ルサンチカ『殺意(ストリップショウ)の感想』
2023年5月17日にアトリエ春風舎で観たルサンチカ『殺意(ストリップショウ』の感想。
東京での公演は終了しましたが京都で公演が予定されている舞台でありネタバレを含みます。これからご覧になる方はご留意くださいませ。
三好十郎の戯曲はいくつかの団体での上演を観ているが『殺意』(ストリップショウ』は初めて。
ひとり芝居、忽ちに取り込まれ105分を俳優の掌の中で様々に揺すぶられながら観続けた。
舞台にダンサーの衣装を纏った女性が現れる。洒脱な舞台美術、華やかなジャズが場内を満たす。やがてその場所は敗戦後暫く跡の高級なナイトクラブと知れる。彼女のその店での最後の舞台、ご贔屓への挨拶の態で彼女自身がそこに至る半生を紐解いていく。
演じる渡辺綾子はたしか10年程前に王子小劇場の「イッパイアンテナ」の公演で拝見したことがあり印象も残っていたが。今回はいきなり手練れのダンサーの風貌を舞台に立上げ、観る側を一気に手元にたぐり寄せる。台詞に加えて身体の動きにも手練れのダンサーの貫禄というかバレエを見るような優雅さと安定がある。語られるその言葉には強さや確かさに加えて観る側が気がつくかつかないかの塩梅で西のアクセントも差し入れられ、それが彼女の存在を舞台のうちに留め置かない、ひとりの女性としての実存感となり、観る側に入り込んでくる。衣装を絡めた所作にもたくらみがあってそれが物語のニュアンスとして積み上がる。
故郷にいたころ、上京しての日々、戦争前夜、戦中、そして戦後の混乱期。時代ごとの彼女の思索や時代の色合いがその語り口に編まれ、温度や呼吸を持ち、その想いに捉えられた先には彼女の視座からのこの国のありようが浮かび上がる。
照明や美術にも瞠目。劇場に足を踏み入れた瞬間にアトリエ春風舎で観た中でも一番おしゃれかもしれないその美術の洒脱さに目を奪われたし、時に華やかに輝きあるいは鈍となり場を凍らせる照明にも心染められる。舞台奥の照明は時に素敵に滲んで観る側の目を眩ませるし、床に設えた9面のパネルたちは、その色を変え時に物語のトーンを作りあるいは歩ませる。上手奥の大きなミラーボールにも様々な空気を作る力があった。また、音楽も場の空気に様々な肌触りを与えていたように思う。
終盤、彼女が抱く「殺意」が概念に留まらず観る側が心のうちに醸成されるものとして訪れる。だからこそその解け方にも違和感がなく、そこから歩み出しての冒頭の彼女とも物語が繋がる。気がつけば舞台はひとりの女性が客席全てをかぶりつきと為し、釘付けにししたその視線に一枚また一枚と内心を惜しげもなく晒していく(ストリップショウ)であった。
戯曲は終戦から5年後の昭和25年に書かれたものだという。帰宅して青空文庫で一気に読んだ。俳優の力に加えて、戯曲に抗うことなく時代の匂いを古びたものにすることなく生かし、その世界を空間に描き出した演出の力にも舌を巻く。圧巻だった。
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ルサンチカ『殺意(ストリップショウ)』
2023年5月15日~21日@アトリエ春風舎
作 :三好十郎
演出:河井朗
出演:渡辺綾子
音響・照明:櫻内憧海
ドラマトゥルク・舞台監督:蒼乃まを
制作:金井美希