見出し画像

「ゲーミングEQ!?」機材師レビュー Vol.03:Cranborne Audio/Carnaby HE2【音声付き】


電源投入時の様子

Cranborne Audioは比較的手の届きやすい価格帯で、エンジニアリングを知り尽くした玄人志向な製品を多くリリースしているUK発のブランドです。

代表機種のCamden500という500シリーズマイクプリは原音忠実系のマイクプリとして世界的にベストセラーとなっています。

そんなCranborne Audioから、「Carnaby HE2」というギラギラに輝くEQをリリースしてきました。
喩えるなら「ゲーミングEQ」とでも表現したほうが、伝わりやすいと思います。

「アウトボードは見た目が9割」

このご時世わざわざ実機を置くスペースを確保して、視界に入る場所に置いておくなら、テンションが上がる見た目であることに越したことはありません。

そんな「ゲーミングEQ」はただのEQではありません。奇抜な見た目とは裏腹に、トラックメイクやミックス、マスタリングなど幅広い場面で難しい考えは一切不要で感覚的に扱える1台だということを、本記事でご紹介します。


Carnaby HE2が持つ4つの「神」機能

ハーモニックEQ


Carnaby HE2は2UラックのステレオパラメトリックEQで、API500シリーズフォーマットとしてリリースされているハーモニックEQ Carnaby 500の進化形です。
Carnaby 500と同様にハーモニックEQというユニークで革新的なコンセプトを採用し、ハーモニックサチュレーションを生成して各周波数コンテンツをブーストおよびカットします。親しみ慣れた直感的なイコライジングコントロールを備えた本物のアナログハーモニックサチュレーションEQによってミックスを強化します。

https://miyaji.co.jp/MID/product.php?item=Carnaby%20HE2

この引用何度読んでも難しいですね笑

すごく簡単に捉えるとEQ+歪みで音を作っていく機能だということです。

音作りの肝はInputノブにあります。

通常ハードウエアのEQについているのはアウトプットボリュームだけです。
中には搭載すらされていないものも多いですが、、、

このインプットを上げていくと、歪み感が足されていきます。同時にEQで設定したポイントがよりアグレッシブに聞こえてきます。対照的にインプットを下げると、歪み感は少ないものとなり、一般的に私たちが知っているEQの効きに近づきます。

では一体どこが神機能なのか!?

それは単に過剰にEQ処理しすぎると、不自然な気持ち悪さを感じますが、ハーモニックEQの場合だと、ここに耳障りの良い歪みが加わるため、ピークを感じにくく、より気持ちの良い音が得られるからです。

この気持ちよさこそが、今までのどの他の機材とも違う点ですね。

確かにナチュラルさを追求するなら他のハイエンドマスタリングEQに軍配が上がりますが、元素材を気持ちよくかっこよくするという点においてはこれほどまでに都合よく作用する機材は今まで見たことがありません。

デジタルリコール(プラグインコントロール)

USBまたはEthernet経由ですべてのボタンとコントロールをリモートコントロールすることができます。
専用ソフトウェアCarnaby HE2 ControlはCarnaby HE2ハードウェアとシームレスに統合され、DAW内からリアルタイムコントロールと呼び出しが可能になります。またプリセットの保存と読み込みも容易になります。

対応しているのはスタンドアローンアプリ、VST/AUに対応しています。ProToolsで使えるAAXは近日対応とのことです。

今回試したMac Studio M1 Max OS Monterey環境ではドライバーをダウンロードインストールした後USB-Cケーブルで繋ぐだけですぐ認識しました。

このデジタルリコール機能があることによって、実機がほぼプラグイン感覚で扱えます。神。
セッションごとに設定をリコールする必要もなく、ほぼ音以外はプラグインと同じです。

プラグインを触っても、実機を触っても値が追従してきます!慣れていないと少し気持ち悪い感覚がありますね笑 良い意味で。

用途に合わせて使える3モード


CARNABYの下の3つボタンでモードが切り替え可能

Carnaby HE2はステレオ、デュアルモノ、及びM/Sの3つの処理モードを搭載し、いずれのモードでも各チャンネルにバイパス可能な3つのハーモニックEQバンドを備えています。

この2chEQはステレオでだけでなく、単体のモノトラックに2ch独立のデュアルモノモード、マスタリング等で有効なMSモードとしても使えます。

これにより、例えばキックとボーカルそれぞれに掛けたりも可能ですし、ステレオのバスに対してそのままステレオモードにするのか、MSでアプローチするのか一瞬にして切り替えることもできます。

2chしかないといえば少なく感じますが、1曲における様々な場面でその状況に合わせて対応できる実機というのはそれほど多くないですね!

実機を導入したときに起こりがちな、「リコール面倒臭い」という悩みとは無縁です!

MSエンコーダーデコーダーを備えたインサート機能

TRSでのインサートのセンドリターン

Carnaby HE2には各チャンネルにバイパス可能なTRSインサートを備えています。インサートはM/Sエンコードの後とM/Sデコードの前に位置し、シグナルがハーモニックEQの処理に到達する前にインサートを使用して他のハードウェアを接続することができます。

このインサート機能他にアウトボード持っている方には非常に便利な機能です!MSエンコーダーデコーダーを別途用意する必要がありません。それはどういうことか、以下に実例を挙げて説明します。

特に想定される場面としては2chマスタリングEQをMSでそれぞれ使用したいという時でしょうか。


クリーンで特にハウスやダンスミュージックでは定番のマスタリングEQとして知られるMaag Audio/EQ4 Masteringを例にして見てみます。

本機材は通常LRを同じパラメーターに揃えて、ステレオとして2mixに使用するのが通常です。

ところがCarnaby HE2のMSインサート機能を使うことでこの2chをM=Mid、S=SIdeとして別々にコントロールすることが可能となります。

しかもTRSによるちゃんとバランス接続ですので、ノイズ等の心配もないですね!

実際に試してみた

<使用楽曲>
オトメモード / MINΛTO feat. nayuta

比較用音声として何も通していないDrumのステム音声はこちら

Case1. For Drums EQは使用せず、インプットを突っ込んで歪ませる


何もEQはいじっていませんが、少しの歪み感が加わることによって角が取れて、特にキックの弾む感じがとても気持ちよくなりました。
少し重心も下がり、各キットの音が「在るべき位置」に落ち着き演奏の安定感が増しました。これは実機にしかできないマジックです。

シンバルの抜け感がありながらも、耳馴染み良くまとまって聴こえます。


Case2. For Drums 野太いロックサウンド


よりダンサブルにキックの低域にある美味しいところをグンと持ち上げました。加えてスネアの胴鳴りに分厚さを加えるために200Hzをちょいブーストします。最後にシンバルの空気感や煌びやかさを付加させるために高域を煽ります。
普通のEQであればこれだけブーストするとローは緩くなり、ハイは痛いだけになってしまいますが、ここが本機最大の特徴のハーモニックEQによって美味しいところだけ持ち上がってきます。このコントロールの効いた絶妙な歪み感が実機でも出せることに驚きです。

Case3. For Drums レンジをワイドかつクリアに!4つ打ちディスコサウンド


4つ打ちディスコサウンドを意識して音作りしてみました。

まずインプットを少し突っ込み気味にして、ダンサブルで弾ける感じを目指します。ハイとローは実音部分より少し外を突くことでインプットを歪ませることで少し狭くなってしまったレンジの補完拡張を行います。そして、大胆にMIDを削るとより締まったタイトな4つ打ちになりました。
最後に少し高域が暴れていたので気持ち程度のHi Cutを入れて完成です。

実際に触っていて、感覚的に素早く音が作れてしまうことに気がつきました。本来なら複数の処理が必要な音作りもノブを1ついじるだけでいい感じになってしまいます。これは素直に驚きです。

比較用音声として何も通していない2mix音声はこちら

Case4. For 2mix Stereoモード

2mixにかけるためインプットは控えめでいきましょう。
やはり本機の得意なところ生かすために少し重心落とすイメージでセッティングしました。
キックとベースのボトム感が安定し、曲を下支えする感じが出せました。
この辺りの処理は万能というわけではなく、あくまで楽曲の最終の完成形に合わせて決めていくとハマるセッティングがきっと見つかると思います。

Case5. For 2mix  MSモード


このセッティングでは上のステレオセッティングをベースに、より各楽器の分離感のある2mixを目指して処理しました。

Mはキックベースとボーカルのセンターに位置する楽器の存在感を強調し、大してSではシンバルやギター、シンセの空間と存在感を強調しました。

各楽器が明瞭に聴こえてくるのがお分かりいただけると思います。ただしMSは位相の問題から大きく触りすぎると不自然になりがちなため、特にミドルの処理は最小限にとどめておくのがおすすめです。

比較用音声として何も通していないBass音声はこちら

Case6. For Bass 「強くプッシュ」

歪まない程度に極力インプットを突っ込んでみました。
軽くコンプをかけたような押し出し感のあるサウンドになりましたね。
演奏のダイナミクスが失われるという副作用もあるのでかけ過ぎ注意なところではありますが、生演奏のダイナミクスを均していくのにはもってこいですね。

特に少し薄いかなと感じていたスラップの部分の演奏がちょうどいいレンジ感に収まってくれています。

このテクニックは生ベースにもソフトシンセで打ち込んだベースでも、オケ馴染みと太さを両立してくれそうです。

比較用音声として何も通していないE.Gt音声はこちら

Case7. For E.Gt 「ギターの壁を形成する」

こちらも変化がわかりやすいように大胆にギターの音の壁を作ってみました。
メタルやパンクで有効な左右のギターで壁を作るイメージでどっしりかつ抜けの良いサウンドを目指しました。
本楽曲の本筋からは逸れる音作りかもしれませんが、何気ない宅録素材でも簡単に厚みを出すことができますね

比較用音声として何も通していないVocal音声はこちら

Case8. For Vocal 「とにかく前へ」

今回のセッティングはボーカルを前面に出すがテーマです。

美味しいところを安直に全て持ち上げてみました。
意外と破綻なく、ナチュラルなサウンドです。

ミックスに奥行きをつけたいなら、ボリューム以外の操作で特定の楽器を前に持ってくる処理を行うと自然と後ろに空間ができます。

この処理を一発でやってのける本機の便利さたるや。これぞ実機の醍醐味です。

こんな人におすすめ

実際の音声付きでお届けするアウトボードのレビューいかがだったでしょうか。

Carnaby HE2は派手な見た目でテンションが上がりますが、実際の使用感も本当に違和感なく、ガシガシ音を作っていくことができるシゴデキ君な感じでした。例えるならギターアンプのEQを触っているような感覚です。

個人的にはマスタリング用途で使うというよりはバスや各トラックの音色の追い込み・色付け用途で使うと本機の本領を発揮するのではないかと感じました。

いろんなトラックで使うと常にリコール作業が面倒臭いのですが、デジタルリコール機能を搭載した本機ではその心配もありません

お気に入りの設定をプリセットとして保存しておいて、いろんなパターンを即座に呼び出してハマる設定を探していくと早いと思います。
今回の音声のセッティングを参考にしていただいても良いと思います。

この機材はいろんな音色を扱うアレンジャーの方に特におすすめしたいです。ループ素材や、宅録の少々心もとない素材でも、しっかり他の生音に負けない有機的な音に仕上げることが簡単に可能です。


<製品リンク>
Cranborne Audio/Carnaby HE2

<試聴についての問い合わせ>
宮地楽器RPM来店予約フォーム

<機材協力>
株式会社宮地商会M.I.D.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?