はんせい
昨日、ムスメが学校を早退した。体調が悪いというのでわたしは仕事場から遠隔操作で、まずオットにお金を用意してもらい、次にムスメに病院に行くように指示した。
家に帰るとムスメは「860円だった」と言った。制服のポケットから千円札2枚と小銭が140円出てきた。「お父さんからいくら預かったの?」と聞くと「一万三千円」と答えた。「いちまんさんぜんえん??」と、わたしは聞き直す。
「うん」「どうしてここに2140円しかないの?」「うそ。ちゃんとポッケにあるはず」「ないよ」「うそおおおおおおおおお」
一万円札を落としたのだ。「なんで裸銭を持って歩くの!しかもこんな大金を!」わたしはムスメを責めた。いつも、なのだ。どうしてお金を財布に入れないで歩くのだろう。ポケットにじゃらじゃらと小銭を入れて、お札はくしゃくしゃになっても気にしない。
ムスメは半べそ顔で慌てて「探してくる!」と家を飛び出していった。見つかるわけがない。紙切れだからどこかへ飛んでいってしまったかもしれないし、誰かが拾ったとしても名前が書いてあるわけじゃないから、スッとポケットにしまったかもしれないし。100%戻ってくるわけがない。
わたしは次の手を考えていた。オットに返す一万円をどこから捻り出してくるか。生活費は次のお給料日まで残りわずか。そこから一万円を使ってしまうと残り10日分の食費が危うい。いやしかし、それ以外だとわたしのなけなしの貯金を切り崩すしかない。痛いなあ。
さて、ムスメはどうなったか。電話をかけてみると「ない〜」と涙声だ。わたしは気休めにでもなればと思って「交番に行きなさい」と言った。
一応、保護者なのでわたしも行くことにした。交番に着くと、ムスメが背中を丸めてちんまりと座っていた。つい立ての向こうで、若い警官が黙々と書類に何かを記入している。わたしが入っていくと、別の警官が「そこにお座りください」と椅子をすすめてくれた。
若い警官は、書類からパソコンに目を移したとたん、ガタンといきなり席を立って、ドアの向こうに消えた。そして1分くらいで戻ってきた。ムスメに小さな紙を渡しながら、「明日、ここに電話をしてみてください。もしかしたら、拾得物として預かっている可能性があります」と言った。ムスメの表情にスッと光が射したように見えた。
「システムの都合上、いくらなのかはわからないのですが、今日の日付で現金の拾得が記録されています。今は金庫に入れられて、金額も拾われた場所もわからないので、すみませんが明日確認してください」
まだわからないが、その可能性は若干あるというのだ。びっくりだ。もし拾った人が届けてくれているとしたら、なんていい人。なんていい町。戻ってくるはずないじゃん、と初めから決めつけていたわたしの心の荒み具合よ。
反省。