サッカーW杯2022の感想文1:イングランド代表1
0.はじめに
対イラン戦をテレビ観戦してしまった。一切観るつもりなかったのに。しかし、テレビとはいえ、自分の目で見たことはよかったと思う。なぜならば、対イラン戦に関して、私は、世間が喧伝しているのとは異なった感想を抱いたからだ。
イングランド6-2イラン
厳然たる事実である。世間はイングランドを褒め称え、イランには嘲笑が投げかけられた。所詮、アジア。それは致し方ない。レベルの差は、誰が見ても歴然だった。しかし、この試合に限った感想だが、イングランドは手放しで褒められるべきではないし、イランは実力の差以上にも関わらず持ちこたえた、と見るべきだからである。
イングランド3-2イラン
何かというと、後半のスコアである。はっきり言えば、前半は、イラン、具体的にはカルロス・ケイロス監督の采配ミスだった。後半だけで見るならば、スコア的には、イランは善戦していると見ることもできる。そこに、イランの可能性と「イングランドの脆さ」が見え隠れしていると考えている。
イランについては、別項で扱う予定である。それと、イングランドが後半手を抜いていたことは間違いなく、そこは考慮すべきであることは否定しない。
1.メンバー全体について
驚きである。これだけ、若くて才能にあふれたチームは、そうそう多くない。優勝候補であることは、間違いない。彼らが、試合を経るごとに、急成長していけば、優勝する価値があるチームなのは間違いない。
先制点のベリンガムは19歳。ティーンエイジの若者が、W杯チーム初得点をもたらすのである。他にも、先発起用された若手は、次々と躍動する。ベンチから出てきたメンバーも、プレミアリーグなどで既に活躍している猛者揃い。スゴイ魅力的なチームである。
グループリーグ首位突破は、間違いないだろう。では、何が不安なのか。それは、イングランドがその先、具体的にはW杯優勝を、本気で狙っているということである。そのレベルで臨んでいるチームとして考えると、逆に「脆さ」が垣間見られたと思う。もちろん、予選リーグ初戦、しかも前半で大量リードという状況を差し引いても、である。
それを、もう少し具体的に、一方的に語りたいと思う。
2.攻撃は、ハリー・ケイン頼みなのはやはり否定できない1:華麗なパス回しの割には……。
え?と思われるかもしれない。ハリー・ケイン、得点決めてないじゃん!と思われるかもしれない。もうハリー・ケイン頼みじゃない!確かにそうである。しかし、この試合の後半だけを取り出す限り、ハリー・ケイン頼みは、表には現れていないが、意外と根深いのではないかと思わざるを得ないのだ。
ポイントは、ハリー・ケイン交代前後の攻撃の「質」である。ハリー・ケイン交代前は、華麗なパス回しが確実にシュートに結びついていた。しかし、ハリー・ケイン交代後は、華麗なパス回しは続いていたが、それがシュートに結びつく回数が激減したように、私には感じられた。
イランは少しでも得失点差を詰めようと必死に攻撃しており、前半よりも裏が空いていたのは間違いない。そこを衝くチャンスは、いくらでもあったはずである。安全にボールを回すことを意図していたにしろ、得点は取れるときに取っておくべきである。
では、なぜ華麗なるパス回しの割には、シュートチャンスが減ってしまったのだろうか。それを象徴するのが、ハリー・ケインがポストプレーでさばいたパス1本でほぼ決まってしまった、5点目(かな?)だと思う。
結論を言うと、ハリー・ケイン交代前後では、ゴールに向かう「シンプルな」プレーが減ってしまったのである。確かに、パス回しは華麗である。守る側としては、心が折れそうになる。しかし、それだけでは、怖くはないのも事実である。華麗なだけで、はっきり言えば「散漫な」攻撃である。そういうパス回しならば、日本でもできる。
つまり、今のイングランド代表には、ハリー・ケイン以外に、「シンプルな」攻撃のスイッチを入れられる選手はいないのだ。それが、「圧倒的な」ボール支配率の割に、イランの息の根を止められなかった理由ではないだろうか。それならば、「本当の強豪」を相手にして、ハリー・ケインが徹底マークされた時、どうするのだろうか?華麗なパス回しで「遊び続ける」のだろうか?
3.攻撃は、ハリー・ケイン頼みなのはやはり否定できない2:誰にパスを出すの?
言いたいことは、2とほとんど同じである。ただ、先ほどまでが、前線に限った話だった。今度は、中盤・最後列も含めた、チーム全体における、攻撃の組み立ての話である。
ボールを奪った後、誰にボールを預けるのか?もちろん、最初の選択肢は、大黒柱ハリー・ケインである。それがダメだったら、他の選択肢を考えればいい。そして、困ったら、とりあえずハリー・ケインに預ければ何とかしてくれる。ハリー・ケインがいれば、そういう「シンプルな」考え方でいいと思う。
しかし、余裕があったとはいえ、ハリー・ケインが交代した後、イングランドのパス回しは「散漫で」はっきり言って危なしかった。軽率なパスが増えたように感じた。確かに、パス回しは華麗だったが、その一方で「意図がある」パスが減ったと思う。その結果として、カウンターを喰らって2失点したのは、優勝を本気で狙うチームとしては迂闊すぎ、あまり褒められたものではない。
もちろん、ハリー・ケインは自他ともに認める大黒柱であろう。ただ、ハリー・ケインがいないならば、いないなりにチームとしての攻撃の型を共有しておくべきであろう。「本当の強豪」とぶつかったときには「脆さ」となりかねない。今はただ、それをあえて見せなかっただけだと解釈したい。
4.しっかりしろ!中堅組:特に、ディフェンス陣
そして、イングランド代表にとって、一番のアキレス腱になりかねないのが、この点である。後半は集中力を切らしていたのだろうが、それを理由として見過ごすわけにはいかないと思う。
なぜならば、今大会のイングランド代表は若手が多いのだが、それは攻撃陣に関してである。ディフェンス陣に関しては、前回大会も経験した中堅どころが多く残っている。彼らが、イランFW陣の巧みな駆け引きに、少なくとも2度翻弄されたのは不安が残る。
もちろん、これは、攻撃陣も悪い。攻撃陣が、イランの息の根を止める、少なくともプレッシャーをかけ続けていれば、起こらなかったかもしれない。それでも、経験少ない若手を後ろで見守るべき中堅どころが、イランFW(素晴らしい選手だとは思う)に完全に裏を掻かれるのは、褒められたことではない。
W杯優勝を本気で狙うならば、この先当たるのは、もっとレベルの高いFWである。それなのに、集中を切らしただけで、隙を与えてしまうのは、非常に不安が残る。中堅どころが揃うディフェンダー陣は、今一度スイッチを入れ直す必要があると思う。
もう「カテナチオ」の時代ではないが、守備が不安定なチームにはW杯は寄ってはこない。
5.おわりに
以上、「圧勝した」イングランド代表を、こき下ろしてみました。ただ、このチームの未来が明るいのは間違いない。このチームには、多くの伸びしろがある。願わくは、今大会中に、1人でも多く、「さらに一段階」覚醒する選手が出てきてほしいと思う。潜在能力だけで言えば、彼らは間違いなくW杯を掲げる資格があるのだから。