名もなきものの死
今朝は二つの死に会った。
車が行き交うアスファルトの上に、しんと横たわったスズメバチの死体。
こんなところでどうしたの。
行き倒れたのか誰かに殺されたのか。
あなたはうちの庭によく来ていたスズメバチさんですか。
イチジクを食べたり、デッキをパトロールして虫を食べたりしていた、あのスズメバチさんですか。
オレンジと黒のしっかりした体が、無音の音につつまれて横たわっている。名もなき命が止まった光景。
その姿は、可愛らしく美しかった。
しばらく行った道の端に、茶色の毛皮をまとった死体がおしりを向けて動かずにいた。ヌートリアなのか何なのか。あなたが何と呼ばれている動物なのかも私は知らない。ぬいぐるみのように、伏せをしたまま無音の音につつまれて止まっている。
あと一歩で溝に隠れられるその場所で、そんなところでどうしたの。
たどりつく前に行倒れてしまったのかどうなのか。
あなたは畑の作物を拝借して農家さんを困らせていたのですか。
猫より少し大きいそのからだで、一体何をしていたのですか。
朝の陽ざしにさらされて、光かがやく茶色の毛皮。
名もなき命が消えた光景。
その姿は、なんだかちょっぴり残念だった。
生まれて死んで、生まれて死んで。
私の見えないあちこちで、今日もそれは繰り返される。
生まれて死んで、生まれて死んで。
意味はなくても美しい。
ほら、いまもこうして胸の中がクゥーっとしてる。
なぜだか今日は、そんな日だった。