RESTART -Café yorumachi-
私はマコ。大学4年生で就活中だ。おばあちゃんに話があると言われて玄関からリビングへと向かった。
「おばあちゃん、お店を引退しようと思うの。私のお店を継いでくれない?」
おばあちゃんは現在70歳。おじいちゃんと2人で経営してきた。
一昨年、おじいちゃんが亡くなって1人で頑張る気力がなくなったと言われた。
「突然そんなこと言われても困るよ。」
3社ほど就職試験に進んでいて割と順調な中での話だったので、あまり乗り気ではなかった。
「お母さんには継いでもらう話はしないの?」
お母さんがおばあちゃんにとって1番近い血縁なので疑問に思ったのだった。
「お母さんは長年リフォーム会社で働いてるから無理よ。分かるでしょう。」
確かに母は父が経営しているリフォーム会社で10年以上働いている。
「それにあなたは料理が得意だからさ。カフェヨルマチを継いで欲しいのよ。お願い。」
私は調理師免許を取得する学部におり、バイトもレストランのキッチンで3年間働いている。おばあちゃんが継いで欲しいと言うのも無理はない。
「ちょっと考えさせて。」
「分かったわ。待ってる。」
自分の部屋へと戻ると、ベッドに腰掛けて荷物を床に置いた。
おばあちゃんは死ぬまでカフェヨルマチを続けていくと思っていたから驚いていた。
ボーッと考えていると電話が鳴った。
スマホの画面を見ると、幼馴染のカケルからだった。
「もしもし。どうしたの?」
「今、大丈夫?これからご飯食べに行かない?」
「大丈夫だよ。ちょうど話したい事があったから。」
おばあちゃんのお店を継がないかと言われた話をしたかったので好都合だった。
「OK。じゃあ駅前で待ち合わせしよう!じゃあね。」
しょっちゅう夕飯を食べに行ったり出かけたりしている。彼も調理師免許を取得してシェフになるのが夢である。
私は既に駅で待つカケルの方へ走って向かった。
「レストランの予約を取ったよ。行こうか。」
私は頷いた。カケルはいつもレストランを予約してくれる。
このレストランはイタリア料理を提供していて、かなりの人気店である。私たちは料理の研究を兼ねてよく食べに来ている。
予約席へと着席し、メニューを一通り見て注文し、今日の出来事を一通り話をした。
「突然の提案だね。マコはどうしたいの?」
彼はあまり驚いている様子はなく、淡々と話を進める。
「私は継ぎたいと思うけど、突然経営する自信がない…かな。」
「今までおばあちゃんが続けてきた大切なお店だもんね。じゃあさ、俺も一緒に継ぐって言ったらどう思う?」
「え?!カケルも一緒に?!内定をいくつも貰ってるのに勿体無くない?!」
思いもしない答えを聞いて驚いてしまい、大声を出してしまった。周りも私の声に驚いていて、カケルは慌ててシーっと私の口に手を当てた。
「マコ驚き過ぎ。俺はおばあちゃんやマコの力になりたいから本気だよ。」
カケルは冷静にまっすぐこちらを見て話している。本気度が伝わってくる。
「ありがとう。私は1人だと難しいと思ったけど、カケルとなら出来るかもしれないって思えるよ。」
彼は優しい眼差しでこちらを見て、私の頭を撫でた。
「じゃあ明日、おばあちゃんと話をしよう。」
「失礼致します、日替わりパスタのセットです。」
ちょうど料理が来て、私たちはご飯を食べた。
食事を済ませて家に帰る。カケルはいつも家の前まで送ってくれる。
「カケル、今日はありがとう。一番最初にカケルに話せて良かった。」
「明日昼頃にマコの家に行くね。」
「ありがとう!大好きよ、カケル。」
カケルは顔を真っ赤にして頷くと、走って自分の家へと帰っていった。
私はおばあちゃんやお母さんに明日、カケルが遊びにくることだけを話した。
次の日になると、カケルが家に遊びにきた。
おばあちゃんやお母さんはカケルを歓迎し、リビングへと向かった。
「お母さん、おばあちゃんこんにちは。今日は話があって来ました。」
そして、そのまま話を続けた。
「マコから話を聞きました。俺はマコと一緒におばあちゃんのお店を守りたいです。」
お母さんとおばあちゃんは驚いて席を立った。
「カケルくんありがとう。そんな風に大切に思ってくれて嬉しいわ。」
おばあちゃんは涙を流して喜んでそう言った。
「ぜひ2人にお店を任せたいと思うの。ちょっと待ってて。」
おばあちゃんは足早に自室に向かった。
「カケルくん、本当に大丈夫?マコが無理強いしたんじゃないかって…」
彼は首を横に振る。
「俺からマコに提案したんです。お店だったら料理も出来るし、おばあちゃんのお店も守れるから一番良いと思って。」
おばあちゃんがリビングに戻ってきて、カケルと私にポーチを渡した。
「これはおじいちゃんと貯めたお金です。お店の為に使ってほしいの。」
「おばあちゃん、ありがとう。私たちカフェヨルマチを守るね。」
おばあちゃんは笑顔で頷いた。
早速メニューの改変や内装のリニューアルについておばあちゃんやお母さんと話し合った。
「レトロな雰囲気を守りながら、メニューを改良したいんだよな。おばあちゃんはメニューのこだわりはそこまで無さそうだったし。」
「そうだね。色んな世代の人にも来てもらいたいから、今時に合ったインスタ映えなクリームソーダとか作りたいんだよね。」
「ほうほう。それは良いね。」
「紙に書くとこんな感じなんだけど…!」
私は皆に分かりやすい絵にしてみることにした。バタフライピーを使い、星型にナタデココやフルーツを切る。光る氷を入れてから、仕上げにバニラアイスを乗せるメニューだ。
「これは綺麗だな。メニューに採用しよう。」
「ありがとう。嬉しい。」
2人が褒めてくれて嬉しかった。他のメニューを明日までに考えてこようという話になった。
次の日の朝、彼が家に来た。今まで見た事ない笑顔で玄関に立っていた。顔をよく見ると目の下に深いクマがあった。
「カケルおはよう。すごい笑顔だね。どうしたの?」
「マコ!おはよう!メニューを考えてきたんだ!早速見て欲しい!」
食い気味にそう言うと玄関で急いで靴を脱ぎ、リビングへと駆け足で向かっていった。
朝ごはんを食べているお父さん、お母さん、おばあちゃんは驚いた顔でこっちを見ていた。
「カケルくん、こんな朝早くからどうしたの?」
「俺、メニューを考えてきたんです。寝ないで。だからすぐに見てもらいたくて。」
カケルは慌ててメモ帳を開き、新しく考えたメニューを見せた。
「カケルくんありがとう。ヨルマチプレート?」
「はい!三日月プレート、流れ星プレートです。三日月はガッツリ系で流れ星はヘルシーなメニューを週ごとに変えて作ろうと思ってます。」
メニューについて早口で答えているカケルはとても生き生きしている。ヨルマチに対する熱量の大きさを感じて嬉しくなった。
「私は夜パフェについて考えたんだ。」
「夜パフェ?」
おばあちゃんは不思議そうな顔で私を見た。
「北海道の札幌で有名なの。夜になると飲食店でパフェを提供する文化があるんだ。それをヨルマチでもやってみたくて。」
「パフェか、良いね。俺たちが考えたものを早速作ってみようよ。」
「うん!そうしよう。」
お互いの考えたメニューを確認しながら必要な食材を書き出し、スーパーで買い出しをした。
自宅に戻るとすぐに料理に取り掛かった。
2時間ほど時間が経過してお昼になっていた。おばあちゃんを呼んで、作った料理を食べるとかなり美味しくて満足のいくものに仕上がっていた。
三日月プレートはお子様ランチのような洋食をイメージしたもので、今回はエビフライとミートソーススパゲッティ、ミニハンバーグとコンソメ野菜スープのセットだ。
流れ星プレートは、ビーガンの方でも食べられるような大豆ミートのハンバーグ、ベビーリーフやレンコンが入ったボリュームたっぷりなサラダと米粉で作ったスコーン、グリーンスムージでかなりヘルシーなものに仕上がった。
夜パフェはスタンダードなチョコバナナパフェでバニラアイスとチョコアイスをふんだんに使ったものを作った。夜パフェが好評であればもう一種類作ろうという話になった。
「2人ともとっても素敵な料理をありがとう。」
おばあちゃんは泣いて喜んでくれた。私達も一生懸命作った料理を喜んでもらえて嬉しかった。
メニューは形になったので、カフェヨルマチの内装工事のために下見へ行ったお父さんとお母さんの所へと急いで向かった。
「あら、カケルくんとマコ。お疲れ様。」
お母さんは設計図を見ながら、私たちに挨拶をした。
「メニューはどうだった?大変だったのに内装の方も来てくれて有難う。」
お父さんも気遣うようにそう言った。
「内装の件だけど、入り口の壁はオレンジ色のレンガ調のものにして、他の壁は黄色い小さな星たちが描かれているものにしようと思うんだけど、どうかな?」
お母さんからデザインを見せてもらうと、イメージ通りのものだった。
「壁紙はこれが良いと思います。相談なのですが、この部屋のどこかに絵を飾りたくて。」
「良いわね。右側部分に大きな壁があるからそこに飾るのが良いかも。」
「レプリカですが、ゴッホの夜のカフェテラスを飾りたいです。イメージに合ってますかね?」
画像を見せてもらうと、とても美しいカフェヨルマチにピッタリな絵だった。
「オシャレなカフェにピッタリね!」
お母さんもお父さんも絵を見てそう言った。
内装が決まったので早速工事に取り掛かりはじめた。私たちは作業の邪魔になるので家へと向かった。
「カケルのアイディアはすごく素敵だった。完成が楽しみ。」
「気に入ってもらえて良かった。内装はお父さんとお母さんの番だね。」
メニューも内装も無事に決まって充実感を感じながら家のキッチンの片付けをした。
1週間後、内装が無事に完了したため、2人でお店へと向かった。
「すごい!イメージ通り!カケル!早く来て!」
私は嬉しくてカケルに早く来るように促した。彼も内装を見て目を輝かせていた。
「よし!マコ、絵を飾るのを手伝って。」
カケルはレプリカの絵を取り出し、私に渡した。
カケルは私の肩を掴んで私の顔をじっと見てこう言った。
「マコ、お店を一緒にやろうと言ってくれて有難う。すごく嬉しかった。これからは人生のパートナーとしてそばに居て欲しい。結婚して下さい。」
思いもしない言葉に驚いた私はしゃがんでしまった。
「え?!本当に?!」
「本当だよ。」
顔を見ては目を逸らし、顔を見てまた逸らす。1分くらい時間が経つとようやく口を開くことが出来た。
「……はい。宜しくお願いします…!」
そう答えるとカケルはしゃがんでいる私と同じ目線になってキスをした。
オープンに向けてエプロンを装着した。
初めてのお客さんが訪れるドアが開く。
「いらっしゃいませ!カフェヨルマチへようこそ!」
2人は目を合わせて微笑みながら出迎えた。
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