山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第九十一回 サブスクでは聴けないジャズ・ファンク特集
はいどうも。
以前、“芸能界における杉村太蔵の存在価値とは——70年代ジャズファンク特集”と題して、ジャズ・ファンクの名曲を通して今一度杉村太蔵の芸能界における存在価値について深く問うてみよう。みんなで考えてみよう。という記事を書いたのですが、テーマがあまりに高尚で哲学的すぎたためか、鼻血が出るほどに反響がなかったため、『二度と当欄でジャズ・ファンクは扱うまい』と思っていたのですが、振り返って冷静に考えてみるとジャズ・ファンクに何ら罪はないし、杉村太蔵がコンビニのざるそばについてくるほぐしつゆとほぼ同等の価値しかない存在であることなんてみんな解った上で観てるし、そもそもTOP画のホリエモンは死ぬほど関係ないし、あと——の打ち方も知らなかったからーーになっちゃってるしで、そもそも記事として失敗していたことが判明しました。全ての責任は僕にあります。だから、もう一回やります。やらせてください。
というワケで、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第九十一回は“サブスクでは聴けないジャズ・ファンク特集”と題して、サブスクには上がってないジャズ・ファンクの隠れた名曲たちを皆さんと共に耳を傾けたいと思います。みんな、ついてきてね!!
一曲めは、Ted Picou Quartetで『Sleep Walker』。
サンディエゴのフルート/サックス奏者、Ted Picauによるカルテットの自主制作盤です。
メンバーはいずれも無名で、その後のキャリアも全く不明な人ばかりなのですが、全員超スキルフルかつハイセンス。サックスやる人、ドラム叩く人、ベース弾く人、鍵盤弾く人が聴いたら驚きしかないと思います。全員が天才で、しかもジャケ見る限り全員いいヤツそうだし、何ならメチャクチャ仲も良さそう。という奇跡のバンド。
ドス黒くて濃厚なグルーヴが12分近くに渡って渦巻く『Sleep Walker』はジャズ・ファンク史に燦然と輝く大名曲。イントロから仰け反るほど格好良いですが、サックスもベースもエレピもドラムも驚異的な名演をこれでもかと聴かせてくれます。座りションベン必至です。うんこはとうに漏らしてます。なめるな!!!!!!
二曲めは、佐藤允彦で『早苗・愛と恐怖(木の葉の舟)』。
七尾旅人や中村達也や菊地成孔といった才能を排出した音楽学校・メーザーハウスの創立者、佐藤允彦さんの1970年の作品です(制作は1969年)。
佐藤さんが名門・バークリーで作曲・編曲理論を学んだのちに制作したこの作品は、『火曜日の女』というドラマのサントラ盤で、当時若干28歳だった佐藤さんの狂気じみたエネルギーと凄まじいアイデアに溢れた名盤であります。
1969〜1970年というのは、ジャズが電子楽器を導入しフュージョンやジャズ・ファンクへと枝分かれしていくその最初期でありまして(あのマイルス・デイヴィスやハービー・ハンコックですら電子楽器を初めて導入したのは1969年のことです)、その時期にこんなアルバムを作っていたというのはまさにヒップとしか言いようがありません。先進的すぎる。
流麗かつメロウなピアノ、フリーキーぎりぎりの壊乱したギター、動き回るベースライン、派手なドシャメシャ・ドラムが渾然一体となって生む冷ややかなグルーヴは、いま聴くだに鳥肌が立つほど素晴らしい。わずかにふりかけられた昭和歌謡エッセンスも隠し味として効いています。ジャケも最高。
三曲めは、Marc Belangerで『Escapade』。
ファンク・ビートに乗せて電子バイオリンをメタメタ弾きまくるカナダの怪人、マーク・ベランジェです。
このひとはもともと、ガッチガチの英才教育を受けたクラシック畑出身のひとです。
バイオリニスト兼指揮者の父親から幼少期よりバイオリンを習い始め、8歳のときから音楽院で理論と声楽を学びました。
その後、21歳まで音楽院で勉強を続け、ハーモニーと室内楽の両方で首席を取り卒業。彼は音楽理論のみならず指揮も学んでいました。
卒業後、彼は演奏家、指揮者、編曲家として働き始め、さまざまなオーケストラでヴィオラとバイオリンを演奏し、1975年には10人のメンバーを擁する大所帯バンド、グループ・マーク・ベランジェを結成します。
そのファースト・アルバムこそがこのアルバムなのでっす! ジャズ・ファンクというか、クラシカル・ファンクというか、全体的に何とも言えない味わいがあり、フレッシュさ抜群です。これぞレア・グルーヴ。
それにしてもカナダの人なのになんで表記がいちいちフランスなんだろう?
四曲めは、笠井紀美子で『やりかけの人生』。
ジャズ・シンガー、笠井紀美子さんの1977年の名盤『TOKYO SPECIAL』からの一曲です。
このアルバム、参加メンバーが実に豪華です。作詞は天才作詞家・安井かずみ、作曲陣は山下達郎、大貫妙子、矢野顕子、筒美京平etc、演奏陣は70年代の日本のジャズ・シーンを代表するバンド、コルゲン・バンドです。
で、この曲『やりかけの人生』はサンプリング・ソースとしても全然イケそうな激メロウ&アーバンなサウンドで、作曲はアート・ブレイキーにスカウトされてジャズ・メッセンジャーズに加入した唯一の日本人プレイヤー、鈴木勲です。御年87歳ですが、未だに現役です。
見た目かっけー。
ベーシストが作った曲って、なんでこんなにベースラインが印象的なんでしょうか。
笠井さんの存在感ある、記名性の高いヴォーカルも素晴らしいですが、特筆すべきは安井かずみさんによる歌詞です。
『飛び降り自殺した女性が死ぬまでに思ったこと』という、おそらく日本歌謡史において誰も扱わなかったテーマを、筆舌に尽くしがたい美しい言葉で切り取っています。
この瞬間のドキュメントを読むにつけ、『ああ、やはり安井かずみは天才だったのだなぁ』と思わざるを得ません。以下、歌詞を引用します。
飛ぶ わたしの宇宙へ
Oh yea 青く広がる
翼を休めてた やりかけの人生
それはそれでひとつ 終わる
できる限り したと
できる限り したと
できる限り したと
手に 余るほどの
Oh Yea 自由がある
からだは西東 やりかけの人生
かすかな痛み
かすかな痛み
かすかな痛み
風 新しい風
Oh Yea 初めてのにおい
次の人生への ざわめきがきこえる
高く低く 空を 駆ける
虹を見たわたし
虹を見たわたし
虹を見たわたし
本当に素晴らしい詞です。『やりかけの人生』というタイトルも凄い。このアルバムめちゃくちゃいいです。
はい、というワケでいかがでしたでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第九十一回 サブスクでは聴けないジャズ・ファンク特集、そろそろお別れのお時間となりました。次回もよろしくお願いします。お相手は山塚りきまるでした。投げ銭ください。それか仕事ください。