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ゲイ男子が「主夫願望」を持つということ

若いゲイの男の子と恋愛観の話になったとき、彼はこう言いました。

「いつかは好きな人と一緒に暮らしたい。ぼくはバリバリ仕事をするっていうタイプじゃないから、5時くらいに仕事を終えて、家でゴハンをつくって彼の帰りを待ちたい。家事をしてパートナーを支えていきたいんです」

微笑ましい~~~と思っちゃう昭和生まれのおじさん。「お帰りなさい! お風呂にする? ごはんにする? それとも……」っていうやつでしょ、知ってる、知ってる。

とはいえ、ではぼく自身がそうしたいとか、そうしてくれるパートナーを持ちたいか、というと……それはちょっと考えてしまいます。(パートナー自体は持ちたいのだけれど)

LGBTのカップルが、実際、どのように家計を管理しているのか、収入・支出をどうしていて、家事分担をどうしているかなどは、まとまった統計のようなものは見つけられていません(あったら教えてください!)。事例研究としては、『ゲイカップルのワークライフバランス』(神谷悠介/新曜社)という本があって、このなかで10組のゲイカップルの家庭が紹介されていますが、わりとバラバラです。

お金の面から考えると、男女の夫婦(婚姻関係)であれば、どちらかの収入(所得)が一定以上に低くて、もう一方に扶養されている場合、配偶者控除・配偶者特別控除として、節税効果が生じます。また、社会保険の扶養に入れることもでき、扶養されているほうが扶養しているほうの健康保険を使えますし、国民年金保険料を負担しなくてよくなります(いわゆる3号被保険者)。

この社会保険上の扶養は、男女であれば正式に結婚していない内縁関係や事実婚でも可能なのですが、同性パートナーにこのような取り扱いはなく、同性婚の法制化の議論でひとつのポイントにもなっています。

一方で、そもそもこうした扶養の仕組みがどうなの、という話が昔からあります。たとえば配偶者控除の仕組みがあるがために、女性が収入を抑えるインセンティブが生じ(103万円の壁とかいうやつです)、結果として女性のキャリアの可能性を狭めているのじゃないかという指摘などです。社会保険についても、3号被保険者は一見おトクですが、長い目で見ると、妻も働いて自分で厚生年金を受け取ったほうが将来的にはいいんじゃないか、とも言えます。

また、一馬力で家庭を運営しようとすると、働くほうのワークライフバランスがわるくなり、家事・育児の経験もうまくシェアできません。まして、今の日本ではワークライフバランス犠牲にして働きづめになっても、ひとりの収入では配偶者や子どもを養っていくのが難しい状況にもなってきているわけです。

ふたりの人間が一組のつがいをつくり、一方が働き、もう一方が家庭を維持する、というモデル自体が、キャリアデザイン、ワークライフバランス、ソーシャルデザイン、ジェンダーフリーといったさまざまな観点から、ムリになってきているのかもしれません。

かつて、女性が「結婚したら家庭に入って、夫を支えたい」と夢みることはごく一般的で、「女性だけど、社会に出て働きたい!」という希望はイレギュラーなものでした。今は「結婚したら家庭に入って~」などと言えば「寄生乙」と返されてしまいます。社会的に、女性が働き、社会進出するのは良いことだという含意がある一方で、逆説的に、「専業主婦になれること」が、ある種の「特権」とみなされている向きもありますね。

そんななかで、ゲイの男性が、「主夫願望」を持つのは、「古い家庭観の模倣」なのでしょうか?
それとも、家庭を指向する男性、という意味で「新しいライフスタイル」なのでしょうか?

個人的には、キャリアを積むこと、社会保険を手厚くもつことは重要で、しっかり考えてほしいとは思うのですが、しかし、こと恋愛に関して、ロマンティックな夢をみるのが悪いとは言えません。恋愛を抜きにしても、自分のライフスタイルをどうするかなんて、そのひとの自由なのですから。

セクシュアリティに関係なく、男性が家庭に入り、女性が働くというスタイルの、可能性は広がっていくべきで、男性が働き、女性が家庭に入るという従来的なスタイルは、無自覚に踏襲されないほうがいいと思います。しかし、選択肢があるうえで、意志をもってする選択は妨げられるべきではないでしょう。男女・セクシュアリティに関係なく「主夫/主婦願望」の夢は、意識的に選びとるのであれば、かなえられてもいいはずです。

ぼくだったら、どうしたいだろう、と再度、考えます。

キャリアを途切れさせることや、厚生年金に入らないのは、やっぱりちょっと怖い。一方で、仕事が命という感じでもないし、家事も嫌いではなく、外で働かずに済むならそれはそれでいいな、とも思ってしまう自分もいる。それにパートナーがいたら、そのひとのためにいろいろしてあげたい、という気持ちがあって、そういう暮らしには憧れてしまうのです。今はまだそういう状況になっていないからこその、ふわふわした夢を見ているだけなのかもしれないけれど。

同性婚が実現したら、同性カップルにも配偶者控除のしくみが適用されるのでしょうか。遠い将来には、配偶者控除は扶養控除と統合し、扶養の概念は、血縁や婚姻関係とは切り離して制度化するのがよいだろうと思っています。そしてシングルという選択が、ことさらに不利にならない配慮があれば、よりよいでしょう。すべてのひとが、望むライフスタイルを送ることができ、制度的にそこに不平等がなければいいな、と思っています。

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