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破壊的イノベーションは既存顧客が価値を感じることが出来ないもの

2020年12月2日(水)のMBA Essentialsのレポートです。

今回は、「イノベーション」(根来龍之先生)です。

根来先生については下記を参照ください。
http://www.wbs-negolab.com/profile/index.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B9%E6%9D%A5%E9%BE%8D%E4%B9%8B

今回の講義で重要だと思ったのは下記の点です。

- 破壊的イノベーションは既存顧客が価値を感じることが出来ないもの
- 破壊的イノベーションは、市場を完全に置き換えるとは限らないし、いつ置き換えるのかも分からない
- 破壊的イノベーションへの対応能力を高めるにはトップ主導の「両利きの組織」への変革が必要

1つ1つ説明していきます。

〇 破壊的イノベーションは既存顧客が価値を感じることが出来ないもの

まず、イノベーションには2種類あります。

- 持続的イノベーション
- 破壊的イノベーション

です。

こちらの二つの違いは、「既存顧客のニーズへの対応の違い」です。

持続的イノベーションは、「製品やサービスの内容を既存のものに比較して向上させるもの」です。すなわち、既存顧客のニーズに応えていくもの、という風に定義できます。

それに対して、破壊的イノベーションは、「本流のマーケットにいる顧客には使いこなせないもの」です。すなわち、既存顧客は、破壊的イノベーションのアイディアに対して特に初期段階では価値を感じることが出来ません。

例えば、デジカメの初期を考えてみてください。最初は解像度も低く、画質も悪かったため、アナログカメラユーザは、デジカメには何の価値も感じることが出来ませんでした。しかし、徐々にデジカメの性能が向上していくと、気づいたら、アナログカメラよりもデジカメの方が便利で画質も十分、となり、アナログカメラ市場はどんどん縮小していくことになりました。

また、破壊的イノベーションには2種類のパターンがあります。

(1) 既存の製品とは異なる視点で価値を提供することで新たなマーケットを創造するパターン

こちらは、例えば、真空管とトランジスタの関係がこれに当たります。真空管は、音声と画像の忠実度という視点で価値を提供しており、卓上ラジオや据え置き型テレビなどを製品化していました。一方、トランジスタは、単純性、携帯性、値ごろ感、という視点で価値を提供し始め、最初は補聴器やポケット・ラジオ、ポータブル白黒テレビなどを製品化していました。音声と画像の忠実度、という観点では劣るものの、それとは違う土俵で勝負し始め、新たなマーケットを創造していきました。しかし、その後、トランジスタの性能が向上していき、音声や画像の面でも十分な品質が得られるようになると、元の真空管の市場までトランジスタが置き換えてしまいました。

このように、別の視点で勝負し始めて、最初は競合ではなかったものが、性能向上を果たしたのちに元の市場も飲み込んでしまう、ということもあります。

(2) 既存顧客のうちのローエンドにいる顧客に対してそれまで以上の利便性か低い価格を用意する、というパターン

こちらは、例えば、ミニコンに対するパソコンが分かりやすい例で、最初は、パソコン価格は安いものの、ミニコンほどの性能がなく、使えないものとされていました。しかし、パソコンの性能が、市場のローエンドで求められる性能を満たしたあたりから話が変わってきます。ローエンドのユーザは、安くて自分の求める性能を満たすものが出てきたため、ミニコンからパソコンに置き換えを始めます。そして、パソコンの性能が市場で求められるハイエンドの性能も満たすことが出来た時、市場はミニコンからパソコンに置き換えられてしまいました。

こちらは、性能という視点は同じなのですが、価格の安い製品が、市場のニーズのボトムライン(=ローエンド)を満たし始めると、元の製品が置き換えられてしまう、ということです。

いずれのケースも共通するのは、既存顧客は、それが出た時点では、そこに価値を感じる出来ない、という点です。それにより、既存製品を作っている会社は、破壊的イノベーションの製品を脅威と思うことが出来ず、軽んじてしまった結果、市場を奪われてしまうわけです。

〇 破壊的イノベーションは、市場を完全に置き換えるとは限らないし、いつ置き換えるのかも分からない

破壊的イノベーションは、その名前から、何か既存の市場を全て置き換えてしまうようなイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

例えば、CDやレコードをほぼ完全に置き換えてしまっていますし、パソコンもワープロを上位互換のものとして完全に置き換えたといえます(これを、完全代替と言います)。しかし、タブレットはパソコンを完全に置き換えるものとは言い難いですし、ICタグもバーコードを完全に置き換えたとは言えません(これを、部分代替といいます)。

また、紙の新聞は、発行部数もどんどん下がっており、そのうち、デジタルに置き換わるだろう、と言われてはいますが、では、いつ置き換わるのか、は分かりません。

このように、もし脅威に気づいたとしても、それが完全代替なのか、部分代替なのか、完全代替だとしても、いつ置き換わるのか、が分からないため、経営判断のタイミングが非常に難しいわけです。経営判断が早すぎると、既存顧客を失ってしまい、かつ、新規顧客も得られない、ということになる可能性もあるからです。

既存顧客を持つ企業には、こういったジレンマが存在するため、破壊的イノベーションは、新規企業から出てくることが多いです。新規企業は、守るものがないので、可能性を信じて新しい価値にどんどん投資していくからです。

〇 破壊的イノベーションへの対応能力を高めるにはトップ主導の「両利きの組織」への変革が必要

「両利きの組織」とは、「両利きの経営」という本で言われている通り、深化と探索を同時追及出来る組織のことです。

深化: オペレーションの効率化、製品やサービスの改善など
探索: 既存事業と異なる製品やサービスの創出

です。つまり、企業は、深化に力を入れる傾向があり、探索が疎かになった結果、破壊的イノベーションを生み出すことが出来ず衰退したり、他社による破壊的イノベーションにより市場を奪われてしまったりする、ということです。

ただ、探索(新規事業創出)は、下記のような傾向があり、実行するのはそう簡単ではないです。

(1) 既存事業と製品市場で競争関係となる(カニバリ)
既存事業と競争関係となる場合には既存顧客を失ってしまうリスクから、手を出せないケースが多いです。

(2) 既存事業と異なる成功法則を持つ
こちらは、例えば、既存事業では失敗は許されないが、新規事業創出では、沢山失敗して学ぶことが成功放送だったりする、といったことです。

(3) 既存事業と異なる人材・事業パートナーが必要
こちらは、(2)のようなことが出来る人材を探し当てたり、新規事業のアイディア次第では今までとは全く異なる人材や事業パートナーが必要なことがあります。が、それを認めることが出来ないと、新規事業創出は難しくなってきます。

(4) 既存事業と異なる組織構造が必要
例えば、既存事業では少し時間をかけて地に足をつけてやっていくのが良いが、新規事業創出では、とにかく早く回すことが重要だったりすると、それに合わせた組織構造が必要となります。

(5) 既存事業と異なる組織文化・制度が必要
こちらも、新規事業創出では失敗を奨励するとした場合、失敗に対して減点評価するような組織文化・制度ではうまくまわらないため、変えていく必要があります。

こういった側面があるため、トップ主導で両利きの組織への変革が必要となります。

講義では、Amazonの探索と深化の戦略的矛盾(カニバリ)について紹介されていました。

2002年 古本のマーケットプレイスの開始
- 新刊のEC(深化) vs 古本の仲介(探索)

こちらは、古本のマーケットプレイスを行なうと、Amazonの既存事業である新刊のECの売上が下がる、ということです。

2006年 AWS(クラウドサービス)を開始
- 自社の基盤(深化) vs 競合他社への提供(探索)

こちらは、自社で使っていた技術を他社に提供することにより、他社がより良いものを作ることを後押ししてしまう、ということです。

2009年 PB商品「AmazonBasics」を開始
- 加盟店のマーケットプレイス(深化) vs 自社PB(探索)

こちらは、自社PBを出すことで、Amazon自身がマーケットプレイスの加盟店の競合になることで、マーケットプレイスが衰退してしまうかも、ということです。

2016年 動画配信受信デバイス「FireTV Stick」発売
- Amazon Prime Video(深化) vs 他者配信 (YouTube等)(探索)

こちらは、FireTV Stickで他社の配信サービスも見れるようにすることで、他社の配信サービスもより伸びてしまうかも、ということです。

こういった形で、自社の脅威になりうることであっても積極的に行なっているのがAmazonと言えます。逆に言うと、そういったことを恐れていないが故に今の発展があるのかもしれません。

また、なぜAmazonが上記のような戦略を取ったか、というと、Amazonのミッションステートメントから来ています。

Amazonのミッションステートメントは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」であり、Amazonは、「すべてのビジネスは、お客様を起点としたものとしなければならない」、と考えています。

よって、お客様視点で考えた時に、どちらがより良いか、ということを考えた結果が、上記の戦略をGOした理由になっているわけです。ミッションステートメントと照らし合わせた結果、カニバリがあったとしても、お客様によりよい戦略をとる、というのは非常に理に適っていると言えますね。

今回の内容は非常に示唆に富むことが多く、学びが深かったです。
根来先生、ありがとうございました。

次回は2020年12月9日(水)「グローバルビジネス~海外戦略」(平野正雄先生)です。

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