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卒論インタビュー 【#3 小泉秀樹】

「サッカーから実現するコミュニティデザイン」をテーマに、
サッカーがもつ可能性を探る。
更に、インタビューを通じて、サッカーの枠を超えて僕たちのこれからについて考えていきたい。


 第3回目は、東京大学で都市工学を専門に教鞭を執る傍ら、渋谷未来デザインの代表理事を務めている小泉秀樹さんに話を伺った。

渋谷未来デザインは、先日代々木公園にサッカースタジアムを作る「スクランブルスタジアム渋谷」というプロジェクトの構想を発表し話題となった。今、スタジアムを中心にサッカーを取り巻く環境が変わろうとしている。新しいスタジアム、新しいまち、その先に何があるのか。それは、まさしく僕たちのこれから、未来の話だった。


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小泉 秀樹(こいずみ ひでき)

東京大学大学院工学系研究科教授、一般社団法人渋谷未来デザイン代表理事。都市工学を専攻し、まちづくりやコミュニティデザインを研究。自身の研究成果を活かし、自治体や民間企業との連携を図りながら実際に渋谷区を中心とした都市政策に携わる。
 著書に、「コミュニティデザイン学:  その仕組みづくりから考える」、「コミュニティ事典」ほか。

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目次
・スタジアムという“場所”の意味
・スタジアムから外へ
・誰に対しても開かれた場所
・このまちの一員になる。
・まとめ



スタジアムという“場所”の意味

篠原力(以下、力):渋谷未来デザインが発表した「スクランブルスタジアム渋谷」ではスタジアムがサッカーだけではなく、公園のように人々の生活の中に入っていくというコンセプトがありました。どのような経緯で構想ができたのか聞かせてもらえますか?

小泉秀樹さん(以下、小):まず、渋谷未来デザインって組織について簡単に説明すると、渋谷未来デザインは渋谷区と渋谷区に拠点があるいろんな企業が出資をしてできた半官半民の組織です。区ではできないものを行政の立場を理解しながら、渋谷区民、あるいは渋谷には色んな人が来るから渋谷に関係のある人にも意見をいただきながら新しい事業やプロジェクトを進行するためにできました。

 その中で、今回のプロジェクトについてはまだ決まったわけでもなくて、みなさんに問いかけてる、そんな状態なんですよ。代々木公園っていうみんながアクセスしたいし記憶に残る場所にサッカーっていう新しい文化を展開するための拠点を作って、公園の他の楽しみ方もエンジョイした上でサッカーも見れる。スタジアムに付随してそれ以外の機能、楽しめるようなものを入れ込んで代々木公園自体も魅力的な場所にしていきたいなっていう発想で考えてるんですよね。

力:スタジアムにサッカーの外から色んな文化が入ってくるってことですよね。それは公園っていう場所も大きいのかなと思います。他のスタジアムではなかなかできていないように見えますが、サッカースタジアムがサッカースタジアム以上になるためには何が必要だと思いますか?

小:んー、色んな論点があると思うんだよね。例えば、公園っていうのは何もなくてのんびりできたほうが公園らしくて良いって言う人もいるわけじゃないですか。それから、代々木公園というのは都心の中にあって、ヒートアイランドっていう問題に対して、木が熱を吸収してくれたり水蒸気が出たりすることで効果がある。こういったことも大事なテーマなんですね。せっかくスタジアムを作るのであれば、そういう役割も考えて、つまりはその場所と共存することが大事になってくるんですよ。それに、ストリートバスケやランニング、スケボーなど多様な楽しみ方ができる場所でもある。代々木公園っていう場所の力を高めながらスタジアム+α、新しい場所の意味とかね、そういうものがあったほうが良いんじゃないかなって考えてます。

 サッカーっていうのはものすごく魅力的なスポーツなんです。色んな人を惹きつけることはよくわかってることなんだけど、サッカーだけではなくて、クラブが人々を巻き込んでスタジアムを基点にしながら色んな活動ができることが必要。


スタジアムから外へ

小:だけど、それには代々木公園の他の場所にクラブが出ていってやることもあるだろうし、もっと言えば渋谷区内の色々な商業施設だとか商店街だとかと組みながら展開していくってこともある。そういう意味では、スタジアムとスタジアム外のところ、せっかく来てくれる人がいるならその人たちがスタジアム周辺で完結するんじゃなくてスタジアムの外に出ていく、そして色んな地域の人たちがコラボレーションしていくことが楽しいんじゃないかなって思ってます。

 スタジアムに新しいものを入れるってことは、クラブが外に関わることにつながるんですよね。もちろんそれがあるから逆にスタジアムにも色んな人が協力してくれるし、サッカー以外の様々な取り組みをスタジアムとして関わらせてもらえるようにできないかなと思ってます。

力:スタジアムに人を呼ぶっていうことはやってたと思うんですけど、スタジアムから外へ出ていくっていう発想は新しいですね。コミュニティのことを考えると、新しい人が入ったり逆に出ていったりするような人の流れが大事になってきます。同じ人がスタジアムに来て、同じコミュニティしかないとそこには新しいものは生まれないですよね。


誰に対しても開かれた場所

力:内と外の境界となる場所として、デザインも含めてスタジアムにできることはありますか?

小:例えば中の開放の仕方も必要で、ピッチが人工芝とのハイブリッドでメンテナンスをしやすくしたら開放できて、そうやってスタジアムが色んなことに利用できるように想定すること。それだけじゃなくて、屋内に友達といられるような、魅力的なカフェとかエンターテイメント性のある場所とかを提供する。やっぱり色んな人の居場所にするためには、その人たちが自分の居場所と思えるような仕組みだとか空間的なデザインが必要で、スタジアムとかスタジアム周辺を誰に対しても開かれたような場所として考えることが大事だと思います。

力:先日代々木スタジアム構想についてのシンポジウムを開催していましたが、それに対してのリアクションはありましたか?

小:賛同する意見をもらったり、一方で今ある場所としての意見も傾聴してほしいとか、せっかくやるならこういうふうにしてほしいとかたくさん意見をいただきました。屋根があって雨天利用もできて稼働率を上げるみたいな具体的なアイデアもいただいたりとか。多少批判的なものとか、これは残してほしいっていうお願いみたいなところもあるんだけど、そういう事も含めてみんなでスタジアムのあり方を考えていきたいです。議論する際の素材にしたいので、色んな人に色んな意見を出してもらいたいっていう狙いはあります。

力:スタジアムのあり方ってことで言うと、先程のような外に拡散していくことをやっていくと、逆に中心としてのスタジアムは必要なの?っていう意見も出てこないですかね。それでも中心にサッカーがあることには意義があると思いますか?

小:なかなか今のスタジアムはみんなが行きやすい場所ではないんですよね。駅から遠いとか車で行かなきゃいけないとか、東京の都心には国立競技場しかなくてしかもサッカー専門スタジアムじゃない、使うとしても本当に限られた人にしか試合としては使われない。それでは本質的にサッカーを楽しむ場所にはなってないんですよ。

 例えば、野球はそうではなくて、民間企業が結構早くから事業化してプロができて、まだ日本が経済成長する前とか発展途上の中でスタジアムを作ってきたので、サッカーに比べると比較的便利な場所に多い。それが野球の魅力を高めてると思うんですよね。仕事帰りに野球を観戦して、脇に流れて友達と飲んで、それでもあまり遅くならない。

 だからやっぱり、都市の中で、まちの中でサッカーが楽しめるっていうね、そういう文化を作っていくことがサッカーがより浸透したり社会的な価値を高めていくのに大事なんじゃないかな。それがサッカーの立場から見て言えることです。

力:場所っていうのはそれだけ重要なんですね。


このまちの一員になる

力:社会の中でサッカーが与えられる価値としてはどういうものがあると思いますか?

小:ヨーロッパのクラブとかを見るとわかるんだけど、スタジアムはサッカーなんだけど、そこのクラブが別に1つの競技だけをやんなきゃいけないっていうわけではなくて、例えば代々木公園の周辺には色んなスポーツ施設があってそこだって活用できる。例えば渋谷区を基点とするクラブができるとすると、まちのクラブはもちろんサッカーが中心かもしれないけどそこがバレーボールだとかバスケットボールのチームを持つのだって良いわけじゃない。青山学院大学の体育館はプロのバスケットボールチームが入ってるんだけど(※サンロッカーズ渋谷)、そういうところとだって連携してもっと都内で楽しめる場所を、サッカー以外の団体とかチームとかとも作ってマネージメントできる可能性があるんじゃないかなと。

 それをやるにはホームがちゃんと渋谷であるような、そういうことを積極的に進めていくっていう体制がないとなかなかできないので、サッカーを中心としたクラブチームが様々なものをつないでくれるってことを期待したいですね。

力:そうすると、クラブもその地域に根ざしたやり方をしていかなければいけないんですかね。

小:渋谷区民はもちろん大事なんだけど、もし仮に渋谷にチームができたら色んな人たちが楽しめることが大事。そういうのも含めてコミュニティデザイン的なことにどうアプローチできるかなので。そう考えると、色んな地域との連携っていうのももう少し大規模で考えなければいけないのかもね。

力:東京という地域でそれが1つできると、成功モデルとして他の地域でも再現性のあるものにもなりますか?

小:仮に渋谷で他の地域の先行例ができても、Jリーグは各地域とのコラボや連携とかを色々やってるので、そういうのもしっかり学んで新しい取り組みをやっていかなければいけないですね。

力:クラブがそういう取り組みをしていても、なかなか知られていないことも多いと思うので発信していくことも重要かなと思います。

 スタジアムはクラブが発信していくことにはとても使いやすい場所になると思うんですけど、逆にスタジアムに来る人たち、お客さんの立場の人たちがただエンターテイメントを享受するだけじゃなくて、そこの一員として関わっていく、参加していくことはできないですかね?

小:それも色んな可能性があるんだけど、例えばこれから渋谷のスタジアムをどうするかっていう過程で、スタジアムができるとしたら本当に幅広い人に支持してもらって本当に必要だねって思ってもらわなきゃできないと思うんですよ。

 1つには、構想して作っていくってところから色んな人たちから色んな意見を言ってもらって、作る過程から参加してもらう。だからこそ応援したい、自分も行ってみたいっていう場所になるような、そういう取り組みがとっても大事かなと思います。

 参加型でスタジアムをデザインしていく、都心でやるからこそスタジアムなんかいらないっていう人の意見とかも含めて議論する中でたくさんのアイデアを汲み取って、みんなが自分も協力して作ったって思えるようなプロセスを用意するってことが大事なんです。

 多分、スタジアムの運営だってサッカーのサポーターだけではない幅広い人が関わるような仕組みになっていくんじゃないかな。公共的施設を整備する場合、作る段階とか構想から市民が参加して作ってる例があるんですね。そういうことをすると、人々が集まって、関心のある人たちが仲良くなって、施設を取り巻くコミュニティが施設が完成する頃にはすごく色んな人たちが関わるようにできてる。そうやって設計したら、今度は運営はどうしようかってなってボランティアで関わってくれたりサポートしてくれたりする。運営自体も、協力していくうちにファンだとか、そのスタジアムを愛してくれたりだとか、それが「開いたスタジアム」になるんです。

 だからスタジアムを作るときにそこのクラブが中心にはなるけど、クラブと協力してスタジアムを色んな人にとって意味のある場所になるようにする。そういうプロジェクトがむしろ市民が主体的になってクラブと協力してできるってなれば、今までJリーグの色んなクラブがやってきたけどなかなかできなかったことだと思うので、せっかく人が集まって注目されるような場所にスタジアムを作るのであればそういうことがうまくできるといいなと思っています。

力:先日のシンポジウムもそんな狙いがあったんですね。やっぱり構想の段階から市民に見せる今回の取り組みは新しいですね。リアクションがあったということは、それだけ参加していくっていう意思みたいなものが生まれたんじゃないかなと思います。これが大事なんですね。

 そういう意味では、社会のコミュニティに対してサッカーができることは、市民が参加していくことでコミュニティに属している自覚とか自分がいるコミュニティに自信を持つっていう意識につながりますよね。

小:コミュニティデザインでは、「シビックプライド」とか「プレイスアタッチメント」って言います。やっぱり場所に対してみんなが愛着を持てるっていうのが大事で、そのためにはその場所を作ることに対して人々が参加したり、それからその場所でその人たちが色んな話ができたり、プレゼントしたり、活動できることで社会的な関係が生まれること。

 スタジアムってそういう場所であるべきだと思うんですよ。みんなが愛着を持ってその場所に行きたいっていう場所なんですよ。それで、そのことによってみんながこのまちの一員であるとか、このまちを誇りに思うとか、そういうことになるんです。

力:そうなってくると、クラブの選手としてもコミュニティに対してできることとか責任みたいなものが生まれるんですかね。

小:コミュニティに対して、選手が地域に誇りを持って地域を愛するっていうことが必要。選手は移動もあるから難しいんだけど、それでも育成年代からその地域のプロになるとか、外から入ってきた人もコミュニティのメンバーとして色んな人たちと一緒になって自分たちが地域を盛り上げていくみたいな、地域の一員として愛するものを作っていくっていうことを考えていればプレーも変わってくるよね。

力:もっとクラブの色が出て、選手も自分はこのコミュニティに行きたいみたいなことが出るのも面白いですよね。

小:クラブの文化だよね。結局、文化を愛する人が集まってくるんですよ、選手もサポーターも。そういうのが大事で、各地域ごとの色がはっきりしてくることが大事で、日本ではまだまだ発展途上なんです。

力:100年構想でまだ25年目ですからね。ある意味、この25年目の節目に代々木スタジアムの話が出てきたのはとても興味深いです。


まとめ

渋谷という様々な人たちが行き交うこのまちに、今新たなサッカースタジアム構想のプロジェクトが進んでいる。「スクランブルスタジアム渋谷」は、まさに「サッカーが実現するコミュニティデザイン」の象徴とも言える。しかし、そこにはどんな未来的なデザインだとか名前だけでは語り尽くせない人と人とのつながりを大切にしようとする強い思いと不断の努力があった。小泉さんの話からは、1つのスタジアム、建物を作るだけの話ではない、まちづくりひいては僕たちのこれからを考える壮大な未来図が垣間見えていた。





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スペイン1部でプロサッカー選手になることを目指してます。 応援してくださいって言うのはダサいので、文章気に入ってくれたらスキか拡散お願いします! それ以外にも、仕事の話でも遊びの話でもお待ちしてます!