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Best Metal Albums of 2024

 広義のメタル作品から20枚。今年もメジャー/マイナー、王道/異端の入り混じった雑多なセレクションになっています。ちなみに自分のメタル情報源は、Xやnoteでのメタル好きの皆さんの投稿、海外メタルメディア、友人との間での情報交換が殆どですが、本ベスト20と12月に発表されたMetal Hammer”Best Album Top50”との重複が11作品もあったので、今年のメタルシーンを象徴する主要アーティストの作品は意外とちゃんと押さえられていたような気がしています(Kerrang!とは4/50、Rolling Stoneとは4/20作品の重複でしたが…)。
 選出基準としては好きなアーティスト、繰り返しよく聴いたものが上位に来てはいます。とは言え、アフィニティやフリクエンシー以外の視点として重要視したのが、以下の3点

 ①想定を超える驚きや意外性があったか?
 ②楽曲平均値が高く保たれているか?
 ③このアーティスト、この作品ならではのユニークネスがあるか?


 結果、定型からの逸脱にチャレンジしているジャンルレスの越境型アーティストや高度な演奏力や作編曲術を持ったプログレッシブなアプローチをしているバンドが多くなっています。ただし、昨年同様に初見でアプローチの直感的面白さや批評的観点でのレベルの高さを感じたものの、何度も手を伸ばすことのなかったアルバムは、「戦略的な面白さと個々の楽曲クオリティにギャップあり」との判断のもと、思い切って選外としました (Knocked Loose, Frail Body, Heriot, Caligula’s Horseなど)。
 あと冒頭で「広義のメタル」と書きましたが、どこまでをメタルとして扱うかも悩んだポイント。今回メタルか否かを分ける基準としては、歪んだメタリックなギターリフを活用した楽曲が作品のコアにあることを1つのバロメーターにしたので、例えばChelsea WolfePoppyと言ったメタル界隈で話題のアーティストたちも、人によっては広義のメタルだったりするのかもしれませんし、上記①〜③のポイントをクリアした優れた作品ではあったとは思いますが、「メタルリフ主導の楽曲が作品のコアではない=広義のメタルからも外れる」ということで、あえて選外にしました。

#01 Judas Priest - INVINCIBLE SHIELD

 1位は、UKメタル大御所Judas Priestの19th。音やアレンジはモダンながらも、曲調は王道メタルを追求。コントロールしやすい音域・メロディ展開を完璧に掴んだようで、セクシーな中低音域とハイトーンシャウトを使い分けるロブの技巧的歌唱が、楽曲のレベルを確実に嵩上げしてます。攻撃的な冒頭3曲の掴みが強烈で全体を快活な雰囲気に牽引。またミドルテンポ楽曲の充実が素晴らしく、その辺りがやや凡曲の目立った前作との差異。リッチーのギターも過去最高の出来。まさかキャリア晩年になって、こんな名盤が誕生するとは!間違いなくロブ復帰後の最高傑作

#02 Blood Incantation - ABSOLUTE ELSEWHERE

 2位は、各方面で絶賛されているUSの先鋭デスメタルバンドBlood Incantationの4th。以前にも増して変態性と楽曲の親しみ易さのバランス感が絶妙に。OSDMに、Yes〜U.K.的な超絶技巧によるシンフォプログレ/シンフォジャズロックのアプローチ、クラウトロック的電子音の活用、Pink Floyd的サイケ&アンビエントな音響構築といった様々な要素がモザイク状に散りばめられてるのに、これらが違和感なく同居しているのが驚異的。相当イカれたことやってるはずなのに耳触りはキャッチーで、Deafheaven的ポップさも。Metal Hammerベストアルバム選出も納得の傑作

#03 Opeth - THE LAST WILL AND TESTAMENT

 3位は、スウェーデンのプログレメタルバンドOpethの14th。今作では暫く封印していたグロウルやデスメタル的ヘヴィネスの解禁が話題に。とは言え、過去の路線に戻った訳ではなく、骨格はアート的・技巧的な70sプログレ/ハードロックで、そこにデスメタル的攻撃性を巧みに上乗せした印象。中東風メロディ、サイケな雰囲気づくり、シンフォプログレ風叙情性、暗黒プログレ風の捻くれた展開など、ここ数作のレトロ探求の成果が確実に活かされていて、そこにデスメタル要素が加わったことで全体の強度が大幅に強化されました。集大成的傑作

#04 Whom Gods Destroy - INSANIUM

 4位は、USのプログレメタルバンドWhom Gods Destroyの1st。Son of Apollo のロン“バンブルフット”サール(G)とデレク・シェリニアン(Key)が中心メンバー。演奏力の高さも強烈ですが、それ以上の衝撃がディノ・ジェルーシックのボーカル。デヴィッド・ドレインマン(Disturbed)の聴き手を鼓舞する力強さとデヴィッド・カヴァーデイル(Whitesnake)のエモーショナルさが合体したかのような圧巻の歌唱が堪能出来ます。他に類の無いソウルフル超絶技巧プログレメタル。モダンな重低音リフが基調となってるので、Djentやメタルコア系ファンにもお勧めです。

#05 Zeal & Ardor - GREIF

 5位は、スイスの越境型メタルバンドZeal & Ardorの4th。”ブラック・メタルmeetsブラック・スピリチュアル”な音楽性が評価されてきましたが、本作で大分方向性が変化しましたね。両方の”ブラック”要素が減り、起伏ある歌メロや練り込まれたアレンジによるプログレッシブなアプローチが増加。デジタル成分も増していることもあり、躁鬱の激しい展開に無双状態だった頃のNine Inch Nailsを思い出したりもしました。またQueens of the Stone Age的な曲もあったりと良い意味でロック的カタルシスが得やすい内容なので、幅広い層に受容されそう。

#06 Melted Bodies - THE INEVITABLE  FORK, Vol. 3

 6位は、USのアヴァンギャルド・メタルバンドMelted Bodiesの2nd。ストリーミングではダイジェストEPしか出てませんが、Bandcamp限定でフルアルバムが入手可能。アヴァンギャルドだけどポップで歌中心だし、メタルではあるんだけどシンセやプログラミングもふんだんに使われてるし、ありそうでなかった新しい音。ジム・フィータスとマイク・パットンが組んでメタルやったらこんな方向性になるかもといった感じのハイエナジーでポップなアヴァンギャルドメタル。System of a Downの捻くれたアプローチを好む人にも是非推奨したいですね。

#07 Oranssi Pazuzu - MUUNTAUTUJA

 7位は、フィンランドの先鋭サイケデリック・メタルバンドOranssi Pazuzuの6th。前作”MESTARIN KYNSI”(20年)が世界中で大絶賛。ただ個人的には、脱メタルの戦略性が勝ち過ぎて、聴き手置いてきぼりの側面が強い作品という印象でしたが、本作ではその弱点を見事に克服奇妙なフレーズを奏でようが、複雑な展開を用いようが、とにかく耳残りが良い。ブラックメタルの色調は残しているので越境型エクストリームメタルとしても楽しめるし、実験的電子音楽やアンダーグラウンド・ヒップホップ等の先鋭的ビートミュージックの発展系としても楽しめると思います。

#08 Bring Me the Horizon - POST HUMAN: NeX GEn

 8位は、UKロック/新世代メタルを代表するバンドBring Me the Horizonの7th。POST HUMAN第2弾テーマは”Future Emo”。とは言えエモっぽいのはM2, 4, 10くらいで、ニューメタル、エレクトロニックロック、アリーナロック、デスコアと楽曲の幅はかなり広いです。ただ全体的にメタリックなギターの主張が強いので、前作EP程の攻撃性は無いもののメタル作品として十分楽しめます。何となくメロディアスレベルのメタルコア/エモ系バンドが束になっても敵わない曲のフックの強度が圧巻オリヴァー・サイクスの天才的作曲センスを強く感じられる楽曲が満載。

#09 Amaranthe - THE CATALYST

 9位は、スウェーデンのメロディックメタル/メタルコア/エレクトロニコアバンドAmarantheの7th。様々な音楽的装飾はなされてますが、骨格は歌の魅力を全面に押し出したキャッチーかつダンサンブルな、現代版アリーナロック。華やかなエリーゼ、ソウルフルなニルス、歯切れの良いグロウルのミカエルと、三者三様の歌が激しく入れ替りながらサビで最高潮に達する、まるでミュージカルのような密度の濃い展開が楽しめます。今回は特にメランコリックなメロディの煽情力が半端なく、3分台のコンパクトな楽曲揃いなのに、聴後の満足感が非常に高いです。

#10 Big | Brave - A CHAOS OF FLOWERS

 10位は、カナダのドゥーム/ドローンメタルバンドBig | Braveの7th。本作が初体験。この手のバンドにありがちな雰囲気モノの長尺曲オンパレードではなく、8曲40分と無駄のない構成に仕立てていて非常にとっつき易いです。とにかく歌の存在感が物凄い。フォークを思わせる少し寂しげでノスタルジックなメロディを、女性ボーカリストRobin Wattieが麗しく歌い上げます。時にはノイズの轟音、時には静寂を感じさせる音響の中、歌とサウンドが極めて有機的に結合していて、演奏の偶然性に依存した楽曲とは異なる完成度の高さを感じさせてくれます。

#11 Chat Pile - COOL WORLD

 11位は、USのスラッジメタルバンドChat Pileの2nd。Unsaneの凶暴性、初期Godfleshの殺伐感、Uniformのカオス感をミックスしたような強烈にやさぐれたサウンド。かつて日本でジャンクと呼ばれた音を通過してきた耳には堪らない心地良さですね。Pitchforkで絶賛された前作”GOD’S COUNTRY”(22年)も良作でしたが、よりメリハリある作品に進化。M1に代表される凶暴なヘヴィグルーヴで攻め立てる曲から、M2やM8のようにグランジ的な仄かなメロディ感覚を味わえる曲まで、楽曲のバラエティも豊富。腹の底にゴリゴリと響くベースが最高です。

#12 Leprous - MELODIES OF ATONEMENT

 12位は、ノルウェーのプログレッシブロック/メタルバンドLeprousの8th。ポストロック的なデジタル色強い音響・ビート感覚、ドラマティックなオーケストレーションに、Einar Solbergの演劇的なハイトーンというモダンでドラマティックな前作までの路線から大きく方向転換。劇的なオーケストレーションはオミットし、全体的なサウンドはスローでグルーヴィに。圧倒的な歌唱力は健在ながらも、内省的な歌い回しが増え、Massive Attack - MEZZANINE あたりのブリストルサウンドにも通ずる、重く美しい新たな音世界の魅力が堪能出来ます。

#13 Unto Others - NEVER, NEVERLAND

 13位は、USのゴシックメタルバンドUnto Others。旧名Idle Handsから数えて3作目。前作はThe Sisters of Mercy的な80sニューウェイブにB級メタルが融合したアングラ感漂う「ダサ格好いい」サウンドの面白さがありましたが、本作ではアングラ臭が減り、歌にも低音の色気が増したことで、より洗練されたゴシックメタルワールドが確立されています。曲のバラエティもかなり広がり、濃過ぎない軽快なType O Negativeといった感も。全編に渡り仄暗く妖しいゴシック特有の退廃美が堪能出来ます。Ramonesのカバーも選曲センスが光りますね。

#14 OU - 蘇覚 II: FRAILTY

 14位は、中国のプログレメタルバンドOUの2nd。曲によって表情が結構異なり、今回はDjentっぽい超ヘヴィなギターは全体的には抑え目。ポストロック的な浮遊感漂う音響空間に、Anthonyのジャズ/フュージョン的な変則リズムが打ち鳴らされ、その上をLynnのソプラノヴォイスが軽やかに乱舞していく、相変わらず超個性的なサウンド。でも全く難解さはなく、全体的にどことなくオシャレ感が漂ってるのが面白いですね。なお本作のプロデュースは、デヴィン・タウンゼント。キーボードによるどこか神々しさを感じさせる音響アレンジにらしさを感じます。

#15 Transit Method - OTHERVOID 

 15位は、USの個性的メタルバンドTransit Methodの3rd。甲高い声質とメロディの質感にJane’s Addiction的な雰囲気が感じられますが、轟音リフが暴れる展開ではMastodon、パンキッシュに疾走する展開ではTurnstile、洗練された展開ではRushと色んな顔を見せてくれます。曲はキャッチーなものが多いですが、唯一M7”Frostbite”のみ非常にシリアス。21年のテキサス大寒波の悲劇を描いた9分近い大曲で、中盤怒涛の疾走パートから泣きの静寂パートに移り、最後は激情のヘヴィ&アグレッシブな展開で締め括る名曲中の名曲。この曲のためだけでも聴く価値あり

#16 Ihsahn - IHSAHN

 16位は、ノルウェーのマルチアーティストIhsahnの8th。毎回エクストリームメタルの境界を広げる先鋭的アプローチを仕掛けてきますが、今回はポストロック要素はかなり控え目で、緊迫感溢れるプログレメタルに映画音楽的な不気味な荘厳さが融合した、ダーク・シンフォニックプログレメタル。暗く冷涼な感触ながら、メタル的カタルシスの得やすいエッジの効いたギターリフやエモーショナルなメロディも随所に飛び出してくるので、やや敷居の高いイーサーンのパブリックイメージからすると非常に親しみやすいメタルアルバムだと思います。

#17 Frost* - LIFE IN THE WIRE

 17位は、UKのプログレハード系バンドFrost*の5th。90分14曲の大作(2枚組)ながら、敷居は低く、ELO的な美しいメロディ/ボーカルハーモニーとモダンプログレメタルのテクニカルな演奏が融合した、ポップミュージックとしてのプログレ。It Bites陣のハイセンスな演奏っぷりも素晴らしいですが、特筆したいのはジェム・ゴドフリー(Vo, Key)の圧巻のキーボード。音色選び、アンサンブルのアレンジ、メロディラインに、初期Dream Theaterの音楽的根幹を支えたケヴィン・ムーアにも匹敵する天才的センスを感じます。

#18 Striker - ULTRAPOWER

 18位は、カナダのパワーメタルバンドStrikerの8th。乾いた音像とシンプルな楽曲で勝負するUS正統派メタルを下敷きに、アリーナロック的な派手なコーラスや曲によっては洗練されたアレンジ(サックスやヴォコーダーなど)を加えたことで、単純な80s回顧型正統派メタルとは異なる個性を確立。リフやテンポがパワーメタル調というだけで、曲は殆どメロハーの世界。それも極上の品質。これだけ派手な楽曲だけに、音像をモダンに仕上げたのも正解。パワーメタルとメロハーを違和感なく同居させられる器用さという点ではPretty Maidsに近い才能を感じます。

#19 Alcest - LES CHANTS DE L'AURORE

 19位は、フランスのブラックゲイズバンドAlcestの7th。ここ数作のダークな色合いの作風からは離れ、「夜明けの歌」というタイトル通りの、優しい陽の光が差し込んでくるかのような多幸感、浮遊感をまとったメロディアスな楽曲が盛り沢山。曲によってブラックゲイズ色が強かったり、ポストロック的だったり、トラディショナル要素が強かったりと、引き出しの濃淡が変わる感じですね。感情が爆発したかのような絶叫やブラストビート等のエクストリームな要素も音景に溶け込ませ、ドリーミーだけれど甘過ぎない世界観を構築する妙味はAlcestならでは。

#20 Dvne - VOIDKIND

 20位は、UK のポストメタル/スラッジメタルバンドDvneの3rd。轟音リフが暴れるスラッジ色はかなり少なく、静と動のダイナミズムの効いた演奏、キーボードを使ったスペイシー&ドラマティックな空間構築術、テクニカルなドラムのフィルの連打など、要素はプログレッシブメタル的。要所で効果的に使われるクリーンVoのウェットでエモーショナルなメロディも良い彩りを加えてくれてます。以前より攻撃性やダークなアングラ臭が減っている点は賛否ありそうですが、楽曲のフックの強さは過去最高作曲力で勝負できるバンドに成長したなと思います。


 これら以外に最後まで選考に残ったアーティストは、Devin Townsend, Seeds of Mary, Austrian Death Machine, The Crownといったところ。どれも良作ではありますが、アルバムを通しての楽曲クオリティの安定感、そのアーティストの過去カタログとの比較での優劣、サウンドの突き抜けたインパクト(逸脱、過剰、完成度)、といった点で僅か及ばずに惜しくも選外となりました。

 最後に恒例の上記ベスト20作品から2曲ずつ選択したYouTubeプレイリストです。未聴作品があった方は、こちらから是非ご確認ください。

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#TransitMethod
#Frost *
#Dvne

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