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ハッピーホリデイ -Café yorumachi-

初めまして、ラウラと申します。
私はドイツ人で、日本の文化を学ぶため日本に住み、Café  yorumachiの店長として働いています。日本に移住して15年が経過しました。
このお店はドイツをコンセプトにしています。

「こんにちは。」
このダンディな白髪交じりのおじ様は常連のお客様の田辺さんです。
とても上品でお洒落な雰囲気で、お客さまとの交流も積極的にしてくれます。

「こんにちは、素敵なゲストもご一緒ですか?」
「はい、孫を連れてきました。アンナさん、挨拶してください。」
「こんにちは。アンナです。」
「ご挨拶出来て偉いですね!ラウラです。」
2人は恥ずかしそうに田辺さんの後ろに隠れてしまいました。

「では、お好きなお席にお座り下さいね」
「ありがとうございます。」

「ラウラさん、コーヒーとココアをお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」

私はオーダーの準備を進めていると、しずくが話しかけてきました。
「いつもよりも田辺さんの眼差しが優しく感じます。とっても可愛いです。」
「ほのぼのしてて、こっちまで癒される。素敵なおじいちゃんなのがよく分かるね。」

私としずくもその様子を見て、温かい気持ちになりながら、飲み物の準備が整いました。

私はしずくに田辺さん達の分の飲み物を手渡し、運んでもらうように伝え、
しずくは張り切りながら足早に田辺さん達の元に向かいました。

「田辺さん、コーヒーです。
アンナちゃん初めまして、しずくです。
熱いから気をつけて飲んでね。」

「しずくさん、ありがとうございます。」

「「ありがとう」」

田辺さんも思ったよりも大きな声で言ったお礼に驚きながら、笑顔でお礼を伝えています。

「今日はお出かけだったんですか?」

「クリスマスプレゼントを見に街へ出かけてきました。」

「クリスマスの雰囲気って素敵ですよね。」

田辺さんとしずくが話していると、アンナちゃんが話しはじめました。
「クマさんが居たの!可愛かったの!」
「アンナちゃんはクマさんが好きなんだね、会えてよかったね。」
「でもサンタさんには会えなかった。」
「サンタさんには会えなかったんだね。きっとまた会えるよ。」

田辺さんがアンナちゃんの話に補足しました。
「しずくさん、ありがとうございます。
街のイベントでクマさんとサンタさんが遊びに来るイベントを開催していたようですが、イベントが終わってしまう時間だったので、会えなかったのですよ。」
「なるほど…そういう事だったですね。」
「でもおじいちゃんがサンタさんに会わせます。だからアンナさん、大丈夫ですよ。」
「おじいちゃん、楽しみにしてるね。」
田辺さんがアンナちゃんを励ましています。

チリンチリン…
扉が開き、若い女性が店内を見回しています。

「すみません、田辺と申します。」
「いらっしゃいませ。田辺さんはあちらの窓際の席に座っていらっしゃいますよ。」
「ありがとうございます。」
田辺さんが席を立ち、その女性に向かって手を振った。

「迎えに来てくれたんですね、ありがとうございます。」
「いえいえ。もうすっかり日が暮れてしまったので…アンナ、帰ろう。」
「うん!」

田辺さんと女性が話を続けているようです。
「エミリさん、僕はまだ残るからアンナさんをお願いしてもいいでしょうか?」
「分かりました。では、お先に帰りますね。」
「ありがとうございます。気をつけて帰ってくださいね。アンナさんまた会いましょうね。」
「おじいちゃん、またね。バイバイ。」
田辺さんが店内に残り、アンナちゃんは女性に連れられて帰るようです。

「ありがとうございました。またいらしてくださいね。」
「ありがとうございます。
義父がいつもお世話になっております。
娘のエミリと申します。
また、ゆっくり遊びに来ますね。」
「はい。
是非、お待ちしております!」
アンナちゃんは笑顔で私達に手を振り、店内を出ていきました。

しずくが2人が飲み終えたマグカップを下げに田辺さんの元へと向かいました。
「田辺さん、とても素敵なご家族ですね。」
「ありがとうございます。
2人も皆さんとお話が出来て、とても嬉しそうでした。」
「クマさんとサンタさんに会うイベントのお話もとても素敵でした。可愛い光景を思い浮かべて、癒されます。」
「動物や子ども達が楽しそうに交流していて、とても素晴らしい空間でしたよ。
初めから参加出来たら良かったのですが、参加する時間が遅くなってしまったので、アンナさんは残念そうでした。」
「サンタさんには会えなかったと言ってましたもんね…」

田辺さんが立ち上がり、私の方を向いて声を掛けました。
「ラウラさん、しずくさんにお願いがあります。少しお話出来ますか。」
「はい。どうかしましたか?」
「アンナさんがサンタさんに会いたいと話していて思いついたのですが、12月24日にこちらのカフェヨルマチを貸切ることは出来ますでしょうか。」
「貸切ですか?今のところご予約のお客様は居ないので、大丈夫だと思いますよ。」
私は念の為手帳を開き、12月のスケジュールを確認しながら、24日のスケジュールの欄に【田辺さん 貸切】と記入し、丸をつけました。

しずくは田辺さんを見ながら質問をしました。
「カフェの貸切とサンタさんにどんな関係があるんですか?」
「カフェを貸し切って、家族でクリスマスパーティを行いたいと思ったのです。
そして、少し恥ずかしいのですが僕がサンタさんに仮装して、アンナさんにプレゼントを渡すイベントをしたいなと思って。」
「なんて素敵なんですか、大賛成です。
絶対に喜びますよ。」
しずくは目を輝かせて、田辺さんと握手をしています。

「あの、サンタさんの洋服をどうしたらいいかをご相談に乗っていただけますか?」
田辺さんは今まで仮装をしたことがないので困っている様子でした。

「この衣装はどうですか?サイズもピッタリだと思います。これ、髭もセットみたいです、お得ですね。」
「しずくさん、何のお話でしょうか?」
「ネットショッピングのサイトです。サンタさんのコスチュームを見つけたんです。」
「インターネットには疎いのでネットショッピングという発想がまるでありませんでした。」
しずくがサンタさんの衣装をネットショッピングで見つけたようです。
早速購入手続きに進んでいます。

「はい、購入完了です。」
「自分一人だったらどうしていいか分からなかったので、本当に助かりました。
明後日は装飾のお手伝いに伺います。」
「是非、楽しみです。」

「それではそろそろ帰ります。
また明後日もよろしくお願いします。」
「はい、待ってますね。」

田辺さんはドアを開けて帰っていきました。



2日が経ち、田辺さんがカフェヨルマチにやって来ました。

「いらっしゃいませー。」
「ラウラさん、しずくさん、こんにちは。」
「田辺さん、こんにちは。
では早速装飾していきますね、よろしくお願いします。」
「クリスマスが大好きなので、装飾もたのしみです。」

クリスマスツリーの装飾を進めています。
赤や金のオーナメントやクマのぬいぐるみ、星のオーナメントを付けました。

あっという間に装飾を付けると、1番背の高い田辺さんが仕上げにクリスマスツリー用のライトをツリーに取り付けました。

しずくと私で壁に装飾を飾ります。
事前にしずくと私で作っておいた、画用紙を切り取ったクマさんとサンタを壁に貼り付けて、準備が整いました。

「手伝って下さりありがとうございます。無事に準備が完了しました。」
「こちらこそ、ありがとうございました。
2人はとても喜ぶと思います。」
「あとはクリスマスを待つだけですね。」
クリスマスパーティの日を皆楽しみにしている様子で、私まで心が踊ります。


12月24日となりました。
私としずくは順調にパーティの準備を進めています。
今回のクリスマスパーティはドイツ料理をベースにしたものを用意しました。

ついにクリスマスパーティの予約の時間になりました。
田辺さんとご家族が揃って来ました。

「いらっしゃいませ。」
「本日はよろしくお願いします。」」

「「よろしくお願いします」」

田辺さん、田辺さんの奥様、田辺さんの息子さんとエミリさん、アンナちゃんが声を合わせて挨拶をしてくれました。

「お待たせいたしました、乾杯用のお飲み物と前菜のサラダです。」
しずくがお辞儀をすると、ゆっくりその場を離れました。

「メリークリスマス!乾杯!」
「「かんぱーい」」
田辺さんが乾杯の音頭を取り、みんなで乾杯をしています。

しずくが料理を運んでくれました。
「お待たせしました。パンとサラミです。」
「こちらはソーセージとポテトの盛り合わせです。」

皆さん好きな食べ物をつまみながら、楽しそうに談笑しています。

「お待たせしました、メイン料理の七面鳥です。」
「七面鳥ですか、立派ですね。
これぞクリスマスだと感じる料理ですね。」
「クリスマス好きの田辺さんらしい表現ですね。喜んでいただけて良かったです。」

お皿に取り分けてそれぞれの元に料理が配られました。

「お待たせしました。シュトーレンです。」

「シュトーレンはクリスマスのケーキで、ドライフルーツとナッツが生地に練り込まれています。表面には砂糖がまぶされています。」
「私はケーキが大好き。おじいちゃんの分もちょうだい?」
「一口食べたら、アンナさんに全部あげますよ。」
「お義父さんの好きな物なのに、アンナに譲らなくていいですよ。」
田辺さんのケーキをアンナちゃんが欲しがっているのを、エミリさんが制しています。

「アンナさんが欲しければあげたいんです。
エミリさん、お気遣いありがとうございます。」
アンナちゃんへの愛情を深く感じられて、私も嬉しくなりました。

皆さんが食べ終わると、田辺さんが離席しました。
私としずくはスタッフルームの近くで待機しています。

「準備が出来ました。」
小声で田辺さんが私達に言いました。

田辺さんはクリスマスパーティを行なっている所まで足早に向かいました。

しずくが電気を消すと、
皆さんがざわつきはじめました。

「メリークリスマス。」

電気が再び点灯し、驚きながらサンタに扮した田辺さんを見ています。

アンナちゃんが嬉しそうに言いました。
「サンタさんだ!来てくれたのね。
サンタさんに会えて嬉しい。」
「私も嬉しいですよ。
袋にはプレゼントが入っています。」

このプレゼントは事前に田辺さんが購入して持ってきてくれました。

「欲しかったテディベアだ!サンタさんありがとう。」

「でも、おかしいの。
このミルクティ色のテディベアが欲しいって話したのはおじいちゃんにだけだもん。」

田辺さんは焦っている様子で、とても大量の汗をかいてしまっています。

皆さんがハッとした表情で田辺さんを見ました。
田辺さんの髭が大量の汗のせいで取れてしまい、帽子もズレ落ちてしまったのです。

「おじいちゃん!」

田辺さんの顔が丸見えになってしまいました。

「やっぱり、おじいちゃんだと思った。」

他の皆さんも笑いながら、2人がじゃれあっている様子を見ています。とても幸せそうです。

エミリさんがどうやら注意をしているようです。
「おじいちゃんは頑張って準備をしたのよ。邪魔したらダメじゃない。」
「私はサンタさんよりもおじいちゃんが好きだもん!」

アンナさんが田辺さんへと駆け寄り、ハグをしました。
田辺さんは感動のあまり、涙目になりながら、抱きしめました。

「今日は本当にありがとうございました。
お陰で素晴らしいクリスマスパーティとなりました。」

「「ありがとうございました」」

「田辺さん、サプライズは少しアクシデントがありましたが、大成功して感動しました。
皆さん、ハッピーホリデイ。」
私としずくは笑いながら、皆さんにお礼を伝えました。

皆さんは家路に向かって歩いていきました。
キラキラとイルミネーションで輝く街並みは皆さんの未来を照らしているようです。


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