24-49 守破離

 先日放送大学の面接授業で伝統太極拳に学ぶ身体術という授業を受けました。その中で“守破離”という言葉を学びました。「守は今までの教えを守ること。破はそれまでの常識を破ること、離はそこから見えてくる新しい物事を極めて1段階階段を登ること。」なのだそうです。なんとなく今指導している大学のアメリカンフットボール部の現場でも同じことが言えるような気がしたので、この言葉“守破離”を今回は深掘りしたいと思います。

 

守破離とアメリカンフットボール指導の関係

「守破離」は、日本の武道や芸道における学びのプロセスを示す言葉であり、守(基本を守る)、破(基本を破り新たな道を見出す)、離(既存の枠を離れ独自の境地に到達する)守破離の3段階を意味します。この概念は、アメリカンフットボールのような競技スポーツにおける選手育成やチーム指導にも応用できる普遍的な原則と言えます。

 

ここでは、大学のアメリカンフットボール部の指導を例に、それぞれの段階について深掘りしていきます。

1. 守:基本を守る:「守」は、基礎や基本をしっかり学び、忠実に実践する段階を指します。アメリカンフットボールにおいては、基本技術や戦術の習得、プレイブックの理解、そしてチーム内の規律の遵守がこの段階に相当します。

 

守の意義

1.基盤を築く

基礎的な動作やプレーが正確でないと、次の段階での応用や発展が成り立ちません。たとえば、タックルフォームやパスキャッチなどの基本動作を反復練習することが、後の応用力を高める基盤になります。アメフトではファンダメンタルと言われる部分になると思いますが、これはアメフト界で普遍であることと、チーム毎に戦術や用いるシステムに依存するものがあると考えます。

2.規律の重要性を理解する

チームスポーツであるアメリカンフットボールでは、個々の役割を守り、チームとしての連携を重視する規律が欠かせません。「守」の段階では、選手がチームの一員として自分の役割に忠実であることを徹底します。僕の恩師ラリードノバン氏は、我々を指導する際18年もの間普遍的にDo Your Own Jobと言い続けていました。おそらく100回では効かないくらい耳にしました。今指導者となった僕も選手に年100回は言い続けようと思っています。

3.成功体験を積む

簡単なスキルを繰り返し練習することで、選手は成功体験を積み、自信を深めます。例えば、基本的なブロックやルートランニングが正確にできるようになると、自分の成長を実感できます。

具体例として

•技術面: パスキャッチ時の基本フォームを練習する、ランプレーでのステップワークを徹底する。

•戦術面: ディフェンスの基本的なゾーンカバレッジを理解し、忠実に実行する。

•精神面: コーチの指示を正確に理解し、素直に実行する姿勢を養う。

 

2. 破:基本を破る

「破」は、基本を忠実に守りつつ、次第にその枠を超え、応用や独自の工夫を加えていく段階です。この段階では、選手が自分自身で考え、新たな発見をすることが求められます。

 

破の意義

1.応用力を身につける

基本を単に繰り返すだけでは、変化する試合状況に対応できません。「破」の段階では、選手がプレー中に瞬時に判断し、柔軟に対応できるようになります。例えば、パスルートの走り方を状況に応じてアジャストする能力は、「守」を徹底した後に育まれるものです。

2.創造性を育む

新たな視点や工夫を取り入れることで、選手は競技における自分のプレースタイルを確立します。これはコーチングにも当てはまり、指導方法を見直し、選手個々に合ったアプローチを模索することが求められます。

3.失敗を受け入れる

「破」の段階では、新しいことに挑戦するため、失敗も増えます。しかし、失敗を通じて得られる経験が選手の成長を後押しします。

4.対応力を磨く

アメフトは常に相手に対して特別な対応をして試合の準備をします。想定外のことも多々起きます。そこへの対応力、コミュニケーション力は、今までのやり方に縛られず常に選手、コーチが開拓していくものだと考えます。そこへのチャレンジを怠り守りに入った時に、勝利から遠ざかることもありうるでしょう。

具体例

•技術面: 基本的なパスルートを組み合わせた独自の動きを試みる。例えば、ディフェンダーの癖を見抜き、瞬時に動きを変える。

•戦術面: プレイブック通りに動くだけでなく、相手の動きに応じて柔軟に戦術をアジャストする。

•精神面: ミスを恐れず、自分の判断に基づいてプレーする。

 

3. 離:枠を離れる

「離」は、「守」や「破」を経て、自分なりの独自のスタイルやプレースタイルを確立する段階です。選手が技術や戦術、精神的な成長を経て、他者に依存せず主体的に競技を楽しむ姿がこの段階に相当します。

離の意義

1.独自の境地を開拓する

選手は、自分自身の特徴や強みを活かし、既存の枠組みから離れた独自のプレースタイルを持つようになります。たとえば、ランニングバックが基本のステップワークを超えて、自分独自のリズムで守備をかわす動きを編み出す。

2.リーダーシップを発揮する

「離」に達した選手は、チーム内でのリーダー的存在となり、他の選手に影響を与えるようになります。自身の経験や視点を活かし、チームの成長を支える役割を担います。

3.さらなる発展を追求する

「離」はゴールではなく、次の成長への出発点でもあります。選手やチームは、自らの限界を超え、新たな目標に挑戦し続けます。

具体例

•技術面: 練習で培った技術を基に、試合で独自の動きを発揮する。例えば、QBが即興で新しいパスプレーを試みる。

•戦術面: チームのプレイブックを超えた柔軟な戦術アイデアを提案する。

•精神面: 自己信頼を基に、自らの判断で試合をコントロールする。

 

守破離の指導への応用

チーム全体への適用

•新人選手には「守」を徹底させ、基本の技術やチームの規律を守ることを指導します。

•経験を積んだ選手には「破」の段階を促し、自分のプレースタイルを模索させます。

•ベテラン選手には「離」の段階を目指させ、チーム全体を引っ張る存在として独自のリーダーシップを発揮させます。

 

コーチ自身への適用

•コーチも「守破離」を実践するべきです。伝統的な指導法(守)を学び、それを現代のスポーツ科学やチーム特性に合わせて応用(破)し、独自の指導哲学(離)を確立することが必要です。

 

結論

「守破離」は、アメリカンフットボールの指導や選手育成において、個人とチームの成長を体系的に捉えるための優れたフレームワークです。基本を守り(守)、応用と創造性を発揮し(破)、独自のスタイルを確立する(離)というプロセスは、競技力の向上だけでなく、選手の精神的な成長や人間性の向上にも寄与します。この原則をチームの文化として取り入れることで、競技者としてだけでなく、人間としての成長を促進できるでしょう。

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