最判昭51・9・30民集30-8-799:信義則による後訴の遮断;「判決の遮断効」理論(遮断効論); 2674字
1.事実の概要
昭和23年6月、A所有の土地につき自作農創設特別措置法により買収処分があり、同24年7月に同土地がBに売り渡された。その後、A・Bが死亡し、Aの相続人の1人X1 が、Bの相続人Y1、Y2およびCに対し、Bとの間で同土地の買戻契約が成立したと主張して、農地法所定の許可申請手続および同許可を条件とする所有権移転登記手続を請求する訴えを提起した(以下「前訴」という)。結局、昭和41年12月、請求棄却判決が確定した。
ところが、翌年4月、X1と、Aの他の相続人X2~X4(原告・控訴人・上告人)は、Bの相続人Y1・Y2(Cは前訴係属中に死亡しY1・Y2が相続)と前訴係属中にY1らから土地の一部を譲り受けたY3(被告・被控訴人・被上告人)を相手に、土地の買収処分の無効を理由とする所有権移転登記の抹消登記に代わる移転登記手続を求める訴えを提起した。
第一審は、X1らの請求を棄却した。X1らは控訴し、買収・売渡時の返還約束を理由とする前訴請求と同趣旨の請求および工作物収去土地明渡請求を予備的に追加した。控訴審は、本件提起は同一紛争の蒸返しで信義則に反するとして、第一審判決を取り消し、訴えを却下した。X1らが上告。
2.判旨(横書きの論文試験を想定して、表現を一部変えている箇所があります。原文は、判例評釈書あるいはサイト等でご確認下さい。)
上告棄却。
当該事実関係のもとにおいては、前訴と本訴は、訴訟物を異にするとはいえ、ひっきょう、Aの相続人が、Bの相続人およびその相続人から譲渡をうけた者に対し、本件各土地の買収処分の無効を前提としてその取戻を目的として提起したものであり、本訴は、実質的には、前訴の蒸し返しというべきものであり、前訴において本訴の請求をすることに支障もなかったのにもかかわらず、さらにX1らが本訴を提起することは、本訴提起時にすでに先の買収処分後約20年も経過しており、その買収処分に基づき本件各土地の売渡をうけたBおよびその承継人の地位を不当に長く不安定な状態に置くことになることを考慮するときは、信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。
これと結論を同じくする原審の判断は、結局相当として是認することができる。
[以上,最判昭51・9・30民集30-8-799『民事訴訟法判例百選』5版〔79〕参照]
3.判決の遮断効理論(遮断効論)
(1)主要な争点と正当な決着期待争点とのずれ
ある訴訟において主要な争点と認識されたものと、それに関連して相手方当事者が最終決着がついたと期待する争点(決着期待争点)とがあり、両者が一致しないことがある。そのような場合に、その相手方の期待を保護することが、他方当事者の態度を含めた手続経過ないし紛争過程の諸々の状況(手続事実群)から、もっとも公平であるといえる争点を探索必要があり、その最適解となる争点を正当な決着期待争点ということができる。
上記の昭和51年最判では、買戻契約が有効かどうか(A争点)を主要な争点とした原告敗訴の判決が、前訴で持ち出されなかった国の買収処分は無効かどうか(B争点)を主要な争点とする原告の後訴を遮断する効果をもった(51型遮断効)。ここで、B争点の失権を正当化するものは、前訴の紛争過程における原告の態度を中心とした手続の諸経過(手続事実群)から、原告がA争点のみの決着によって所有権の帰属(C争点)についても最終決着すると被告に思わせ、被告がそう期待しても無理のない状況(B争点がもち出されない状態が長く続いた)が認められることである。
(2)争点効理論
前訴で当事者が主要な争点として争い、かつ、裁判所がこれを審理して下したその争点についての判断に生じる通用力で、同一の争点を主要な先決問題とした異別の後訴請求の審理において、その判断に反する主張立証を許さず、これと矛盾する判断を禁止する効力を、争点効という。
たとえば、甲が乙に対して乙からの買得を理由に建物の明渡請求をしたのに対し、乙はこの売買の詐欺による取消しを主張して争ったが容れられず、甲の勝訴が確定した後、乙が甲に対して、建物の当該売買を原因とする甲の所有権取得登記の抹消を求める訴えを提起し、その理由として当該売買は詐欺による取消しによって効力を失ったと主張立証することは、争点効によって許されない。
(3)51型遮断効と争点効
前記の昭和51年最判では、決着期待争点が訴訟物を超えているが、これを、争点効との連続線の他方の極限に位置付けることができる。すなわち、昭和51年最判は、主要な争点と相手方当事者の決着期待争点とが極限近くまで乖離した事例であり、これと対局の端に、主要な争点と決着期待争点とが乖離せず、前訴での主要な争点が後訴でもそのまま主要な争点となり、それについて新しい主張も証拠の提出もないというようなケース(争点効の働くいわば基本的なケース)を置き、その両者の中間に、主要な争点と決着期待争点との乖離の度合いに応じて、様々なケースを位置付けることができる。
(4)既判力が作用する場合
正当な決着期待争点が、訴訟物の枠と一致するときの遮断効が、既判力として民訴法114条により制度的に保障された判決の遮断効ということになる。
(5)判決の遮断効理論と訴訟指揮
裁判官の訴訟指揮の指導理念として、裁判官は、決着期待争点をなるべく明確にし、それに現に争われている主要な争点との関係を当事者に了知させるようにすべきであり、決着期待争点についてなお未提出の主張があり、かつ、それが真面目に審理するに足りる実質的な攻撃防御方法であることが予想されるならば、それについて失権するかもしれないことを予告し、決着期待争点についていっそう充実した審理を目指すべきである。
問題は正当な決着期待争点をどこに求めるのがベターかであるが、給付訴訟の場合、給付請求権のきそたる権利、たとえば、所有権の存否、売買契約の有効無効等に決着期待争点が来るよう誘導するのが望ましい。
[新堂『新民事訴訟法』(1998年)616頁,617頁,599頁(最判昭44・6・24判時569-48は争点効理論を否定),618頁-621頁参照]
4.まとめ
◇「判決の遮断効」理論
民訴法138/ #主要な争点と認識されたものと,関連し相手方当事者が最終決着がついたと期待する争点(決着期待争点)と一致しない場合あり。その場合,相手方の期待を保護することが,#他方当事者の態度を含めた手続経過・紛争過程の諸々の状況(手続事実群)から,もっとも公平といえる,争点(#正当な決着期待争点)探索要。
[新堂『新民事訴訟法』(1998年)616頁,最判昭51・9・30民集30-8-799,参照。R29③Q3:前訴確定判決の主文に掲げられた引換給付文言の,後訴への効果]
以上