日本語では読めない日本人作家? オガワユキミさんインタビュー
*English translation is available here!
東京在住のオガワ・ユキミさんは大学時代は英語を専攻し、現在は会社員生活のかたわら英語で小説を執筆している。彼女の作品はFantasy & Science Fiction、Strange HorizonsやClarkes Worldといった英語圏のSF・ファンタジー雑誌に掲載されてきた。”Town’s End”(2013)はLocus誌の短篇小説時評でリッチ・ホートンに高く評価され、彼の年刊SF・ファンタジー傑作選(The Year's Best Science Fiction & Fantasy, Ed. Rich Horton, Prime Books, 2014)に収録された。母語が日本語の日本人作家が英語圏の年刊SF・FT傑作選に掲載された先例はあるものの(※)翻訳ではない小説が掲載されたパターンは知る限り初のはずだ。
(2019/05/29 23:40 加筆修正:翻訳が掲載された先例としてはBest Science Fiction for 1972 (Ed. Frederik Pohl, 1972)収録の光瀬龍「落陽2217年」やYear’s Best SF 5 (Ed. David G. Hartwell, 2000)に収録の菅浩江「そばかすのフィギュア」(tr. by Dana Lewis & Stephen Baxter)がある。)
本インタビューは東京都八王子市で、もちろん日本語で実施した。(インタビュアー:橋本輝幸)
Rikka Zine (以下RZ) オガワさんは2009年ごろから英語で書かれたSF・FT雑誌を読むようになったそうですが、投稿をスタートしたのも同年ですか?
Ogawa Yukimi (以下OY) どうなんだっけ。投稿を始めたのは2010年かもしれない。
RZ: デビューは2012年ですよね?
OY: そうですね。
RZ: 最初にStrange Horizons誌へ掲載されたのが2013年ですね。私はそのときに初めて、オガワさんの存在に気づきました。
OY: 私もそのとき初めてエゴサというものをして、私の話を読んでいる人がいる!と気がつきました。
RZ: 投稿されるにあたって傾向と対策を検討されたと思うのですが、まず投稿する媒体はどうやって探したのでしょうか? まさかGoogleで「SF ファンタジー 雑誌」で検索とか。
OY: 最初はほぼそんな感じで(笑)初めて知った雑誌が、恐れ多くもF&SFでした。
RZ: それは、著作が掲載されたときは感慨もひとしおだったでしょうね。
OY: 日本で手に入る(英語圏のSFF)雑誌というとF&SFくらいしかなかったんです。それでF&SFに投稿して、でも、いきなりどうにもなるわけないじゃないですか。
F&SFをどうやって見つけたかは覚えていないんですけど、その後はDuotropeというデータベースを発見して、それでSF・ファンタジーを載せているところを探しました。日本にいるので、できればウェブ媒体という条件で投稿を電子で受けつけているところにしぼると、だいぶ限られました。
RZ: 約10年前というと、まだ紙にタイプして送らなければいけない雑誌も多くはありませんでした?
OY: F&SFは結構最近まで、紙で送らなければいけませんでしたね。
RZ: ストレンジ・ホライズンズは2008年ごろ立ち上げられたウェブジンです。2010年当時はちょうどウェブジン文化が花開くときでしたよね。
OY: そこはタイミングがちょうど良かったのかもしれませんね。
RZ: 自作を英語圏の雑誌に投稿すると決めてから読み始めたんですか?
OY: 雑誌はそうですね。
RZ: 単行本は元々英語で読んでいました?
OY: 社会人になって、通勤のとき本を読みたいと思ったときに、大学卒業して以降は英語とあまり関わらなくなっていたので、英語の本を読み始めました。
RZ: 投稿先はひとつのところに集中というよりは、ストレンジ・ホライズンズをベースキャンプに、あちこちに出すというスタイルですね?
OY: (ストレンジ・ホライズンズは本拠地に)なっているとは思います。私にとって大事な場所ですね。妖怪ものを書くと、なんとなくストレンジ・ホライズンズに送ることにしています。
RZ: 小川さんは日本の雑誌に掲載されたこともあるそうですが……?
OY: 掲載されたことはあるんですが、14歳のときとかで本当に昔です。
RZ: 『詩とファンタジー』ですか?
OY: よくご存じで。『詩とメルヘン』ですね、そのときの雑誌名は。『詩とメルヘン』が休刊になって、それが『詩とファンタジー』になったんです。
RZ: 過去のインタビューで、やなせたかしが編集していた雑誌に掲載されたとおっしゃっていたので特定できました。初掲載はそんなにお若いときだったんですね。
OY: そのころはガーッと書いていて、高校や大学のときは一回書くのをやめていました。だから、ずっと書いていたというよりは(社会に出てから)新たに書き始めた感じです。
RZ: 『詩とメルヘン』への投稿は、初投稿かつ初掲載でしたか? それとも何回か投稿に挑戦されましたか。
OY: 何回か出しました。そもそも日本の雑誌って基本、採用にならないと返事をくれないじゃないですか。今もそんな感じですかね? どうなんでしょうかね。
RZ: 今はさすがに、新人賞であれば、二次選考以降は希望があれば編集者のコメントを返しますという出版社もあります。どこも優秀な新人は欲しいでしょうから。
OY: そうなんですか。当時は送ってはいつ来るかわからない返事をじっと待つばかりで、悲しい時代でしたね。
RZ: 先ほど、投稿先を探すときに、SF・ファンタジーのジャンルでしぼりこんだと言っていましたが、ホラー雑誌は探さなかったんですか?
OY: 当時は、自分の書くものがホラーだとは思っていなくて、ファンタジーだと思っていたんです。そうか、ホラー雑誌も探していたら、もっと早くどこかに掲載されたんですかね。
RZ: どうでしょうね。ホラー者の人たちも「これは怖くないからホラーではない」とか言うんですかね(笑)
OY: ホラーは定義というか、境界線がちょっと、わかんないっちゃわかんないですね。
RZ: ホラーといってもスプラッタ系もありますし。上品なホラー向きの媒体ってありましたっけ?
OY: 投稿要項にスプラッターとかそういうのはいらないと書いてある雑誌を見かけたおぼえはあります。そういうところなら、私のようなホラーだかファンタジーだかわからないような作風でも良かったでしょうね。
RZ: でも実際、小川さんの作品にはストレートなSFはそれほど多くなく、"Nini"等いくつかを数えるのみですね?
OY: そうですね。最初は自分の作品をSFとも正直思っていなくて、どっちかというとファンタジーだと思っていました。単にSFを募集しているところは、大抵ファンタジーも募集しているから、SF誌を探していただけです。私も、自分が書いているものはファンタジーだと思っていて、SFを書くことはないだろうと思っていたら、だんだん……。Book Smugglersで"Nini"より前に最初に小説が採用されたとき(In Her Head, In Her Eyes from Book Smugglers Publishing)私は完全にファンタジーだと思って書いていたので、発表時にSF/Fantasy/Horrorだと書かれて「あ、そう?」ってなりました。そのへんから、だんだんSFチックなものも書き始めた気がしますね。
RZ: 確かに、初期に比べると、むしろ最近のほうがSF色がありますよ。"Nini"は、あれこそSF/Fantasy/Horrorだと思うんですが。(インタビュア註:″Nini″の語り手は老人たちの相手をするロボットだが、強引に餅を渡されて喉を詰まらせたり、無理に酒を勧められて大変なことになったりする。神社に祀られし神も出てくるし、予想以上にダークな展開が待ち受けている。)
OY: あれは最初はコメディくらいのつもりで書いていて。
RZ: 私もてっきりコメディだと思って読み始めたら、最後はあんな展開になったので驚きました。
OY: うるせえジジイとババアに振り回されるコメディのつもりで、バーッて書いているうちに、ラストにいったら、気づいたらめっちゃホラーになってました。勢いで。
あれは、自分でもああなる予想は全然していなかったです。だいたい、なんとなくエンディングを考えた上で書き始めることが多いんですが、あれはほとんど何も考えずに書いていたらああなった。
RZ: 舞台が日本かどうかもわからないパターンや、明らかに日本ではなさそうだけれど、日本の要素もある話が多いですよね? 時代も特定ができなかったりします。そのあたり、なにかポリシーがあるんでしょうか?
OY: 単純に面倒くさいからですね。こう言ってはなんですけど、特定されて「この時代にこれはおかしい」と言われるのを避けたくて。「うるせえな、ファンタジーじゃん」ってなるじゃないですか。どうしても日本人なので、名前や物の雰囲気は日本っぽくなりますが、どこでもない場所として書くことが多いですね。
RZ: 作中登場人物の外見も、具体的な描写がないですよね。
OY: あまり意識はしていないですけど。日本はそんなにいろんな人種がいるわけではなくて、だいたいこういう髪の色、目の色、肌の色というのが一緒になっちゃうんで、たぶん説明する必要が私の中に湧き上がってこないんだと思うんです。
RZ: 寓話とかおとぎ話のような味わいなんですよね。キャラクターや舞台は用意されているけれど、細部はぼやけている。
OY: そうかもしれません。そのほうが私自身の居心地がいいというか、書いていて楽なのかもしれないですね。
RZ: 小川さんは留学はされていないんですか?
OY: いえ、留学は一応、高校のころに10ヶ月くらい。でも10ヶ月って変な期間で、たとえばあと2~3ヶ月あると、もうちょっとしゃべれるようになってたような。でも10ヶ月だと、もうちょっとで言語というものをつかめそうになったあたりで「はい、帰りなさい」となってしまって。もうちょっと長くいたかったですね。
RZ: 行った場所を聞いてもよろしいですか?
OY: はい、イギリスです。田舎町でした。英語ができない人が田舎に行くと大変ですね。私は高校のころ、別に英語はしゃべれないですけど、でも得意ではあったので、成績も良かったし、そこそこ通じるだろうと思って行ったら、もう何を言ってるか全然わからない(笑)
結構人によってもアクセントが違いますし。アクセントは地域差も激しいし、階級やルーツのためかわかりませんが、人ごとの差が激しかった。
RZ: SFイベントへの参加は、日本のコンベンションが先でした? それともいきなりワールドコンに行かれましたか?
OY: どうだったかな。最初にはるこんに行って……確か、練習と思って行きました。アンレッキーがゲスト・オブ・オナーのときです。その数ヶ月後にワールドコンに行って、惨敗しました。
RZ: 惨敗って(笑) 何があったんですか?
OY: とにかく具合が悪くなっちゃって、なんにもできませんでしたね。
RZ: それはつらい。
OY: 英語もみんな結構なまっていて、理解が難しかったです。
RZ: 同じアンソロジー収録された作家や、担当編集者と話したりはできましたか?
OY: もっとちゃんと、いろんな方と話せばよかったんですけど、具合の悪さプラス、具合の悪さによるアタシ駄目だわ感がこう、強くなっちゃって。すごいがんばってエレン・ダトロウさんとは少しお話ししました。
RZ: おお、ダトロウさんとは何を話しました?
OY: 会えてよかったって言われて、うれしくなってニコニコしてたくらいです。「ありがとう」って(笑)
あとはC・C・フィンレイ(F&SF誌編集長)さんとも会いました。路面電車みたいなのが走っている街だったんですが、朝それに乗ったら長髪のおじさんがいて、あれチャーリーじゃね?って思ったら、やっぱりチャーリーでした。同じ場所に向かうので、後ろからついていく感じになっちゃったんですが、たぶん私が不安げな感じでオロオロ歩いているのを見て心配になったんでしょうね。会場へ入ったところで戻ってきて、受付はあっちだよと教えてくれました。そこで名札をみたら、やっぱりチャーリーさんでした。一応そのとき、ユキミですって自己紹介しました。
それからRose Lenbergと、そのパートナーのBogi Takácsとも会いましたね。
RZ: なにか印象に残っている企画はありますか?
OY: 具合が悪いせいであまり観られなかったんだけど、アン・レッキーの、あのときまだ書いている途中だった本の冒頭の朗読を聴いたんですけど、彼女はとにかく読むのがうまいんですよ。はるこんでもそうだったんですが、すごくうまいんです。ふつうにみんな笑ってるし。あれができるって、すごく有利だと思いましたね。
RZ: ただし日本では書店で朗読する文化がないから、仮に持っていてもあまり活かせない利点ではありますね。文化の差は色々ありそうですが、他になにか小川さんが気づいた違いはありますか?
OY: 私は、わからないというか、日本の文芸界のことを知らないんですよ。日本でも書店での朗読やればいいのにね。でもあれか、恥ずかしいか。日本人的には恥ずかしくないですか? 人がいっぱいいる中で読むってのは。あと、詩とかならともかくSFを読むって難しいですよね。どこの部分を読めばいいのかとか。
RZ: アン・レッキーの『叛逆航路』から始まる《ラドチ戦史》三部作は読まれていて、お好きなんですね?
OY: そうですね。
RZ: 他に英語圏で好きな作家はいますか?
OY: 基本的にそのとき読んでいて面白いと思った作家を好きって言っちゃいがちなんです。ああ、でも、N・K・ジェミシンはすごい好きですね。
あとは誰だろうな。読んでいるときは本当に好き!って思っても、結構読み終わった後に名前を忘れがち。
RZ: では、日本人作家とか、児童書のお気に入りはありますか?
OY: そういうのもなくて。読んで「面白い、はい次」で作家名や題名は忘れちゃうことが多いです。
RZ: 覚える習慣がない?
OY: そういうことでしょうね。
RZ: 私も昔は全然覚える習慣がありませんでした。大学に入って、少し他人と本の話をする機会ができて初めて、覚えるようになりました。
OY: ああ、覚えていないと他人としゃべれないわけですね。
そうかそうか、そりゃそうだ。私は本についてしゃべるのは苦手なんですよね。私は好きな本についてもすごく的外れなことを言いがちみたいなんですよ。それが何回か続いたので、ちょっと私は人と本の話はしちゃいけないかなって。周りに、同じ本を読んでいる人がずっと基本的にいない状態なんで、全然本のことを話すのに慣れてないです。
あ、あと最近はマーサ・ウェルズが好きですね。
RZ: 《マーダーボット・ダイアリーズ》ですね。(※東京創元社から近刊予定)
OY: (マーダーボットが)かわいい。
RZ: イベントに行ってみて、リアルのイベントはやはり良いと思いましたか? それとも正直、リアルはもういいやって思いました? どちらの気持ちが強いでしょう。
OY: 私がしゃべらなくてもよくて、ただその場で皆さんが話しているのを観てニヤニヤしていてもいいなら、参加するのも良いんですけどね。カモンって言われたらノーサンキューってなると思う。元々の性格で、苦手なんです。
RZ: じっくり書くのと即興で会話するのでは、要求されるスキルも違いますからね。
OY: しゃべるよりはじっくり考えたいですね。橋本さんは前は結構、人前でしゃべってませんでしたか?
RZ: 一時期はしゃべってましたが、今はそういうプロらしい活動は何ひとつやっていません。本を読む量も落ちましたし。通勤が頻繁に乗り換える感じで、短編しか読めなくなりました。短編なら降りる前に1本読み切れるから。
OY: 私は読むのが遅いので、長編なら途中で止めてもいいけど、ショートストーリーは一気に読みたいです。だから最近は長編ばかり読んでいて、逆に雑誌をあまり読めていないです。
RZ: 今もまだ新しい投稿先を開拓し続けていますか?
OY: うーん。基本的に読むのも書くのも遅いんで、1作を終わらせるまでにすごく時間がかかるんですよ。そうすると、ここのところ年に一回くらい執筆依頼をいただくことがありまして、その依頼にひとつ割くと、あと年間1つか2つくらいしか書けないですね。そうすると、これは妖怪ものだから、ストレンジ・ホライズンズに送ろうみたいに、ちょっと投稿先が決まっちゃう感じはありますね。
RZ: テーマがある依頼原稿のほうが得意ですか?
OY: テーマがないとたぶん書けないですね。
RZ: 自主的に書くときも、この要素を使うとかはあらかじめ決めて書きますか?
OY: いや、自分で書くときは……どうしてるんだろう?(笑) テーマがあったほうが、やっぱり楽ですね。でも私に依頼があるときって、だいたい皆さん妖怪を求めていらっしゃるんで、どうしても偏っちゃうんです。だから何も考えずに書くほうが楽なこともある。けど、じゃあ今回はこの妖怪って決めて、掘り下げていく作業も楽しいですね。それぞれの面倒くささがありつつ、それぞれに楽しいです。
RZ: 新刊のアンソロジーThe Outcast Hours (Mahvesh Murad & Jared Shurin, 2019, Solaris)への寄稿は、どういう経緯でのお仕事だったんですか?
OY: あれは最初、仮題がNightでした。昼間は別のことをしている人に、夜間なにかが起こるとか、そういう話を書いてくれと言われました。あれは初めて、書いてくれと言われて即、契約を取り交わしたケースです。今までは依頼を受けても、完成物を送ってOKが出てからの掲載で、ボツになることもあったんだけど、今回は初めてもう絶対に書かなくてはいけないやつでした。本当に不安だったし、胃が痛くなりましたね。
RZ: 初めて関わった出版社でしたか? 少なくともJared Shurinとのお仕事は初めてですよね?
OY: そうですね。編集者のもう1人がApex Book of World SF 4 (Ed. by Mahvesh Murad, 2015, Apex Book Company)のエディターだったので、それで彼女からご連絡いただいた感じです。
RZ: 英国の出版社は初めてですか?
OY: いいえ、何年か前のAsian Monsters (Ed. by Margret Helgadottir, 2016, Fox Spirit Books)もロンドンの、というか英国の出版社の本です。やっぱり、だいたい皆さん、モンスターを頼んでくるんですよね(笑)
RZ: モンスターにはみんな目がないですよね。それにしてもThe Outcast Hoursの収録作家は本当に大物ぞろいですね。(チャイナ・ミエヴィルやフランシス・ハーディング、ラヴィ・ティドハー等々)
OY: そうなんですよ。本ができる直前くらいまで、他に参加する人が誰かとか、何作載るのかとかも教えてもらってなかったので、やっと全員の名前が明かされたときには「えーっ」てなりました。
RZ: 小川さんは何かこれから新しくやりたいことがありますか? もしくは目標とか。長さでしょうか? ノヴェレットの後、ノヴェラの執筆に挑戦されていましたよね?
OY: 傾向的にだんだん長くなっていますね。いつかは長編(ノベル)を書いてみたいという気持ちと、私の英語力でその長さは耐えきれるのかという気持ちがあります。去年応募したノヴェラの結果は、まだ全然返ってこない状態なので、その結果を見てから今後を考えようかなと思っています。
RZ: Tor(出版社)のノヴェラの公募に投稿したんですよね? 業界随一だから、かなりの高倍率でしょう。
OY: 8月13日が締め切りで、私が日本時間で8月13日に投稿したとき、投稿者の整理番号は650~700くらいでした。その後も駆け込みがあったでしょうから、1000くらいはあるでしょうね。Torでちょっとでも励まされるようなコメントをもらえたら、もう少し長いものも考えようかと思います。
RZ: Torは大きいし、圧倒的ですよね。年間ベストや賞もTorだらけです。
OY: 本当ですよね。
RZ: 小川さんは、日本語でも長編を書かれたことはないんですか?
OY: ないですね。
RZ: では去年のノヴェラが本当に自分史上最長なんですね。
OY: (長編小説を)1回書き上げてみたいという気持ちがあると同時に、去年はノヴェラを書くためにその間ほかには何もできなくて、変な話、ずっと座ってる状態だったからか体調もあまり良くなかったです。だから、これ以上長いものに私が手を出していいのかっていう悩みはあります。でも、書いてみたいですね。
RZ: ところで小川さんは映画とか、活字以外のSFはいかがですか?
OY: あんまり観ないですね。『スタートレック』とか『スター・ウォーズ』(以下SW)もむしろ苦手です。
RZ: 私もどちらも数本くらいでそんなに観ていません。でもSF映画なら、近年だと『火星の人』原作の『オデッセイ』とか面白かったですよ。
OY: あぁ、あれは面白かったですよね! 確かにテレビドラマや映画ではSF作品はかなり多いのに、いざ小説で読んでってなると「えっ」ってなる人は結構いるじゃないですか。あれはなんなんですかね?
RZ: 活字で説明を読むのはつらいけど、映像として見るのはOKという方が多いんですかね?
OY: あんまり考えずに観て、面白いって言う人ならまだわかるんですけど、SWなんかはすごい本気で好きな人もいるじゃないですか。細かいところまですごく知っているような。そういう人だったらSF小説も読みそうな気がして、前にSW好きの人にアン・レッキーの《ラドチ戦史》三部作を勧めてみたら、ぜんぜん読めなかったと言われて……あっそうなの!?ってなりました。
RZ: SWだったらノベライズシリーズもくまなく読む人たちも結構いると思いますけれど、その人たちがシリーズ以外にも情熱が保てるかというと、そうでもないんじゃないですかね。ジャンルへの愛ではなく、単独コンテンツへの愛。
映像作品はさほどご覧にならないということでしたが、マンガはいかがですか? お母さんがマンガ好きで、自分も小さいころから結構マンガを読んでいたと過去のインタビューで話されていましたね。
OY: よくご存じで(笑) そうですね。子供のころはよく読んでいました。マンガは今でも好きは好きで、やっぱり昔からほとんどファンタジーを読んでいた気がします。昔好きだったのはひかわ恭子の『彼方から』(1991-2002)で、これは異世界ファンタジーでした。今もなんか異世界トリップが流行っていますけど、当時はまだあんまりマンガでも見なかったような気がします。
RZ: 私はマンガにはあまり詳しくないので自信はないですが、『天は赤い河のほとり』(1995-2002)は異世界トリップではないけどタイムスリップものでしたよね? あと『ぼくの地球を守って』(1986-1994)は転生ものでしたし、どちらも広義の異世界ものと言えるような。
OY: あぁ、そう言われればそうですね。
RZ: 逆に、世紀末ごろは転生とかトリップものが若干流行りすぎていたような気さえします。CLAMPとか。
OY: あっ、CLAMPは完全に異世界ものでしたね。
RZ: むしろ今またブームが再燃しているのかもしれませんね。最近のマンガで追いかけているものはありますか?
OY: 最近は、ファンタジーではないけれど『乙嫁語り』が好きですね。「刺繍すてき」とか思いながら読んでいます。あとはそうだ、『宝石の国』。あれは完全に好みにドンピシャなので。
RZ: 『宝石の国』の鉱物モチーフや、ジェンダーの不確定さに、私は長野まゆみを思い出しました。
OY: そうなんですか。私は読んでいないと思う。
RZ: 長野まゆみは教科書に掲載されたこともありますね。稲垣足穂・宮沢賢治フォロワーのイメージが強いと思いますが、ボーイズラブ色が強いものも書いていましたし、一時期は結構SFを書いています。『新世界』や『テレヴィジョン・シティ』とか。
RZ: ところで宝石といえば、鉱物はいつごろからの趣味なんですか? Twitterを始められた当初は結構、貴石を磨いている話題を投稿されることが多かったですよね? アクセサリーを作ったりとか。
OY: そうですね。磨き始めたのはあのころ、2013年で、だいぶ最近なんです。子供のころは、新聞と一緒に入っていた質屋の広告に載っている宝石が好きだったんですけど、とはいえ集めたりするわけでもなく。自分でもどこからあの関心は来たのだろうと不思議に思います。
私は群馬の山のふもとで生まれ育ったんですが、関東ローム層って、山の途中にすごい地層がこうでているところがあって。普通の土と、火山灰の層がむきだしになっているんですよね。火山灰の層はボロボロなので、そこをちょっと崩して持って帰ると、中にすごく小さい水晶の塊が入ってるんですよ。そういうのを出して、眺めてはニヤニヤしていた記憶はあります。小学校5~6年のころ。でも、なんでミネラルショーにまで行こうと思ったかはわからない。
そうだ、思い出した。新宿のジュエリー屋さんで、フローライト(蛍石)のネックレスが売られていて。フローライトはいろんな色があるんで、それをグラデーションみたいにつなげたすごい綺麗なネックレスがあって。でもそれがフローライトのくせに7万円くらいしたんですよ。買えないよと思って、フローライトってどこで買えるんだろうと思って探して、それでミネラルショーを見つけたんだと思います。
RZ: そこからTwitterのアカウント名がfloritewitchになったわけですね。
OY: すべてつながりましたね(笑)
RZ: さて、The Outcast hours以降、なにか発表予定がありますか?
OY: 今はなんにもないんですよ。本当になにもなくて、ちょっといやなんですよ。(投稿済みで、採用可否の)結果待ちはいくつかあります。
RZ: フルタイムで働いている人だと、母国語だろうと年に数作掲載ペースというのは珍しくありませんし、むしろたくさん書いているほうだと思うんですが。
OY: でもTwitterとかで、ペースが早い人がどうしても目についちゃうんですよね。私は2013-2014年がかなり沢山出せた時期で、あのころのペースは一体どうやってやってたのかなと思います。去年は3篇だけだったし、今年は1篇しか発表が決まっていない状態で、まあ焦るっちゃ焦るんですけど。(※)
RZ: 長めのものを書いていると休憩も必要でしょうし、全然気にすることはないように思います。これからも無理せずがんばってください!
※註:このインタビューの直後にClarkes World2019年4月号に新作の掲載が決まり、今年も少なくとも2作は発表されることになりました。
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