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久保磨介・藤本康平企画公演『もういらなくて綺麗』の感想メモ

2023年2月23日昼に池袋スタジオ空洞でみた久保磨介・藤本康平企画公演『もういらなくて綺麗』の感想メモ。

団体も、作・演出の方の作品も観るのは初めて。

冒頭、舞台の視座を担う結美(波多野伶奈)がひょこっと舞台の隅に顔を出して場内を眺め、それから歩み出し、前説をして舞台が始まる。するっと舞台の世界に取り込まれる。

大学入学で上京する結美、コンビニ店長をしているその父親(安東信助)。彼女を東京で受け入れる叔父(藤本康平)、そのウエディングコンサルタントの叔父と一緒に仕事をしている女性(田久保柚香)、そこに取材に訪れる記者(板場充樹)。結美の父親のコンビニでバイトをしている地元の友人(ふなきみか)、大学で親しくなった1年先輩の女性(村上弦)。父親が結婚を望む女性(丸本陽子)。登場人物は8人だがその人間関係に曖昧さがなくとてもわかりやすい。
それぞれが少し強めに編まれた個性というか色を持ち、その交わりの先にいくつものエピソードが編まれる。その語り口のバランスがよく研がれていて、前半に登場人物たちがくっきりと描かれ中盤以降にその色たちが舞台を支え膨らみを醸していくことが、顛末を追う観る側に直感的なシーンごとの呼吸を渡し、一つずつのシーンでの気づきや味わいとなり重なっていく。またその中に仕掛けられたウィットや小ネタも上質で、冗長さに陥らず舞台の温度を醸していくことにも作り手や演じてのしたたかさを感じつつ惹き込まれる。
そこには観る側を繋き、物語を眺める居場所を与え、楽しさにも緊張感にも実存感にも染めながらその顛末を追わせてくれる力があった。

スタジオ空洞の舞台スペースを上手く使っての場のつなぎ方も上手い。音の使い方にも要所での常ならぬ企みと切れがあって、心地よいメリハリを感じる時間やニュアンスが生まれていた。俳優たちのお芝居に解けていく人が人を想うことの煩わしさも、逡巡も、ぬくもりも、高揚も、切なさも、これらの場転や音のメリハリに映え、澱まず、滲まず、ぼやけずに、時にコミカルに、様々にたっぷりと伝わってきたように思う。

そしてなにより舞台に、登場人物たちの日々を生きる瑞々しさが宿っているのが良い。ただ生きることだけに追われているのではなく、ひとりひとりが過ごす時間に異なって満ちていくものがあることが、人が日々を生きる温度や彩となり観る側に残る。
昨今は生きることへの閉塞感や日々の行き場や出口のなさが描かれる舞台も多く、もちろんそこにはこの時代へのたくさんの思索も生まれるのだけれど、それと同じだけ日々を過ごす確かな呼吸を伝えてくれるこのような舞台も観る側にとって生きることを見つめる意味での値打ちがあるというか、そこに流れる時間が愛おしく美しく強くて心を繋がれる。終演後には彼らの歩む毎日をもう少し先まで観続けていたいと思った。


―久保磨介・藤本康平企画公演『もういらなくて綺麗』―
2023年2月22日~2月26日
池袋 スタジオ空洞にて
脚本・演出: 久保磨介
出演:
安東信助 (日本のラジオ)
板場充樹 (猿博打)
田久保柚香
波多野伶奈
藤本康平
ふなきみか
丸本陽子
村上弦 (猿博打)
 
上演時間 94分

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