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東京高検検事長の定年延長(2)

はじめに

 昨日投稿した東京高検検事長の定年延長について、法律を学んでいる身から見ると何が言えるのかを書こうと思います。キーフレーズは、特別法は一般法に優先する、です。

一般法と特別法

 聴き慣れない言葉だと思います。有斐閣「法律学小辞典(第5版)」には、次のように書かれています。

『絶対的な意味では、適用領域が限定されていない法を「一般法」、限定された法を「特別法」と呼ぶが、通常は相対的に、「特別法」の適用領域を包摂する一層広い適用領域をもつ法を「一般法」、「一般法」の適用領域の一部を適用領域とするものを「特別法」と呼ぶ。』

 例えば、私人の取引に関する法律である民法と、商取引の分野を規制する商法とは、一般法と特別法の関係にあります。民法が一般法で、民法に対する商法が特別法です。

 そして、「同一の法形式の間では特別法が一般法に優先する」という原則があります。これは、一般法が特別法に比べて広い適用領域を有することから、規定の仕方も抽象的に、かつ原則的にならざるを得ないのに対して、特別法は一般法より具体的な想定例に対する規定がされるため、特別法が適用できる具体的事例ならば特別法によって解決するのが望ましいと考えられるからです。

東京高検検事長の定年延長の場合は?

 この場合、定年延長が閣議決定された黒川氏は東京高検の検事長ですから、国家公務員であり、かつ検察官です。したがって、同氏の定年に関しては、国家公務員法と検察庁法の適用が考えられます。

 そして、国家公務員法と検察庁法とは、国家公務員法が一般法、検察庁法が特別法、という関係に立っています。したがって、「同一の法形式の間では特別法が一般法に優先する」という原則を適用するなら、検察庁法の規定を適用すべき、ということになります。そうすると、検察庁法22条は検事総長の定年を65歳、その他の検察官の定年を63歳と定めていますから、検事長、すなわち「その他の検察官」に当たる同氏は63歳が定年です。

 今回の閣議決定は、この原則の例外を認めるものと言えます。法律を学ぶにあたっては、法原則の例外を認めるときには十分な理由を述べること、と日頃から指導されますが、今回の事例で十分な理由が示されているかを吟味する必要があるでしょう。ぜひ、新聞や国会中継で政府の答弁をチェックしてみてください。

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