見出し画像

松葉杖歩行をどう教えるか

松葉杖歩行の指導で苦戦したことはないですか?

私は整形外科で働いており、松葉杖歩行を指導する機会がひと月に何度かあります。その中で松葉杖歩行における重要なポイントや伝え方のコツなどがあると感じたため、参考になる論文等と合わせてまとめていこうと思います。

適切に扱えないと、不良姿勢から肩や腰、頚部に痛みが生じたり、転倒して再受傷するケースもあります。

松葉杖歩行にかかわる方はぜひ最後まで見ていってください。



松葉杖歩行における問題点


そもそも、松葉杖歩行ではどのような問題が生じやすいのでしょうか?
永崎氏による
「腋窩型松葉杖を利用者に適応、指導する際の問題点」に関するアンケート調査
によると、
松葉杖歩行、指導時の問題点として

①高齢者への適応困難
②脇当てが外れやすい
③床・階段で杖が引っかかる

などが挙げられています。

今回はこれらの原因を考察している永崎氏の論文を参考にしながら、自身の経験と合わせて対応策をまとめていきます。

①高齢者への適応困難


加齢による機能低下は運動機能だけでなく認知機能にも生じており、この問題に関しては単に動作指導のみで解決できないことが多いです。
永崎氏の論文では、残存機能、知的能力、体力と年齢の関係、家庭及び社会環境の四つから加齢による要因を考察し、それらが及ぼす影響をまとめています。

特に片脚立位や上肢筋力の著しい低下、認知機能低下によって状況判断が遅れる、などの場合は松葉杖以外の歩行補助具を使うという選択肢を考える必要がある、と述べています。

私もときどき、「この患者様は松葉杖の適応はないなあ」と感じるレベルの高齢者の方を指導することがあります。
その時に、判断の基準となる片脚立位時間や上肢筋力、認知機能テストの点数などを決めておくと、適応のない人に無理やり使わせる、という事態を防ぐことができるかもしれません。

私は最低ラインとして、片足立位10秒、平行棒内にて上半身のみで身体を支持する、ことができるかチェックするようにしています。

②脇当てが外れやすい



まず脇当てを腋窩に当ててしまうと腋窩神経麻痺の危険があるため、腋窩から約二横指下で脇当てを挟む必要があります。そのため、肩関節の内転で固定するのですが、この肩関節内転がいろんな要因で阻害されやすいです。以下にまとめていきます。

・視線が下がる

視線が下がることで、胸椎後弯が大きくなり肩甲骨が外転しやすくなります。その結果脇が開き、脇当てが外れてしまいます。これは杖の長さの設定が短い時も起こります。
杖の長さを確認してから、なるべく背筋を伸ばして、視線を前に向けるようにしましょう。
また視線が下がる要因として、そもそも片足立位のバランス能力が乏しいケースでは、恐怖心によりいきなり前を向けと言われてもできません。むしろ危険な状態になりかねないので、徐々に前方へ視線を向けていく必要があります。

・持ち手の握り方


持ち手を強く握って体重を支えようとすると、肘関節の屈曲角度が大きくなり、脇が開いてしまいます。そのため、持ち手は軽く小指側で握り背屈させ、下方へ押すように支えると広背筋に収縮が入りやすくなり、肩甲骨の内転・下制によって脇をしめやすくなります。


私は松葉杖を持たせる前に平行棒で練習するのですが、その際に棒を握らせず、下方へ押すように練習してから松葉杖で歩き始めています。
これをはじめにやっておくと、肩甲骨の位置が改善し、広背筋にも収縮が入るため正しい動作に導きやすくなると感じています。

・肘伸展の筋力不足


肘関節伸展の筋力不足によって、松葉杖の高さ調節の基準である肘関節屈曲15°〜30°を保てず、脇当てが外れてしまうケースがあります。
こういった際に最終手段として、肘のロッキングを使って支持できるようあえて持ち手を下げることで対応することもあります。


③床・階段で杖が引っかかる




そもそも杖の長さは腋窩から足部よりも長く設定されているため、まっすぐ振り出すと床に引っ掛かる可能性は高いです。そのため杖先で弧を描くように振り出すよう指導すると改善されやすいです。永崎氏は論文の中で、杖から健側の下肢へ重心をしっかり移すこと、2つの杖を同時に振り出すことが重要だと述べています。

また階段では十分に杖を引き上げてから操作することで、踏み面や蹴上げに引っ掛かることを防止します。


理学療法士が教える以上、ただ長さを設定するだけでなくその後のトラブルなどが起きないように身体と杖の使い方まで指導できるといいのかなと思っています。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
また次の記事も見ていただけると嬉しいです。

参考文献

腋窩型松葉杖歩行の安全性および安定性の 向上に寄与する松葉杖改良に関する研究 永崎

Analysis of crutch position in the horizontal plane to confrm the stability of the axillary pad for safe double-crutch walking
永崎,他

松葉杖の脇当て保持に関わる筋活動の解析 西迫,他


いいなと思ったら応援しよう!