見出し画像

塗り方

まだ学生だった頃、仲のいい友達と海に行こうということになった。日焼け止めが必要だろうということで、わたしは「絶対焼けたくない人に」と書かれた物を選んだ。SPF50とかそんな感じの効果が強そうなやつ。

さて海について、みんなが日焼け止めを塗ったり、ビーチボールに空気を入れたりしていたら、「俺の背中にも塗ってくれない?」と男子に頼まれた。えー、わたしが?と言ったら、男同士で日焼け止めを塗り合うのはいやだ、と言うので、致し方なく引き受けた。しかし。人に触るなんてことは日頃からありえない生活で、まさか男の人に裸の背中を向けられて「はい、お願い」と言われるなんて思ってもいなかったので、「わ、わかった」と答えたものの、緊張のあまりチャチャッと指先だけでテキトーに塗った。

最初はどうってことなかったのに、気付いたらその人の背中はどんどん焼けていって、真っ赤になった。そして茶褐色になっていくのに、わたしがテキトーに塗った指の形が白っぽく浮き上がってきた。まずい。

「わー、おまえ、背中になんか線が描いてあるぞ」と周りに言われて、その人は「えっ」と振り向いた。当然、自分の背中は自分で見ることはできない。「どうなってんの?ねえ」と言われても「あっ、いや、この日焼け止めはすごく効くってことがわかったっていうか…」と答えるしかなかった。

その後、数時間ほど海で遊んで帰ったが、その人は日焼け止めを塗らなかった部分は日焼けしすぎて、水膨れになってしまった。病院に行って皮膚科の医師には「どうして日焼け止めを塗ったの?きれいに日焼けしたかったならサンオイルを塗るべきだ」と言われて帰ってきたそうだ。

その人は今どこでどうしているのかわからないが、その日焼けの痕ももう、きれいになくなっていると思うので、わたしの失敗もすっかり忘れてくれていると思いたい。




サポートいただけたら、次の記事のネタ探しに使わせていただきます。