弁当苦行。
お弁当作りがつらい。正確に言うと、作るのがつらいのではない。「献立」が苦なのだ。なにを入れたらいいだろうか。
ムスメは中学生になって、吹奏楽部に入った。その練習たるや、聞きしに勝るハードさだ。毎週の土日、夏休み、冬休み、春休み、とにかく練習のみならず、何かしらの出ごとがある。その全てにお弁当が必要だ。教師の働き方改革とやらで、部活も週に1日以上、休みを設けることになったが、給食のある平日が休みになるという残念さ。
お弁当のおかずに何を入れるか、で、わたしが心の拠り所にしているのは、この言葉。「いいんですよ。おかずは毎日同じでも。それが積み重なって、学生時代の思い出になり、お母さんの味として記憶されるんですよ。」どなただったか忘れたけれど、料理家の方が言っていた。実際、オットの母も『タコウインナーと、マヨネーズを混ぜた卵焼きが定番だった』と誇らしげに言うし、オットはオットで、その味がノスタルジックに記憶されているらしい。
だから毎日、①卵 ②肉・魚類 ③彩りのための野菜 ④便利な練り物 を組み合わせて入れる。練り物は大抵がちくわで、中にキュウリを差し込む。(話は逸れるが、ドラマ「11人もいる!」で、広末涼子が「キューチクしか作れないダメ母親。あれは料理じゃないぞ」と言われるシーンがある。彼女が作ったそのキューチクは、わたしのものとは違っていて、世の中のキューチクは別物だったのか、と認識した。)
よく、「卵焼きの味付けは塩派か砂糖派か」と議論されるが、わが家は、「無塩、無糖派」である。そのまま。なにも足さない、なにも引かない。素材の味でなんとかやってもらう。その他のおかずには味がついているから、塩分取りすぎにならぬように、という配慮ではなく、面倒くさいからだ。お義母さんの言う「マヨネーズを混ぜて」など無理。時間の余裕がない。
以前、中学生の集う場に行って、お弁当を見てみたら案外ラフでいいんだね、と思ったことがある。大きなタッパーにそぼろ肉を混ぜたご飯がどーんと入って、たくあんか何かがちらっと添えてあった。それをニコニコしながら、スプーンでもりもり食べる女子を見て「あ、これでいいのか」と安堵した。しかし、うちのムスメは「ん?野球部?」と言われるほどのドカ弁で、それを全部ご飯にするわけにもいかない。容器が大きいのでおかずが少ないとスカスカになってしまう。
隙間を埋めるにはたこ焼きが便利とか、小包装のチーズがいいとか、ちょこちょことアイデアを聞く。夏は麺がいいわよ楽で、というお母さんもいる。
ムスメも数日前「お母さん、冷やし中華にして」と言った。「〇〇ちゃんがね、冷やし中華を持ってきてて、それが美味しそうだった」と言うのだ。しかし、ドカ弁に麺がひと玉ではスカスカ過ぎた。ムスメも見た目に少ないと感じたようで「ふたつ入れて」とリクエスト。もちろん、タレは別添えにして持たせた。しかし、帰ってきたムスメが「ごめん、多かった」と返してきたお弁当箱には、タレを吸ってでろんでろんに伸びきり、色を変えた麺が横たわっていた。この場合、2回目はナシだ。麺の道は閉ざされた。
さて、今日もムスメは定番弁当を抱えて出かけて行った。いつも空っぽになって戻ってくるお弁当箱が、わたしの苦行へのわずかな救いだ。