意識が働いているからである。相当政治に入りこんでいる人であっても、日常で政治の話をすることに気が引けてしまうということも多いだろう。本来そこまで主張に隔たりのないはずの人達に対して、政治に触れることをタブー視するそうした心理を発動して遠ざけてしまう、というのがこうした街宣への懐疑的な声の正体ではないか。近頃、お笑い芸人や元アイドルがデモを冷笑して物議を醸しているが、私も含めて誰もが一市民として政治的主張を行うことにどこか引け目を感じていることにつけ込んでいる面があるからこそ一定の受容を得ているのではないか。では、先述したスタイルの街宣を否定して「市民は余計な主張をせず黙ってろ」「ただ街宣を聴いているか後方支援に徹しろ」というのが最適解なのだろうか。ただひたすら陣営の手足として動いてさえいれば良いのか。私は、そうした姿勢こそが「草の根からの民主主義」に逆行するものだと思う。ネット上の匿名空間で放言するのみならず、黙せず、実世界でも勇気を出して「声をあげることへの抵抗」に抗い、皆のことを考えてくれる政治家を国会に送り出すべく努力し、あるいは皆のことを考えていない法案や政治に対峙することが肝要なのではないか。そして、それこそがまっとうな市民本位な政治への第一歩となるのではないか。もちろん、実現には道は平坦ではないし、意見の隔たりもあろうが、私は市民がひとりひとり声をあげることの可能性を信じたい。今回の場合は皆が「酒井なつみさんを送り出す」という明確なコンセプトのもとにひとつになった。他の陣営ならば成し得なかった「多様な力の結集」を、次回以降より良いものにしていくべく、私も策を練りたい。


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