母の日の財布
初めて母の日にプレゼントをしたのは、たしか小学生のときだったと記憶しています
私の発案で、きょうだいで小遣いを出し合って
財布を買いました
できるだけ高価に見えるものを選んで買った記憶があります
そのプレゼントを渡したとき、母はとても喜んでくれました
あのときの笑顔は、今でもずっと覚えています
忘れようがない、およそ35年前になるでしょうか
母から「ありがとう」と言われると、なんだかくすぐったい気持ちになったことまで覚えています
例えば、自分の名前を誰かから尋ねられたとき、言い慣れていない自分の名前を声に出すのは何となく恥ずかしい
うまく説明できませんが、そんな感覚に似ていました
しかし、母がその財布を使った姿を私は一度も見たことがありませんでした
プレゼントを差し上げた側からしたら
母には一日も早く使って欲しい
当然それは、きょうだい3人とも同意見でした
ある日、思い切って母に尋ねたことがありました
すると、母は箪笥のある部屋に行き、その箪笥の中から白い箱に入ったままの財布を取り出し、私に見せてくれました
「何かもったいなくてなかなか使えないんだよ」
母らしい言葉でした
生来の貧乏性で、いつだって着ている服は、子どもたちが中学生のときに使っていたジャージのみ
それを身に纏い、自転車でどこまでも遠いスーパーに買い物に行っていた母
たった3円安いだけの砂糖を求めて、地元のスーパーよりも3キロ離れた店まで買いに行く母
自分の見た目は一切気にせず、食べざかりの子どもたちのためだけに、自分の人生を全て子どもたちのために使ってくれた母
陽水の歌ではありませんが、人生が二度あれば、
母にもう一度会って、生前してあげられなかった
全てのことを、今こそしてあげたい
心からそう思っています
母よ
あのときの財布
せめて天国では
周りの神様に自慢するくらい
堂々と使っていてね
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