しんせつ
人に優しくされた。ありがたい。
3月30日は健康診断の日だった。年度末の3月31日までに受診しなければならないのだが、いつもの健診センターは1月の段階ですでに予約で完全に埋まっていた。仕方なく、自宅から一番遠い区まで行くことになってしまった。
初めて行く病院、初めて降りる駅。いきなり道に迷ってしまった。改札の出口すらわからない。地図を見ても、スマホの地図アプリを見ても、釈然としない。イチかバチかと思って大通りに出てみることにした。しかし、行けども行けども、それらしい建物はない。地図をもう一度見る。あれ?逆なの?
来た道を戻りはじめたものの、やはり地元の人に聞いてみるか、と通勤途中らしい人に聞いてみた。「あっ、逆ですよ。こっちです。一緒に行きましょう」わたしは正しい道を行っていたのに、逆向きに引き返していたのだった。
その人は単身赴任で会社の近くに住んでおり、熊本のお母さんも今日、健診の日だと言っていた。そして、わたしが行く病院は、「めちゃくちゃ混みますよ」ということだった。その土地を熟知しているだけに、裏道からショートカットしたルートでどんどん進む。そして、病院の前まで送ってくれた。「ご親切にありがとうございます。今日一日、いいことがありますように」と、お礼を言って別れた。
健康診断は思っていたよりもサクサク進んだ。そして、食事券をもらって昼食をとり、帰ることにした。心地よい電車の揺れに、いつのまにか眠ってしまっていた。
とんとん、と肩を叩かれ、ハッと目を覚ますと、大学生くらいのめちゃくちゃ可愛い人がそこにいて、わたしの顔を覗き込んでいた。「終点ですよ。大丈夫ですか?」
あらま。これはこれは、ご親切に。わたしはお礼を言って電車を乗り換えた。
ここのところ、厳しい人とか、意地悪な人とかが周りにいたから、心がすっかり荒んでいた。人を信用できない気持ちにもなりつつあった。そんな時にこの優しさ。人から親切にされるとなんか嬉しい。わたしも人に親切にしよう、と思った。
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