戦略的であるための6条件
2020年6月3日のMBA Essentialsのレポートです。
今回は、山田英夫先生による「経営戦略~戦略的とは何か?」です。
山田先生につきましては、下記を参照ください。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E7%94%B0%E8%8B%B1%E5%A4%AB_(%E7%B5%8C%E5%96%B6%E5%AD%A6%E8%80%85)
今回は、戦略的であるためには何が必要か、という内容が主な内容でした。
「戦略的であるための6条件」とは、下記のような要素です。
(1) 全体志向
(2) 重点志向
(3) 顧客志向
(4) 競争志向
(5) 事実志向
(6) 利益志向
一つ一つ説明していきます。
(1) 全体志向
こちらは正直ポイントが分かりにくかったのですが、下記の本の中で山田先生が書かれた内容を加味すると、
https://www.amazon.co.jp/dp/482224900X
- 部分最適ではなく、全体最適を目指せ
- 永遠に良い戦略は存在しない。外部環境との整合性を常にとっていくことが必要(外部整合性)
- 会社内部における戦略の重要なツボを押さえ、それに向かって会社全体で取り組んでいくこと(内部整合性)
ということだと思いました。
内部整合性が分かりにくいかもしれないので、補足すると、授業ではサウスウェスト航空について取り上げられていましたが、サウスウェスト航空は、戦略の中で重要なものを「15分のターンアラウンドタイム」と定義し、全ての活動がここに繋がっています。それにより、内部の活動がこの戦略に全部フィットしていて、全社一丸となってこの方向に向かっていけている、ということです。
また、世の中には様々なフレームワークが溢れていますが、ただ使うだけでは意味がなく、そのフレームワークをいつ、どのように使うのか、というのを理解しておく必要がある、ということでした。例えば、よく使われるSWOT分析、というのがありますが、こちらも、ある程度商品やマーケットなどを意識して使わないと、誰に対して強みがあるのか、といったことが定義出来なくなるので、意味のない分析になってしまう、といったことです。
(2) 重点志向
こちらは、端的に言うと、「全部重要」はダメだということです。
仕事を行なう上で、トレードオフが発生することは常にあるわけで、その際の判断基準がないと、戦略的とは言えない、ということですね。
授業の中では、例えば、ヤマト運輸は、「サービス>利益」という方針を出している、という話が出ていました。このように、明確に方針を出しておかないと、人によって対応がばらついてしまい、サービスレベルが一定しない、といった問題を引き起こしてしまいます。
ただ、ヤマト運輸は、「時間指定配達」というアイディアにより、サービスと利益を両立することに成功します(ヤマトにとっては、再配達が最もコストがかかるため)。こういった、トレードオフをトレードオンにするようなアイディアを考える、というのも重要なことです。
また、戦略においては「選択と集中」ということがよく言われていますが、これにも2種類あり、
- 事業分野の選択と集中
- 機能分野の選択と集中
というのがあります。
「事業分野の選択と集中」に関しては、端的に言うと、中途半端な規模の事業が一番苦しくなる、ということです。(Stuck in the Middleと呼びます)
よって、業界4,5位くらいの会社は、抜けだすには、
- 大きくしてチャレンジャーになる(例: スタバ)
- 小さくしてニッチャーになる(例: DENON)
- マルチニッチ戦略(例: 小林製薬)
あたりの戦略が必要になる、という話でした。
「機能分野の選択と集中」に関しては、最近バリューチェーンの一部だけを担う会社、というのが増えており、そういった形で選択と集中をする、ということもある、という話でした。
例えば、セブン銀行は、ATM専用の銀行なのですが、ATMの管理などは結構大変なので、ATMはもう全部セブン銀行にしている、という銀行もあるそうです。(新生銀行の新宿視点は、銀行に入るとセブン銀行のATMがずらーっと並んでいて、来る銀行間違えたかな、と思うくらい、とおっしゃっていました)
(3) 顧客志向
こちらは、「自分達にとっての顧客は誰なのかを考える」ということです。
直接的な顧客にしても、
- 購入を決める人
- お金を払う人
- 商品・サービスを使う人
の3種類がいて、どの人を重要視する必要があるのか、というのは重要な視点です。
また、特にB2Bのビジネスなどでは、直接顧客のさらに向こうにいる顧客のことを考える、ということも重要です。
例えば、エルメット・エーザイは、製薬会社ですが、直接顧客である医者の要求は「効くこと」です。ただ、その向こうにいる患者の要求の中には「飲みやすさ、誤飲しにくさ」、なども含まれてくるわけです。そういった、顧客の顧客(customer of customer)のことも考えることで、他社との差別化を図ることが出来る、という事例でした
(4) 競争志向
こちらは、「自分達にとっての競争相手は誰かを考える」ということです。
最近は、技術や、ビジネスのやり方が多様化しており、いわゆる「自分の業界」内だけが競争相手ではない、という話です。
例えば、デジカメ・ICレコーダーの競争相手はスマホになっていますし、USBメモリの競争相手は、今やクラウドです。
また、TVが、ブラウン管⇒液晶⇒有機ELという風に進化していきますが、こういうトランジションがある場合には、どのように自社に優位にトランジションを進めるか、というのも重要な戦略になります。例えば、液晶に強みのあるメーカーは、ブラウン管から液晶へのトランジションは早くした方が良いが、液晶から有機ELへのトランジションは遅らせた方が良いかもしれない、といった話もあります。
(5) 事実志向
こちらは、「固定観念を捨てて考える」ということです。
固定観念によって考え方が縛られた結果、正しい道に踏み出せない、というのはよくあります。(上の競争志向とも繋がる考え方だと思います)
例として出さされていたのは、とある銀行では、営業成績を、総合口座の獲得数で評価していましたが、実は、よく調べてみると、銀行に利益をもたらしているのは、総合口座の顧客ではなく、住宅ローンの顧客でした。それが分かってからは、営業成績の評価基準を、住宅ローン獲得を重視するように見直すことで、業績を改善させた、という話です。このように、総合口座の獲得数が利益に寄与しているだろう、という思い込みがあったことで、間違った道に進んでしまっていた、という例となります。
(6) 利益志向
こちらは、「継続的に利益を上げるためには、儲かる仕組み(=ビジネスモデル)を考える必要がある」ということです。
今や、コスト構造の違う新興国との競争により、高シェアでも利益が低い、ということがざらに起きており、単にシェアを取るだけでは、利益を出すことはできない、ということです。
例えば、セブン銀行は、実はATM専用の銀行で口座はないのですが、ATMって通常引き出す人の方が圧倒的に多いので、そこにどうやって低コストで入金するか、というのが重要な要素になってきます。自社で毎日入金する必要があると、コストがかかり、継続的に利益を上げるのが難しくなるからです。セブン銀行が目をつけたのが、フランチャイズの飲食店やタクシーなどのその日の売り上げの入金です。セブン銀行経由で入金すると、それが即時に本社の口座に入るという、「売上入金代行サービス」というのを最初から導入し、近くの飲食店やタクシー運転手が売り上げの入金をしてくれる仕組みを作り上げることで、低コストで入金することを実現出来た、ということになります。(IRで最も評価されたのが、この仕組みの部分だった、とおっしゃっていました)
今回は要素が多かったので大分長くなってしまいましたが、戦略的であるためには、上記のような視点を全て兼ね備えておかないといけない、という話なのだと思います。自社が戦略的かどうかを、上記の視点で振り返ってみても良いかな、と思いました。
山田先生、どうもありがとうございました。
次回は、2020年6月11日(木) 「イノベーションと組織学習~世界の経営学の視点から」(入山 章栄先生)です。
https://school.nikkei.co.jp/special/mbaw01/