野球初心者の同僚と横浜スタジアムに行った話。
9月下旬に差し掛かる頃、わたしはデスクでベイスターズの試合日程を見ていた。月末か10月頭のどこかで試合を観に行こうか迷っていたからだ。別に1人なので、極端な話前日にチケットを取っても良いのだが、行くならば9/27のイベントデーか10/1-2の土日にゆっくり行くかと考えていた。
そんなことを考えていると、隣の席の同僚が最近神宮球場で野球観戦デビューをして野球観戦の面白さに触れて、他の球場にも行ってみたかったと言う。わたしは「横浜スタジアムは彼女の家から遠いし、しかも休みを1日頂くのもなぁ…」と迷いつつ、「もしよかったらなんだけど…」と恐る恐る誘うと「行きたいです!」と思っていた以上の快諾の返事が来た。予定を合わせた結果、10/2の本拠地最終戦に行くことが決まった。
ちなみにこの同僚は美意識が高く常に日傘を差し食べるものや美容、全てに気を遣う比較的高級志向の気があるお嬢様である。野球に関しての知識はそこまで無く、神宮にもたまたま友達に誘われただけで、贔屓の球団も無いが、わたしがベイスターズファンなのは知っている程度だ。
チケットを発券して渡すとテンション高めに「何着ていけばいいですか!!」と聞かれて不覚にも驚いてしまった。野球観戦初心者という感覚が久し振りなので、そういった感覚が無かったからだ。咄嗟に何も思いつかなかったわたしは一言こう答えた。
「一塁側だからオレンジの服じゃなきゃいいんじゃないかな…」と。
そして来る10/2。彼女とは関内駅へ向かう電車の中で合流した。関内駅を降りてすぐ横浜スタジアムを目にすると彼女は興奮気味に写真を撮っていた。この気持ちはいつまで経ってもとてもよく分かる。関内駅から出てすぐの横断歩道は日常から非日常への横断歩道だからだ。
今回取った席はライト側のウイング席だったので、スターサイド(三塁側)の入口から入り、スタジアムのコンコース内をざっと案内をした。ウイング席に向かうエレベーターへ向かうと「エレベーターあるんですか!?」と彼女は驚いた。そう、彼女はまだウイング席の高さを知らない。
席に着くと高さに驚きつつも、高さよりもスタジアムの絶景と恐ろしいくらいの晴天の方が驚きを上回ったようだ。下の階に降り、食べたいグルメを選ぶ。球団が出しているレモンサワーと大きなチキンと大きなポテトを選び、両手いっぱいにスタジアムグルメが広がる。きっとどれも目新しく映ったのだろう。そんな同僚を見て敢えてわたしは何も食べ物は頼まなかった。その後わたしの読みは当たり、わたしは余ったポテトを食べることになった。普段からあまり量をこなさない彼女が、さらにこの後レモンサワーとみかん氷、アイスクリームまで食べていたのだから、スタジアムグルメには相当満足したのだろう。
試合が始まると、先頭のランナーが出塁をしたところで、彼女は疑問を抱くような顔をしてわたしを見てきた。先頭ランナーがなぜ出塁したかが分からない、そう、「四球という概念が彼女の中に無かったから」である。とりあえずホームベースの左右にある白いラインの外に4回球が行っちゃう、もしくは相手に当てちゃうとヒットを打たなくても出塁になると説明して納得してもらえた。その後試合を観ている中で疑問を浮かべた彼女に「2ストライクからのファウルはストライクカウントが増えないこと」と「リクエスト」、「代えられた選手は試合に戻れないこと」を説明した。
その後、少し席を出て、グッズショップやフォトスポットを回った。彼女には配布のユニフォームとタオルを1枚貸していたので、記念に写真を撮りたいと話していたからだ。スタジアムを巡る中で「神宮とは全然違って広いですね!」と話していた。確かに神宮は気軽に行けてチケットも取りやすい良さはあるが、ハマスタのようなテーマパーク感は確かに無い。どうやら野球以外の要素の方が新鮮だったらしい。
席に戻って少し経つと、わたしが貸したタオルを掲げたり応援歌や登場曲に手拍子をしたりと、だいぶスタジアムの風景に馴染んでいった。わたしは彼女が残したポテトを食べながらしみじみしていた。試合はまだ面白くない負け方だったが。
ここで困ったことが起きる。彼女はグラウンドを観て理解不能な顔をする。6回表、大幅な守備変更があったからだ。
投手交代: 石川 → 東
守備交代:キャッチャー 伊藤
守備変更: 柴田 サード→ショート
守備変更: 藤田→サード
となり、スタメンだった戸柱と森が下がった。
さらに9番石川の代打に藤田がそのまま入り、
8番の森のところに東が入ったため、彼女は理解が追いつかなくなった。いやわたしも追いつかんよこんなの。
とりあえず、先発以外の投手には長いイニングを投げさせたい場合を除き、基本代打を出すものだと説明した上で、内野手の控えの人数の関係と、次の回が2番楠本からの打順なので8番に投手を入れればすぐには代打が必要無いことを説明した。どうにか理解して貰えたようだ。
しかし、その後ソトが出塁すると代走に神里が入り、彼女はまた混乱をする。ソトの代走神里は想像の範疇だったので、「神里は足に自信のある選手」ということ、それに佐野が一塁も守れることは予め話していたので、「佐野が一塁に行って神里がレフトに入るんじゃないかな」と説明をして、そこはすんなり理解したようだった。
まぁ、この後牧が下がり、大和がショートに入り柴田がサード、藤田がセカンドに入ったときは説明を放棄して「主力を休ませたいのと色々守りを試したいんじゃないかな、CS近いし」と話すに留めた。どんだけ使うんだ選手を、全く…。
ちなみにCSに関してはリーグ戦の準決勝と決勝みたいなもんと話した。これもまた非常にやっかいな話だ。
9回表2死、投手が平田から山﨑に代わったところで球場がどよめき、歓喜の声と共にお決まりのアレが始まる。ヤスアキジャンプだ。声も出せずジャンプも出来ないが、球場のボルテージは一気に上がった。「これ何ですか?」と聞く彼女にヤスアキジャンプを説明しながら、コロナ禍前はヤスアキジャンプでもっと盛り上がったんだよなぁと寂しさがよぎったが、声出しやジャンプは出来ずとも、32,800人の観客がヤスアキジャンプに盛り上がる光景は圧巻だった。
試合は追い上げも及ばず、惜しくも負けてしまったが、最終戦セレモニーの花火とペンライトに彩られた客席には彼女も恍惚としていた。野球初心者の彼女にセレモニーまで付き合わせた申し訳無さはあったが、ある程度満足はしていたようだ。
試合終わり、次はドームに行ってみたいと話しつつも「来年もまた誘ってください!」と話してくれた。彼女がベイスターズに心揺らされることを信じることを含め、次の春の楽しみが増えた。