声優の養成所について〜困ったちゃん〜
さて、前回はかなりきれいなお話になってしまったので、今回は私が養成所で出くわした頭を抱えたくなるような奇人変人でもご紹介しましょうか。
声優の養成所というのは、いろんな人間のごった煮といった場所でした。
害のないユニークな人間が殆どではありましたが、たまに「どうしたもんかな」と頭を抱えるような人もいました。
私が通っていた養成所のシステムについては前回の記事を参照していただくと幸いなのですが、年度末の審査によってクラスアップする制度です。
一年目はまず一番下の初級クラスから始まりました。
入所試験がザルだと言われているだけあって、本当にピンからキリまでが一つのクラスに押し込められたという感じでしたね。
救いだったのは、講師が某有名な劇団の元役者さんで、キャリアや実力が申し分無い方だったということ。
ただ、生徒のプライベートには干渉しないタイプの方だったので、生徒同士のイザコザもあまり気にかけていなかったように記憶しています。
よく声優さんが動画投稿サイトなどで「養成所あるある」として挙げられる「生徒同士の色恋沙汰」がまさに私がいたクラスでも起こっていました。
もう…
くっっっっっっそ面倒くせえんですよ。
レッスン内容に男女ペアになって恋人同士としてお芝居をするものがあったのですが、そのクラス内恋愛をしていた二人がペアになったときにモジモジして進まなかったり、痴話喧嘩したらしいときには不機嫌全開でレッスンに参加して、お芝居で絡むとまともに演技しようとしてくれず最悪でしたね。
そのクラス内恋愛カップルの彼女の方が講師に「表情が見えづらいから前髪を上げるように」と注意されたときも全く従おうとしないもんだから、私が「ヘアピン無いなら貸そうか?」って話しかけたら「ううん。だって前髪上げると可愛くないんだもん〜」って返ってきてぶん殴りたくなりました。
別に前髪上げなくても可愛くねーよ(暴言)。
というか、お前はここに何をしに来ているんだ。
初級クラスなのでスキルが低い子は沢山いて、私ももちろんその一人でした。
滑舌が甘かったり、声が通りにくかったり、初見読みが苦手だったり。
それはこれからのレッスンで徐々に克服していけば良いことなので、私も周りに負けないように努力しないとなと思っていました。
ただ、スキルが低いにもかかわらず、謎に自信過剰でプライドが高い子もいて、そういうタイプもとても厄介でしたね。
めちゃくちゃ口出してくるんですよ。
「滑舌が甘いから外郎売やった方がいいよ」ってグダグダの滑舌で言われて、内心「お前もな」ってツッコミつつ「ウンソウダネ」と返事していました。
あと、これはレッスンとは関係ないのですが、「薬に頼ってはだめ!自然治癒が一番!」「瞑想はとてもいいよ!」「私達って友達だよね?」って良く言ってきて薄ら怖かったな。
私は「私達って友達だよね?」って確認してくる人のことが好きではないのと、一年目の私は養成所に友達作りに来てんじゃねえという尖ったマインド(笑)を持っていたので、めちゃくちゃ嫌でしたね。
さて、ひとつ上の中級クラスに進学してからも厄介な奴はいました。
まず一人目はボーイッシュな女の子で、女の子の役やセリフを嫌がってやろうとしなかったんですよね。
当然講師には「プロになったらどんな役でもこなさないといけないの!やりなさい!」と叱られていて、それでも照れ笑いしたりヘラヘラしたりして努力する姿勢もなかったので他のクラスメイトからも煙たがられていました。
中級クラスにもなると、部活感覚で参加する人は一気に減るので、そういう「やれるのにやろうとしない」態度の生徒はクラスでも浮くし、陰口も叩かれるようになります。
そして二人目は長身で顔も悪くなく、ルックスも重要視される今の声優界であればきっとすぐに受け入れられそうな雰囲気の男の子。
適度に自信家で、演技に対しても真摯に向き合う姿勢は私も尊敬していて学ばせてもらう点も多かったのですが、如何せんメンタルが弱かった。
最初の頃はクラスのリーダー的な立ち位置だったのですが、途中から自信を失ってしまったのか段々と元気がなくなり、講師に人生相談のようなことまで聞くようになって講師も困っていらっしゃいましたね。
生徒たちは演技に関する質問やアドバイスをもらいたくて、レッスン後からスタジオが閉館するまで講師に質問攻めをしてしまうのですが、その男の子が謎の人生相談を始めてしまうと私達は「なんだこいつ」と思っていました。
そしてその子に関してもう一つ鳥肌が立つような出来事を体験したのでお話します。
年度末のクラス内発表会というものがあり、私達のクラスはお芝居をすることになったので、舞台のセットや小道具、衣装なんかもそれぞれで相談したりして用意します。
観客は他のクラスの生徒や講師、事務局の方だったりするので、アットホームな雰囲気で行われます。
さてその準備も大詰めにさしかかってきた頃、私とその子は舞台裏で小道具の整理をしていたのですが、先程も書いたように、その子はメンタルを病んでいた上に、最近は「ストレスで胃炎になってしましましたが気にしないでください」などと言うもんだから余計にみんな腫れ物扱いしていたんですよ。
そんな彼と二人で作業をしていたところ、唐突に彼が咳き込みだしたので「大丈夫?」と声をかけたところ、ハンカチで口元を抑えながら「大丈夫」とこたえ、「ちょっとトイレ行ってくるね」とハンカチを置いてその場を離れたのですが、その置いていったハンカチに目をやると…べっとり血が付いていたんですよね。
怖すぎて固まりました。
本当に吐血したのなら全然大丈夫ではないし、でもわざとハンカチを置いていったのなら血糊なのかなとか、色々ぐるぐる考えてしまって結局誰にも言えず、発表会が終わるまで必要最低限の会話しかしないようにして過ごしました。
その後、私は無事進級して上級クラスになってからは厄介なクラスメイトは殆どいなくなり、2年ほど在籍して卒業という形で養成所を後にしました。
上級クラスでは既に事務所に所属して声優活動をしている人が研修期間ということでクラスメイトにいたり、プロの声優さんが講師を務めたりして、とても充実したレッスンを受けることができたなと今でも感じています。
初級クラスから上級クラスまでずっと一緒だった子とは今でも仲良くさせてもらっていて、未だにあんな事あったねーなんて話していますが、こういった厄介な奇人変人の話も良くしています。