視点『SHARE'S』A・Bチームの感想
2023年3月16日に座・高円寺1で観た視点『SHARE'S』A・Bチームの感想
視点『SHARE'S』は8団体が参加。2団体ずつが3~4公演を行う。
ルールというかこの企画の創作条件は
・基本的にワンシチュエーション
・出演人数は問わない
・音響、照明操作はシンプルであること
・上演時間は60分(一幕のリアルタイムである必要はなく劇中で時間軸が飛んだりしても良い)
・新作でなく既出の戯曲を60分に改稿したものでもOK
とのこと。
そして
「一番大事なことは、カンパニーや劇作家にとってマスターピースだと思える作品であること」とある。
この条件の中で、これまでにも良き舞台をたくさんに拝見している団体がどのような舞台を60分に編み上げていくのか。まずは最初の2団体の舞台にワクワクと足を運んだ。
劇場に入ると高円寺・1の大きな舞台空間をほぼ素舞台として使うような印象。ただ、中央に大きく長方形の枠が描かれている。開演30分前の開場。前説を聴いて舞台が始まる。
・東京にこにこちゃん『またね?ばけものかぞく』
脚本・演出:萩田頌豊与
出演:るい乃あゆ 、四柳智惟、 澁川智代【右マパターン】
モリィ【NATURE DANGER GANG】、 木乃江祐希【ナイロン100°C】、
髙畑遊【ナカゴー】、 鳥島明【はえぎわ】
尾形悟【マグネットホテル】
「東京にこにこちゃん」は、その緻密に作り込まれたラフさに惹かれて、いろんな手練もあって、昨年も何度か公演を観ている。
今回もその語り口にしっかりと引込まれた。劇場を生かすために出捌けやシーン毎のミザンスなども上手く工夫され、物語に味わいを与える要所で醸される恣意的な手作り感もよい。どこかクレヨン画のようなラフさを感じたり、確信犯的にベタだったり、踏み出したり手を抜いたような表現などもあって観ていて吹き出したりもするのだが、それがあるからこそ豊かで崩れないテンションや演じるパワーや物語のあゆみを受け取り、楽しみ、その顛末を手放すことなく追いかけてしまう。俳優達が作り込む人物の風貌も良く生かされ、空間を散漫にせず舞台に呼吸を与えていく。
観ていて、展開になんとなく乗せられてしまうし、どこからがクライマックスもあからさまにわかるし、終わってみれば60分の尺に物語がきちんと収まり、作り手の掌に乗せてもらった感を抱きつつ俳優の頑張った感もたんと残る。
本公演でも恣意的なチープ感を時たま武器にしたりしていたけれど、そういう意味では4脚の椅子やしっかりとアバウトに作られた小道具にも良き力があって、素舞台と俳優で組み上げる展開の自由さをしたたかに支えているようにも思えて。
観終わってたとえそこに60分の制約があっても、ショーケース的な側面を持つ公演であっても、そんなことに捉えられることなく彼らの良き作品の記憶がまたひとつ増えたような気分になった。
(休憩15分)
・elePHANTMoon『落書き』
脚本・演出 : マキタカズオミ
出演 :井神沙恵(モメラス)、加藤なぎさ、菊地奈緒、
寺内淳志、吉田庸(声の出演)
「elePHANTMoon]はほんとうに久しぶりに観る。一時期はそれこそ毎公演を欠かさずに観ていた。ただ、嬉々として観にいっていたというのとは少し違っていて、逡巡しながらも抗えない引力にたぐり寄せられるように劇場に足を運んでいたように思う。
開演前から「人殺し」の文字が舞台中央に掲げられている。それが引きちぎられ暗転。明転後には机の下に潜り込むひとりの女性の姿から物語が始まる。「人殺し」は女性の部屋のドアへの落書きと知れる。
その部屋に弟が訪れる。友人の女性もやってくる。母親の幻影も現れる。そして彼女の父が国政選挙に出ることも、彼女や異国に駐留していたときのエピソードや呪術のことも解ける。それらが異なって、でもルーズに繋がり重なって、自らでは御し得ない彼女にかかる圧のようなものに変わっていく感覚が舞台に生まれ、観る側の感覚と無意識の狭間のあたりを満たしていく。俳優達の演じ方に狂気のあからさまさや徒なバイアスの掛け方はなく、にもかかわらず、舞台上に編まれる常軌の内からどこかはみ出したような、自らの想いの内に留めておけないような、狂気の水際への追い詰められていくような、苛まれるような鈍の質感に染められる。抗うのではなく、むしろ自らその不気味さを呑み込むラストシーンが、奇異に呑み込まれたその女性にとっての必然に感じられて息を呑む。そのまま暗転。
かつての「elePHANTMoon」の舞台がそうであったように、カーテンコールなしでの終演。客電が灯り、形にならない、言葉では表現できない、よく研がれた不穏な気持ちや行き場のなさが残る。
そうだ。かつてもこうだった。マキタカズオミ作劇のこの吸引力に囚われ続けていたことが蘇り、暫くの間その記憶に浸され、席を立つことを忘れてあかりの落ちた舞台を見つめていた。劇団の次の公演があれば、昔のように少し躊躇いながら、でもきっと観にいく。
終演後、どちらの舞台にもしっかりと心を奪われていただけではなく、全く違った作風の2作品が離反せず互いを映えさせるように記憶に刻まれていてそれも面白いとおもった。
視点『SHARE’S』は残り3舞台も完食予定。他の舞台たちもとても楽しみである。
視点『SHARE'S』C・Dチームの感想はこちら
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