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どこなら
朝、電話が鳴った。「早すぎたかしら」とその人は言う。日曜日の午前9時。わたしは起きていたので「別にいいのよ」と答えた。「3時から起きていたの」と彼女は言って、わたしには6時間も待たせてしまった、という罪悪感が芽生える。しかし、6時間も待って、わたしに知らせたかったことってなんだろう。
「お墓の抽選に当たったのよ」 なるほど。
聞けば、彼女の旦那さんの家の話だった。遠方のご親戚が高齢で本家の墓をもう見ることができないから、なんとかして欲しいと連絡があったそうだ。その翌日には本家から位牌がゆうパックで送られてきたので、墓じまいをして、彼女の自宅近くの霊園に合葬することに決めたらしい。
それで、人気の霊園に申し込んだところ、すぐに当選。
こんなにとんとん拍子に決まるのは珍しいことらしい。
「市営だから安いのよ」と言うので、値段を聞いてみたら「合葬はそうでもないけれど、区画分はそれなりにすると思うわ」と彼女は言ったが、金額は言わなかった。そのことが「あなたには買えないと思うわ」と言われたような気がして、ちょっと悲しい。
その霊園ができた頃はまだ田舎だったが、土地開発が進んで、今は一等地になっている。たとえ一等地でなくても、お墓は安い買い物ではないことも、わたしは知っている。買えるはずはないとわかっているが、聞いてみたいじゃないの。ちょっとくらい、話に踏み込んでもいいじゃないの。
突然、彼女が言う。「でもわたしは、旦那と同じお墓はいやよ」えっ。そうなの?「だってお墓に入ってからもワーワーあれこれ言われたくないじゃない?」確かに、口うるさい旦那さんだと聞いたことがある。なるほど。
じゃあ、合葬?と聞くと「それもいや。だって、知らない人たちと一緒なんて、誰がいるかわからないし、うるさいおばさんとかいたらイヤでしょ?」 あ〜。そうね〜。とわたしは答える。静かに眠りたい、というのが最大の条件なのだな、この人は。
「だから、樹木葬にして欲しい、って家族には言ってあるの」なるほど。
「まあ、死んでみないとわからないけどね。みんなシーンと静かにしてるかもしれないし、ワーワー騒がしいかもしれないし」と彼女は笑った。
そうよね、とわたしも相槌を打つ。
死んでみたことがないからわからないし、一生に一度、というか、一死に一度の決断だ。どうやって決めたらいいのだろう。どこならいいのだろうか。
ま、それより今は、わたしは生きている間に住む場所の心配をしなければ。
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