【Disk】Ghostemane / Anti-Icon
2020年に別ジャンル(ヒップホップ)からのメタルアプローチという点で話題になったのが本作(Kerrang!のベストアルバムでも4位に選出)。トラップメタルというサブジャンル名や、Babymetalの”BxMxC”が「ベビメタ流トラップメタル」と言われてたこともあり、何となくの音の雰囲気はご存知の方も多いでしょう。せっかく話題作の1つなので「ヘヴィなギターリフが入ってれば全部メタル」という大雑把なジャンル観で、そのサウンドを掘り下げてみたいと思います。
最近でこそ「99%メタル」という音楽生活を送っていますが、90年代後半〜00年代前半には、アンダーグラウンド・ヒップホップの実験的な作品に手を出していた時期もあり(例:ケヴィン・マーティン/ジャスティン・ブロードリック界隈のインダストリアル・ヒップホップ/イルビエント、DJ VadimやDJ Shadowに代表されるアブストラクト・ヒップホップ、Anti-Pop Consortium、New Flesh、マイク・ラッド、Company Flowなどのエクスペリメンタルなヒップホップ)、それらを踏まえたヒップホップ裏歴史的な視点から見てしまうと、サウンド自体に新奇性・革新性があるかと言えば、正直そうでもないなというのが偽らざるところですね。
出自はもちろんヒップホップ(トラップ)なんでしょうが、むしろ鳴っている音からすると、90年代中盤〜00年初めのインダストリアル・メタル(Nine Inch Nails、Marilyn Manson、Rammstein)やNu Metal(KORN、Limp Bizkit、Slipknot)の雰囲気が濃厚に出ています。と言うか、バンドサウンドがかなりフィーチュアされていてほぼメタルですね。元々ドゥームメタルやハードコアパンクバンドをやっていたというだけあって、相当この手のエクストリームなメタルサウンドを聴き込んでるなと思います(WikipediaにはBathoryに強い影響を受けたとまで書いてある!)。M2はダブステ期のKORNにリンプが共演して、最後突如怒り狂うSlipknotに変貌したみたいだし、M6のエレクトロでゴスで妖しい雰囲気はRammsteinを彷彿とさせるし、M8、M10のダークで内省的な雰囲気から一転して咆哮ヴォーカルが爆発する展開には、尖っていた初期マンソンの空気を感じるし、M11ではMayhemの旋律を巧みに料理しているし、M12の超ノイジーでエクスペリメンタルな音からのメランコリックで静謐なM13への展開はNIN的アートセンスだし、と個人的にはメインストリームのロックが猛烈に刺激的だった学生当時の懐かしい空気感を勝手に感じちゃったりしてました。
なんだか元ネタ探しのような書き方になってますが、これは決して揚げ足取りではなく、ロックがメインストリームの音楽シーンから大きく後退した10年代以降。ラップ/ヒップホップ、EDM、ベースミュージックなどのコンテンポラリーな音楽イディオムを使いつつも、メタルがメインストリームであった当時の爆発的エネルギーをサウンドにどう封じ込めるかというお題に対する、本作は1つの回答になっているのではないかと思っています。
まずは根っこの部分にある強靭な身体性の発露。ロックの根源的な魅力として、尋常でない生身の人間のパフォーマンスに心が奪われるという側面があるかと思いますが、このGhostemane、ラップ含めたヴォイス・パフォーマンスの芸達者っぷりはもちろん、一線を超えたかのようなハイテンションっぷりが圧巻。コンテンポラリーなサウンドデザインにもかかわらず、非常に衝動性の高い、メタル的な「肉体性」を強く感じることが出来ます。
次にキャッチーなフレーズづくりの巧さ。メタルの先端音楽がどんどんプログレッシブ化/アングラ化し、メインストリーム音楽からすると「まどろっこしく」「耳に残りにくい」音になりつつある中、決してポップなメロディがあるわけでもないのに、このGhostemaneの音はかなり耳に残り易い。展開やアレンジは結構複雑ながらも「耳馴染み良いフレーズ」がコンパクトに繋げられており、そうした意味では、00年以降のJ-Rockにも通ずる、良い意味でのポップ性があると思います。また、音楽的な要素とは別の話ですが、作品タイトルではAnti-Iconと言ってるものの、マリリン・マンソンばりのアイコニックな出で立ちや、ヒップホップ/メタルの双方のシーンを行き来するフットワークの良さも含めて、スター性も十分感じられます。
ということで、全体の印象をまとめると、コンテンポラリーなビート感覚を持った”New Nu Metal”といったところでしょうか。革新的であることに価値を見出すのではなく、20年という時代においてロックがコンテンポラリーなメインストリーム・ミュージックで在り続けるためにはどうすればよいのか?を徹底的に追求した耳馴染み良い作品ということで、メタルリスナーにも(特にインダストリアル・メタルやNu Metalを通ってきた人)一聴をお勧めします。
最後に余談ながら、トリップについての解説リンクを。リンクの音を聴いてもらうのが一番早いかなと思いますが、要は「遅めのBPMにチキチキと速目のハイハットの刻みが乗っかるヒップホップ」と思えば良いのではないでしょうか(相当雑ですが)。