グランドゴルフ
「人数が足りないので、グランドゴルフ大会に来てもらえませんか。」町内の体育振興会の係をしている友だちから誘われた。「ご夫婦でどうですか」と言われたが、オットは鼻で笑って「俺はそんな歳じゃない」と言った。頭はカチカチで、そんな歳なのでは?
各町内から12人ずつ参加して、6人ずつのA・Bチームに分かれた。ホールは8つで、穴ではなく、地面に置かれたホールポストという丸い金属の枠の中に入れていく。「初めてなので、よろしくお願いします」と、挨拶したら、「簡単だからね。気楽にやりましょう」とおじさまたちはニコニコ顔。緊張もほぐれて、「ああよかった」と思った。
老若男女のチームがほとんどだが、中に一つだけ、老男オンリーのチームがあった。週一でサークル活動をしているそうで、「勝ちに行くぜ」というオーラが出まくりだ。しかしこちらの町内会長も負けてはいない。「よし、勝とうぜ!」と、ラグビー日本代表の闘志にも遜色ないほど目をギラつかせた。さっきの「簡単だからね。気楽にやりましょう。」という雰囲気はどこかに消えていった。わたしは「はーい」と気の抜けた返事をして素振りをしてみた。
初めて持つ木製のクラブで、ボールを打つ。カコーン!と音がして、結構な飛距離が出た。地面を転がっていくボールは、まっすぐにホールポストに向かった。「え、ホールインワン?」くらいの勢いだったが、少し手前で止まった。この時だけは、ちょっと気分がよかったが、あとはグダグダ。チームの足を引っ張っているわたしとしては、順番が回ってくるのがちょっと怖くなるくらい、町内会長の表情は真剣だ。「次は取っていくぞ」とニコリともせずに言う。打ち方のアドバイスや、力加減、狙う場所などをその都度レクチャーしてもらうのだが、いかんせん運動音痴だから、そううまくはいかない。
やはり、優勝は、例の「老男チーム」で、最優秀賞の人は「15打」だった。ホールインワン賞も2つもらっていた。さすが。町内会長は表情を変えずにわたしたちに「おつかれさんでした」と言った。
この町内リクリエーションは、一体なんのためにやるのだろうかとずっと不思議だったが、試合の合間に出てくる話題は多岐にわたり、「コミュニケーションの場」であることには間違いなかった。終了後はお弁当を食べ、またまた近況などを話す。
今回、ネタの収穫としては、「高校から大学卒業までかかった費用」や、「バブル期の医療業界の羽振りの良さと、現在との比較」、「医師が心づけをしまう仕草の真似」、「ブランド物のネックレスの値段とパチモンをどこで購入したか」などの話題が出た。普段、わたしが生活をしている範囲では、出ない話題ばかりだ。これはかなり面白かった。
グランドゴルフも、もう少し歳を取ったらやってみるか、と思えるくらい面白かった。高齢になったら退屈しのぎにやってみたい、という意味ではなく、その趣味に没頭できるくらいの時間を持てるのは、もう少し先だろうという話だ。
家に帰ると、程よく疲れが出て、爆睡した。あれ?もうそろそろやり始めなければ、いきなり歳をとってからやれるスポーツではなさそうだと思った。