感想/自主作成映画「RAMEKIN」


注意!

本記事には自主作成映画「RAMEKIN」のネタバレが含まれます。
一読前に上記リンクよりご鑑賞いただければと思います。

ネタバレ無しの紹介記事は上記にあります。






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本作を語るにあたり、避けて通れないのが「RAMEKINとは何者だったのか」だろう。筆者は「人間の血液収集システム」だと考えている。

RAMEKINの目的は人間の血液を集めることである。しかしながら(当然ながら?)RAMEKIN自身に吸血機構がある訳もなく、自力で目的を達成することができないため、人間を利用するのである。
まず、ここがあくどい。RAMEKINの縄張りたる家に入り込んだ人間をそのまま殺めるのではなく手駒として利用することで他の人間の血液を集めようとする。これによって長期的かつ効率的な血液収集が図れる。悪魔か。

人間のコントロールにも長けている。作中では以下のような行動が見受けられる。

・瞬間移動
・通せんぼ
・質問への回答
・モノの生成(カップケーキ・紙幣)
・音楽の再生
・人間の行動の操作

上記の能力を用いて血液収集を行うのだが、やり方が手練れのそれである。最重要能力は当然最後の「人間の行動の操作」であるが、すぐにできるものではなく人間の抵抗がないことが条件となっているようだ。そのため、

①瞬間移動により常時監視されているというプレッシャーを与える
②対話により力関係を悟らせる
③食料を与えることで信用を勝ち得る
④言動や行動を操作して暗示をかける

といったステップを踏み、ようやく招き入れた人間から血液を「収集」させることができるようになる。えげつないことこの上ないが、順に説明する。

①はエミリーがどの部屋にいても常に視界に入ることで不安を煽る所からスタートである。何度水回りに置いても戻ってくるシーンで根負けさせることで対話を有利に進めることにつなげている。このシーンの冗長さには不満の声もあるようだが、個人的には適切な繰り返し描写だったと思う。

②は鑑賞済みであれば特に言うことはない。重要なのはRAMEKIN自身が自我を持っている、という点だろうか。神や悪魔の類ではないものの、懐柔や外部からの操作を遮断するなどの逃げ道が用意できないことが判明するため、この時点でエミリーに打つ手はほとんど残されていないことになる。

③は最も重要な要素であると考える。古来から洋の東西を問わず食事により「戻れなくなる」描写というのは多く存在する。例えば「千と千尋の神隠し」序盤で両親が豚に変えられるまでのシーンは有名な一例だろう。神話の世界で言えば日本神話の「黄泉戸喫(よもつへぐい)」やギリシャ神話の「ペルセポネの冥界下り」などが挙げられる。
本作においては、上記のステップで不安定になったエミリーにお手製のカップケーキを食べさせることでほぼ完全にエミリーを掌握できるようになったと考えられる。その後カップケーキに飽きたエミリーのために紙幣を渡すのだが、この紙幣で購入した食事にも恐らく同じ効果があると考えられる。

④も特に言うことはない。耳にRAMEKINを当てている時のエミリーの行動や言動はRAMEKINのものであり、その時の行動内容はエミリー自身に蓄積されるようである。"I am pure beauty"と自分に言い聞かせることで詩を書けるようになったり、ナイフで座布団を刺すことでナイフを使用することへの躊躇いを抑制したり、といったシーンで見受けられる。

上記のアクションによりエミリーを完全に掌握したRAMEKINはついに行動へと移すことになる。その結果として何が起きたのかは改めて語る必要もないと思うので割愛するが、RAMEKINが全能ではなかったが故の結末なのだろうと感じた。
RAMEKINの掌握能力には限界がある。例えばエミリーが慕うマークを殺めようとした際に、一度目は包丁を振り下ろさせることができなかった。RAMEKINを耳に当てた状態だったにもかかわらず、である。また、マークの作ったカップケーキを食べたエミリーは一時的に目を覚ますことができた。本来の黄泉戸喫においてはどんなことをしても現世に戻れなかった、ということを考えるとやはりRAMEKINは神ではなくあくまでもいち食器なのだろう。


今回はRAMEKINの目線から作品を振り返ってみた。エミリーの視点から振り返ってみても面白いだろう。
総じて、濃密な70分の作品だったと思う。何か派手なことが起こるわけではないが、本作はれっきとしたホラーでありアートであると感じた。監督の思惑通りである。一方で賛否が別れる作品であるということも理解できる。ストーリーに大きな山谷があるわけでもなく、意味も分からず食器が動き、突然一人の女性が狂いだすのだから、派手な面白さはないだろう。そういった賛否両論が綺麗に割れる点も含めて、本作はアートであると筆者は考える。
続編も控えているため、今後が楽しみである。

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