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吉祥寺GORILLA『誰か決めて』の感想メモ

7月10日夜に花まる学習会王子小劇場で観た、吉祥寺Gollira『誰か決めてよ』の感想

物語の流れというか観る側を運んでいく語り口が抜群に上手い。

入場すると舞台はたくさんのゴミ袋に埋まっている。「ロ」の字型に通路が設えられていて真ん中が低くなっていて、すでにすこしずつ片付けが始まっている。
開演、彼らはゴミ整理をしながら何かを探していることがわかる。やがて一冊のノートが出てきて、それ自体は探している物ではないらしいのだが、作業員のひとりがそれを読み進める態でその場所から物語が解けていく。何かを探すゴミ整理の今を起点にノートを読む態で、物語が解けていく。

上演時間は130分とやや長めだけれど、ノートに描かれたことを追う俳優達の作る時間がとてもよい塩梅に空間を操りノートの世界が自然に広がる。
最初のノートがまず見つかり、ゴミの整理とノートに紡がれた物語の行き来が始まる。区切りの要所要所で新しいノートを差し入れられて急がず滞らず観る側を物語に引き入れていくことに冗長さがない。そのノートは春夏秋冬と4冊にわかれていて、順番にみつかるごとに、物語が新たに歩みパズルのピースが填まるように描かれる世界が輪郭を持ち、少しずつ質量や伏線を与えられ広がる。部屋が片づいていく行程とともに、埋もれていた時間の積み重なりが膨らむ。終盤それらが束ねられ、観る側を得心させ、その時間を生きた登場人物のありようを、切なくも、あたたかくも、観る側が受け取った記憶の実存感にまで歩ませ残す。なんだろ、それはとてもまっとうな組み上がりで、物語の語り口にとてもよく仕組まれた作劇の企てが潜んでいるとは思いつつ、それがあざとさにならず、不思議な新鮮さを感じる。観る側が舞台に寄り添って展開を受け取れるというか、ベタな言い方だけれど、上手いなぁと思う。

物語には俳優の力で切り開くような見せどころがうまく組み込まれていて、なんども拝見した俳優達であってもさらにしっかりと人物を作り込み演じる力に新たな見応えを感じる、それぞれの地力や新たな引き出しや魅力を感じることができるのが良い。振り返ってみると単に刹那を描き出すのではない人物の背景を描き出す力が求められていて、実際そのシーンたちは4冊のノートの読み進みの中での物語を、訪れるそれぞれの場に際立ち、しかも物語の血肉となり唐突さや違和感がない。観終わって俳優達の腰の据わった演じる力がとてもよく引き出され生かされていると思ったし、描かれる世界を支える作り手の俳優への信頼を感じたりもする。すでに何度も拝見した俳優達の新しい引き出しを観るような場面が何度もありそれにも心惹かれた。

初見の劇団、初めてみる作り手の作品、派手さはないのだけれど、目を瞠るような斬新さはないのだけれど、終演後に訪れた良質な充足感は、次回への期待となる。注目する団体がまた一つ増えた。

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吉祥寺GORILLA第3回公演
『誰か決めて』
2021年7月7日~11日@花まる学習会王子小劇場 
脚本・演出 : 平井隆也(吉祥寺GORILLA/24/7lavo)
出演 : 石澤希代子、榎本悟(シアターキューブリック)、岡野優介(クロムモリブデン)、鹿島曜、神野剛志、日下麻彩(常民一座ビッキンダーズ)、黒沢佳奈(火遊び)、星秀美、平井泰也 魔都、宮部大駿、森崎真帆

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