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Overkill全アルバムランキング
40年近くに渡って活躍しているNYのスラッシュレジェンドOverkill。ここ十数年、第一線で安定した活動をしているせいか「スラッシュメタル界のAC/DC」的な頑固一徹バンドのイメージで語られたりすることもありますが、実態は結構音楽性に関して紆余曲折があったバンド。
ちなみに、ディスコグラフィー的にメタルアーティストレビューを行う「OtOfrE」でもOverkillは取り上げられているものの、初期以外の作品はレビューされていなかったりもして、通史的にこのバンドのことを捉える機会って思った以上に少ないんだなということを実感。もちろん海外サイトではいくつか発見出来るものの、結構捉え方や感覚の違いもありあまりしっくりこず。じゃあ、日本で誰もやらないのであれば、80年代の全盛期からOverkillをずっと知っている自分がやろうということで、この機会にオリジナル20作品の全アルバムレビューを行い、さらにランク付け/順位付けも行ってみました。
ランキングするに当たり、重要視したポイントは以下の通り。
・「Overkillらしさ」の体現度合い
∟ソリッド感
∟ドライブ感
∟エネルギッシュさ
∟音楽的ルーツと時代性のバランス
・楽曲平均値の高さ
・「決め曲」比率の高さ
・アルバム単体としてのユニークネス
※アルバム毎に、上記4点を★3つで採点しているのでご参考ください。
またランク分けは、Tiermakerを使って、下記の基準(絶対評価)で判断しています。
・Sランク(Masterpiece)・・・名盤
・Aランク(Very Good)・・・ヘビロテ盤
・Bランク(Good)・・・・・良盤
・Cランク(Midiocre)・・・平凡盤
・Dランク(Bad)・・・退屈盤
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Dランク(Bad)
#20 Necroshine (1999) 10th
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時代性を強く反映したダーク&ヘヴィなサウンドで、スピードは控え目ながらエクストリーム・メタル的な重量感も感じられます。一方、鋭角的で躍動感溢れる彼等のサウンドイメージはほぼありません。
1番の印象は、とにかくリフの魅力に欠けるという点。切れ味が悪いし、ハーモニクスやノイズの入れ方のセンスも今一つ。テンポチェンジや様々なリフが登場してきたりと、展開は複雑ながら、それが曲の面白さにあまり繋がっていません。特にテンポダウンした時の展開が面白くなく、1曲の中で中弛みを感じてしまう場面もチラホラ。
また、ブリッツのボーカルも、中音域による奇妙なメロディや抑制した唸り声を多様。彼の歌の多彩さを楽しめるというポジティブな見方も可能ではあるものの、正直声の特性にマッチしていません。曲(やりたいこと)と歌・演奏・プロダクションが噛み合っていない感じがします。
■お薦め3曲(強いて言えば)
Black Line
Necroshine
Dead Man
#19 Killbox 13 (2003) 12th
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前作(”Bloodletting”/2000年)が軽快な作風だったのに対し、再びソリッドなスラッシュ路線から離れた作品に。ツインギター編成に戻り、ギターサウンドがこれまでになく湿っぽく粘り気がある印象。
何か音楽的な新機軸に走った訳ではないのに順位が低調なのは、単純に曲の出来がイマイチだから。平均点からややそれを下回る楽曲が並んでいる作品というのが正直な感想です。
じっくり聴き込むと、突進力あるM1、8、10は悪くないなと思いますが、全体的に彼等らしく攻撃的かつソリッドにリフを刻む場面が少なく、どうしても物足りなさを感じてしまいます。また良い感じで攻撃的に展開しながら、途中でテンポダウンしてしまう楽曲が多いため、モッサリした印象がより強調されてしまっています。
海外ではコンテンポラリーなスラッシュ作として、意外と評価されている模様。確かに捨て曲だらけみたいなことはないですが、印象に残るパートが少なく、繰り返し聴きたくなる訴求力に欠けているようと思います。
■お薦め3曲(強いて言えば)
Struck Down
Devil by the Trail
I Rise
#18 I Hear Black (1993) 6th
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硬派な突撃スラッシュメタル作の5枚目”Horrorscope”とソリッドで躍動感溢れる7枚目”W.F.O.”の高評価作に挟まれているだけに、世間的にはやたらと駄作扱いされている少し運の悪い作品。
Pantera風のグルーヴメタルとCathedralやCOC風のストーナー/ドゥームメタルの要素を取り入れたミドルからスロー曲メインの作品で、ねらいは非常に明快。リフがシンプルで、曲調も分かりやすいので、素直に音に入り込めます。
ただ、分かりやすいとは言え、歌メロの充実度が今ひとつで、オルタナティヴメタルを意識したのか、控え目な声量で中途半端に歌おうとしているボーカルが、ブリッツらしくなくもどかしい印象。
M8、11にアップテンポの曲もあるもののあまり目立たず、作品全体的にはゆったりした印象で結構中弛み感があります。ヘヴィなグルーヴをどう上手く作るかの習作的な作品で、正直ここではあまり良い成果は出ていないものの、このトライアルでの反省をしっかりと活かし、次作のミドルテンポ曲の充実に繋げたという意味では価値ある作品と言えるかも知れません。
■お薦め3曲(強いて言えば)
I Hear Black
World of Hurt
Spiritual Void
#17 The Killing Kind (1996) 8th
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”W.F.O.”(7th/1994年)の次の作品として、時流におもねらないスラッシュメタルの良心的立ち位置を期待されながらも、評価的には今一つだった作品。
全体的なサウンドは、ドンシャリの鋭角的な音から、重さ重視のサウンドにシフトチェンジ。アップテンポ、グルーヴィー、エピカル、ドゥーミー、オルタナ風、バラードと楽曲は非常に多彩。そういう意味では、最近のOverkillに通じるところはあります。
リズミカルなリフで攻めてくるM1、アップテンポのM2、3と前半はなかなか良い感じで展開していきます。特にアップテンポの畳み掛ける展開の中、流麗なギターが炸裂するM2”God-Like”がハイライト。
ただ、その後が続かないのがこのアルバムの残念なところ。テンポもリフの切れ味も急に失速してしまいます。特にグルーヴィな曲やオルタナティヴメタル風のミドルテンポ楽曲の出来がイマイチ。歌と演奏の噛み合わせが上手くいっておらず、結構中弛みしてしまいます。この辺がミドルテンポ中心ながらも、自身のスタイルにキチンと昇華させている”The Grinding Wheel”(18th/2017年)との違いですね。どの方向性にも振りきれなかった迷いを感じさせる作品。
■お薦め3曲(強いて言えば)
God-like
Battle
The Mourning After / The Private Bleeding
Cランク(Midiocre)
#16 Bloodletting (2000) 11th
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”I Hear Black”(6th/1993年)から続くグルーヴメタル的手法は引き続き用いながらも、鋭角的で軽快なサウンドデザインに移行。この方向性の変化は、00年代に入り、7人編成Iron Maidenの成功、Halfordの王道メタル回帰、Killswitch EngageやShadows Fallといったメタルコア勢の登場、北欧メロデスのグローバルでの評価など、オールドスクールメタル的要素が再注目されているシーンの動向とも無縁ではないはず。
ドラムの音が非常に硬く、ギターリフの中音域が強調された鋭角的なサウンドプロダクションが印象的。M2、3、4、7、9など、ソリッドで明快なリフで攻めてくる楽曲が全体の勢いを牽引。ギターが1人体制になっていることも影響しているのか、リフがシンプルになり、それに呼応するかのように、ブリッツのボーカルもだいぶ快活さを取り戻しています。
楽曲に若干ムラがあるのと、決め曲の少なさでこの順位に留まってはいるものの、平均点をクリアしている楽曲比率が高く、世間の評判以上に悪くない作品だと思います。
■お薦め3曲
Bleed Me
Can’t Kill a Dead Man
My Name is Pain
#15 From the Underground and Below (1997) 9th
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この辺りの作品を追い掛けてる人が少ないので、あまり目立たずにいるものの、アプローチ的には6枚目 "I Hear Black"以上の冒険作だと思います。まるでスラッジかデス・ドゥームかという感じの粒子の粗い超重量級ギターが特徴的で、速い展開もあるものの基本はスローからミッドテンポの楽曲で占められています。
とは言え”Play with Spiders/Skullcrusher"(4th”The Years of Decay”収録)の頃からサバス的ドゥーミーなアプローチを先駆けていた彼等だけに、意外と違和感はありません。特に麻薬的リフがのたうち回るM3”Long Time Dyin’”はグルーヴ/ドゥームメタル史に残る名曲。またM6、8、10などストーナー・ロック的な感覚の楽曲もありますが、こちらもパンクやMotorhead経由のロックンロール感覚を持ったスラッシュを創造してきた連中だけあって、ハマりはかなり良いと思います。
疾走する展開が少ないだけに少し中弛みはしますが、特徴的な音づくりと振り切ったアプローチをしているだけに、たまに手を伸ばしたくなるアルバム。Outrageで言うところの”Spit”(93年)的な位置づけの作品ですね。
■お薦め3曲
Long Time Dyin’
Save Me
F.U.C.T
#14 ReliXiv (2005) 13th
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サウンドプロダクション自体は、ダウンチューニングで、グルーヴィーな展開を含んだ重さ重視の90年代後半から00年代路線。ギターの音が少し籠り気味で乾いた印象がありますが、高速リフを刻んだりスピーディーに突き進むアグレッシブなパートも多く、まずまず楽しめる作品。第2黄金期である10年代前夜の作品というだけあって、かなりスラッシュ的な要素が戻ってきています。
M1、3、5にアグレッシブな楽曲を収めていて作品の掴みは十分。特にシンプルに駆け抜ける突撃スラッシュのM5は名曲。またラス曲のM10はパンキッシュなロックンロールチューンで、これも彼等のルーツを垣間見れて楽しい。Acceptがたまにやるロックンロールナンバー的な位置付けでしょうか。グルーヴィーな楽曲やエクストリームメタル系の激しい楽曲も、歌・演奏とアレンジがかなりこなれてきた印象で悪くないです。
もう何曲か突出したナンバーがあれば、可もなく不可もなく的なポジショニングから脱することが出来た作品かと思いますが、とは言え全体的な楽曲のレベル感からすれば、十分彼等の及第点には達していると思います。サウンドプロダクションが違えば、もっとOverkillらしさを感じられる作品になったのではと思います。
■お薦め3曲
A Pound of Flesh
Old School
Within your Eyes
Bランク(Good)
#13 Immortalis (2007) 14th
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新世代バンドによるリバイバルスラッシュブームの後押しもあり、彼等の持ち味であるキレとエネルギーが復活。前作(“ReliXiv”/05年)に更なる躍動感やキャッチーさが加わり、作品トータルとしてかなり楽しめる内容になってます。
エネルギッシュで攻撃的なM1、2、3、6、9がアルバムを牽引。M1はManowar的、M3はCandlemass的な勇壮的でエピカルなフィーリングをスラッシーな曲に導入していて面白い。
その他ミドルテンポの楽曲でも低音を比較的多用はしているものの、ブリッツの歌が勢いに満ちているのがとにかく良いですね。そして本作のハイライトは、久々の「Overkillシリーズ」のラス曲M10。ミステリアスでドラマティックな名曲。ブリッツの威風堂々とした歌唱が最高で、オルタナティヴ風やブルージーなメロディではなく、こういう正統派メタル的な暗く妖しいメロディが一番ハマることを再認識させてくれます。
楽曲の出来不出来があり中盤少し息切れ感はあるものの、作品トータルの完成度としては十分及第点に達している作品と思います。
■お薦め3曲
Overkill V…The Brand
Devils in the Mist
Skull and Bones
#12 The Grinding Wheel (2017) 18th
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10年代前半の「第2黄金期3部作」から、また新たな路線に移行。少しテンポを落とし、バラエティ豊かな楽曲とソリッドな演奏・雰囲気を基軸とした作風となっています。
リフはソリッドながら、スピードナンバーが少ないため若干落ち着いた雰囲気。音も重厚で、ブルージーな感覚を採り入れたり、ツインギターで勇壮な雰囲気を演出したりと、正統派メタルやハードロック的な整合感やドラマ性が強くなっています。にもかかわらず、テンポ以上の躍動感を感じさせるのは、DDヴァーニのバキバキのベースが非常に良く録音されていて、全体のドライブ感がしっかりと担保されているからでしょう。また、声が割れてきてだいぶウド・ダークシュナイダー化が進んでしまってはいますが、変わらぬハイテンションっぷりで楽曲を牽引していくブリッツのVoも全体のアグレッションをしっかりと高めてくれてます。
過去の試行錯誤を踏まえ、自分達らしさと時代性との折り合いをうまく付けている円熟の作品。比較的落ち着いたテンポの楽曲が多いせいか「第2黄金期3部作」に比べると刺激には少し欠けはしますが、安心して聴ける良作だと思います。
■お薦め3曲
Mean Green Killing Machine
Goddamn Trouble
Our Finest Hour
#11 The Wings of War (2019) 19th
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今作からShadows Fallの名手ジェイソン・ビットナーが新ドラマーに。手数が多く、硬いスネアの音はロックンロール的な彼等の今までのリズム感覚とは少し異質ながら、タイトに全体のリズムをコントロールしていて、楽曲を牽引していく存在感が物凄い。
サウンド的には、前作”The Griding Wheel”(18th/17年)をより雄々しく、よりハイテンションにビルドアップさせた印象。リフの刻みが細かく、スラッシュメタル的な切れ味も抜群。M1に代表される攻撃的スラッシュナンバーやパンキッシュに明るく爆走するM7のインパクトも大ながら、パワーメタル的な展開を採り入れた勇壮かつドラマティックなM4、5あたりが今作の特徴。
同世代のKreatorがよりメロディック・デスメタル的手法論に接近する中、また違った方法論でスラッシュメタルの躍動感とドラマ性の両立をうまく図っており、完全に自分達のハマる路線を掴んだ印象。発売当時かなり好意的に受け入れられていましたが、それも納得の内容だと思います。
■お薦め3曲
Last Man Standing
Welcome to the Garden State
Hole in my Soul
Aランク(Very Good)
#10 Horrorscope (1991) 5th
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個性的なギターが特徴的だったホビー・ガスタフソンが脱退し、ツインギター体制となっての第1弾。その影響もあってか、ベイエリアスラッシュ的な重く硬派なスラッシュメタル作に。
速いスラッシュチューンが多いものの、鋭角的なサウンドでエネルギッシュに駆け抜ける彼等らしい楽曲とは少し異なるアプローチ。印象としては、とにかく重さと硬さが目立ち、ブリッツの歌も心なしかテンション抑え目に聞こえますね。
ドスの効いたコーラスでカタルシスを一気に炸裂させるようなエネルギッシュな楽曲は少なく、全体的にクールな雰囲気で、91年という時代性が反映されている気がします。特にタイトルトラックM6の重くグルーヴィーな音は、同年発売のMetallica”Black Album"的。ヘヴィなグルーヴを作るという意味では、かなり先駆けていたバンドでもあることを改めて認識。
ブリッツ本人のお気に入りでもあり、ファンの間でも代表作的な扱いながら、「キレの良さ」と「爆発するエネルギー」というOverkillらしさがそこまで強く感じられない作風ということで、あえてこの順位に。
■お薦め3曲
Coma
Thanx for Nothin’
Horrorscope
#09 Scorched (2023) 20th
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現時点での最新作。突撃スラッシュナンバーはもちろん、疾走パワーメタルあり、バラードあり、キャッチーなメタルナンバーあり、ブルージーな70年代HRっぽい楽曲あり、ストーナーありと、非常にバラエティ豊か。もちろん速いパートもあるものの作品全体としてリズムのスピードは比較的抑え目な印象。
とは言え、恐ろしくキレのある演奏で、非常に躍動感・ドライブ感を感じさせてくれます。特にベース・DDヴァーニの”ガキガキ”感、ドライブ感が半端ないですね。またリズムをしっかりコントロールしているジェイソン・ビットナーのドラムが全体のキレの良さをより大きく引き上げてくれてます。
ブリッツは音域が狭くなり、よりウド・ダークシュナーダーっぽくなったものの、金切り濁声で60代半ばとはとても思えない強烈なテンションを見せてくれてます。さすが体を鍛えてる人はキレキレ度が違いますね。
M2、4、6などキャッチーな佳曲が多いものの、これというキラーチューンがないこともあり9位にはしてますが、バンドの現在の好調っぷりがよく分かる充実作だと思います。
■お薦め3曲
Goin’ Home
The Surgeon
Twist of the wick
#08 Under the Influence (1988) 3th
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2作目までは、スラッシュメタルとパワーメタル(特にNWOBHMの影響下にあるスタイル)の間を行き来するサウンドを聴かせてたものの、本作からよりスラッシュメタル然としたリフやリズム展開を多用するように。サウンドプロダクション的にも明らかにメジャー感が出てきています。
ブリッツの歌唱も、かつてのクリーンなハイトーン中心から声を歪ませた、よりアグレッシブなスタイルに。強烈なスピードパートを挿入したM1、曲名通りコーラス部で狂気を感じさせるM4などのスラッシュメタルならではの攻撃的楽曲がある一方で、アップテンポながらメジャーコードのキャッチーなリフを使ったM3(ライヴ定番曲)、メロディアスなサビメロを導入したポップなM7(間奏部の演奏はメイデンオマージュ的)など正統派メタル的印象の曲もあったりと、楽曲スタイルの幅はかなり大きいです。
初期2作で聞けた突撃する楽曲は少なく、曲の中で何度もテンポチェンジしながら構成していく長編曲が多くなってきているのは、よりインテリジェントに、より技巧的(音楽的)になろうとしていた、当時のスラッシュメタルの潮流に乗ったものと言えるでしょう(その流れを牽引したのはもちろんMetallica)。
ライブの定番曲M3のインパクトが強烈過ぎて他が霞んでしまっている印象もありますが、楽曲構成の妙味やガスタフソンの個性的なギターが堪能出来る優れた作品だと思います。
■お薦め3曲
Hello from the Gutter
Mad Gone Wild
End of the Line
#07 White Devil Armory (2014) 17th
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10年代「第2黄金期3部作」の3作目。変わらずキレキレの演奏と歌が楽しめるという点で、Overkillファンであれば大いに満足出来る内容。過去2作との変化点は、”Ironbound”が初期回帰、”The Electric Age"がNWOBHM+欧州メタルの色合いが強い作品だとすると、今回はラフなロックンロール感覚とTestament系の重量級モダンメタル色を適宜まぶした作風であるという点。
スピード感は前2作と比べると作品全体では幾分抑え目。彼等らしさ満載の超エネルギッシュなM2、3、駆け抜ける感覚が心地良いM4、硬派なスラッシュM6、7、疾走とキャッチーなサビの組合せが心地良いM9、パンキッシュなコーラスワークが楽しめるM12などのソリッドなナンバーと、重低音でズンズンと突き進む威風堂々としたM5、8、10のような今の王道アメリカンメタル的なヘヴィチューンがバランス良く配置されています。また、バイキングメタル的というか、Accept風にも聴こえる勇壮なM11は新機軸ながら見事なハマり具合。
少し楽曲によっての出来不出来がハッキリしているためこの順位ながら、彼等らしさを存分に楽しめる優れた作品だと思います。
■お薦め3曲
Armorist
In the Name
Down to the Bone
#06 Taking Over (1987) 2th
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音楽的路線は1st同様スラッシュ寄りのパワーメタルですが、よりスラッシュメタルとしての攻撃性が増している印象。正直楽曲によってアレンジや演奏の完成度にバラツキもあり、B級パワーメタル臭さの残った楽曲もあります。とは言え、M2の超エネルギッシュな疾走感、M6のパワフルな突進力、M7の初期Manowar的な雄々しい勇壮感など、Overkill史上屈指の名曲が複数収録されていて、それだけでも高い価値がある作品と個人的には思っています。
ギターのザクザクとした質感は、同じエンジニア(Alex Perialas)を起用しているAnthraxの”Spreading the Disease”(2nd/85年)を彷彿とさせます。重さよりも、エッジの効いた快活なサウンドというNYスラッシュの1つの特徴が良く表れてますね。
個々の楽曲の完成度の落差が割と大きいことからこの順位としたものの、決め曲の多さや、スラッシュとパワーメタルのバランス感のよさから本作を代表作としてあげる人が多いのも不思議ではありません。
■お薦め3曲
Wrecking Crew
Powersurge
In Union We Stand
#05 Feel the Fire (1985) 1st
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85年発表の記念すべきデビュー作。当時デビューの多くの大物スラッシュバンド同様に、完全なスラッシュメタルではなく、NWOBHM(特に初期Iron Maiden)やRaven等のパワーメタル的な色彩が強く残るサウンドで、そこにハードコアやパンクの初期衝動的な勢いが加わり、彼等のユニークネスが早くも1stで出来上がっています。
音も演奏も荒削りではありますが、ヒステリックなハイトーンで攻めまくるブリッツのVo、パンクとメイデンを行き来するDD.ヴァーニのベース、キレの良いフレーズを連発するガスタフソンのギターと、1stの時点で早くも各メンバーの強烈な個性を聞き取ることが出来ます。
曲もライヴの定番曲M2を筆頭に、ハチャメチャなパワーと疾走感のあるM1、5、7、9など名曲多数。The Dead Boysのカバー”Sonic Reducer”(M10)がオリジナルと並んでも違和感なくハマってるのもこのバンドらしいと思えます。
完成度的には粗々しさも残っているものの、それを補って余りあるエネルギーが心地良い。「炎を感じろ」というタイトルそのままの熱量に溢れた作品。
■お薦め3曲
Rotten to the Core
Hammerhead
Overkill
Sランク(Masterpiece)
#04 The Electric Age (2012) 16th
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10年代「第2黄金期3部作」の2作目。前作”Ironbound”(00年/15th)で完全に取り戻したスラッシュメタルバンドとしての勢いを踏襲。ソリッドなリフで突き進む曲だけでなく、パワーメタルの高揚感やNWOBHM的なレトロな雰囲気を醸し出しているのが本作の特徴。それに合わせて欧州的なメランコリックなギターソロやキャッチーなサビが増え、攻撃性は前作には一歩譲るものの、楽曲の親しみ易さでは負けていない。
サウンドプロダクションも素晴らしく、ボトムを支えるベースの強烈なアタック、キレ良く駆け抜けるスネアがめちゃくちゃ分離良く録音されていて、曲のダイナミズムが更に増しているように思えます。
楽曲も、エピカルなパワーメタルエッセンスを採り入れたM1、NWOBHMとスラッシュが融合したM2、5、7、欧州的メロディの魅力がたまらないM6、9など名曲多数。どの曲も、90年代後半から00年代の煮え切らなさは一体何だったのかと思えるくらい、リフの訴求力が素晴らしい。あまり注目されないものの、デイヴ・リンスク&デレク''スカル'' テイラーのツインギターチームのリフ+ソロセンスはもっと評価されて良いと思います。
血湧き肉躍る高揚感を存分に味わえる傑作。
■お薦め3曲
Electric Rattlesnake
Come and Get it
Drop the Hammer Down
#03 W.F.O. (1994) 7th
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90年代中盤のスラッシュ低迷期に、スラッシュメタルの持つ勢いや爽快感を、時代性(グルーヴメタルの席巻)と折り合いつけながら見事に提示した傑作。
音はMegadeth”Countdown to Extinction"を彷彿とさせるドンシャリサウンド。ザクザク軽快なリフ、ゴリゴリの硬いベースの音が非常に心地良い。
何と言っても、M2”Fast Jankie”のインパクトが強烈。鋭く刻まれるリフ、バキバキのベースの迫力、軽快にドライブするロックンロール感覚溢れるリズム、勢い満載の雄々しいコーラスと、まさにOverkillらしさを体現する名曲。その他、ファストなリズムとリフで駆け抜けるM4、ロックンロール調から一気に重量級リフで突進するM7、アンセム的な高揚感あるコーラスが印象的なM10、静と動のダイナミズムが絶品のミステリアスなM11など、隠れた名曲多数。それ以外の脇を固めるグルーヴィーなミドルテンポ楽曲も、”I Hear Black"(6th/93年)での試行錯誤の経験を見事に生かした、分かりやすいリフと歌がフィーチャーされた佳曲揃い。
なぜかそこまで注目されていない作品になっている気がしますが、楽曲の充実度、決め曲の多さ、Overkillらしさの体現という点で、約40年のOverkill史の中でもトップクラスの傑作だと思います。
■お薦め3曲
Fast Junkie
Supersonic Hate
They Eat Their Young
#02 Ironbound (2010) 15th
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10年代「第2黄金期3部作」の幕開けを飾る、Overkill完全復活をシーンに強く印象づけた名作中の名作。
中途半端なグルーヴメタルやオルタナティヴメタル的な「引き摺るリフ」が一掃され、彼等の持ち味であったキャッチーな切れ味鋭いリフが完全復活。スピーディーに疾走するリズム、アグレッシブかつハイテンションな歌と、「Overkill流スラッシュメタルとは何か?」を見事に体現する曲ばかり。楽曲の骨格がどれもしっかりしているので、M1とM2のサビメロがほぼ同じという珍事(笑)も不思議と気にならず。特にタイトルトラックのM2は、アグレッシブな突進と劇的な展開の妙味が融合した新たな代表曲。全体的な楽曲の方向性としては「初期回帰」とは言えますが、演奏やアレンジ手法は現代的なもの。同時代性をしっかり担保しながら、らしさを復活させた点が素晴らしいですね。
10曲中8曲が、アップ~ファストなテンポという過去最高とも言えるくらいのエネルギッシュでハイパーな作品。力強さと熱さを感じさせるアートワークが内容を見事に表していると思います。Overkillを初めて聴く人には、まずはこの作品をお薦めしたいですね。
■お薦め3曲
Ironbound
Bring me the Night
The Green and Black
#01 The Years of Decay (1989) 4th
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名盤というのは、単に良い曲が並んでいるだけではなく、歴史に痕跡を残すだけの音楽的インパクトを残した作品であり、かつ全体の楽曲平均値が著しく高いものと考えています。そんな定義からしても、本作はOverkill史のみならず、メタル史に残る名盤と言えるでしょう。
重く攻撃的なスラッシュメタルとしての完成度を高めながら、芸術性の更なる深化、そして音楽的革新にも挑み、それが見事に成果として花開いています。
・Overkill流スラッシュの多様性を体現したM1~4
・Black Metal以降のMetallicaやCathedralに先駆け、引き摺るようなサバス調リフがのたうち回る強烈なドゥームメタルサウンドを提示したM5
・アタックの強いツーバス連打と低・高音が極端に強調された歪んだギターリフで突進する、Pantera以降のサウンドのプロトタイプを創り上げたM6、9
・超重量級リフを基調にダークかつエピカルな展開をみせるM7、8
90年代以降に様々なバンドで多用されていくアプローチのプロトタイプが、たった8曲の中に封じ込められているのが驚異的。しかも新しい挑戦をしているのにもかかわらず、Overkillらしさが少しも揺らいでいないのが本当に凄い。スラッシュメタル史は勿論のこと、メタルの歴史を追いかける際に欠かせない作品の1つ。
■お薦め3曲
E.vil N.ever D.ies
Elimination
Birth of Tention
以上、Overkill全20枚のアルバムランキングでした。時代を追って大きく分けると、以下のような感じかなと思います。
■創世記|1st~2nd
パワーメタルとスラッシュの中間的音楽性。Overkillらしさを確立
■第1黄金期|3rd~5th
Overkill流スラッシュメタルとしての音楽的完成度と可能性の追求
■過渡期|6th~7th
スラッシュ冬の時代に、ルーツを見据えて自分達の生きる道を模索
■迷走期|8th~12th
築いてきた個性とは異なる「らしくないヘヴィネス」を追求
■回復期|13th~14th
Overkillらしさの再発見と試行錯誤
■第2黄金期|15th~17th
時代性を反映した新たなOverkill流スラッシュスタイルの創出・発展
■成熟期|18th~20th
過去の音楽的蓄積を活用した円熟味溢れる演奏・楽曲の追求
こうして歴史の流れを改めて振り返ってみると、キャリアの半数近くの作品が、Overkillらしさと時代性との折り合いをどうつけるか、あるいは折り合いつけずに新路線を走るなどの試行錯誤を行ってきたものであることがよく分かると思います。迷走期の作品は、どうしても厳しい評価になってしまいましたが、第1黄金期の彼等を知らない世代や、「Overkillらしさ」の捉え方の異なるリスナーが聴いた時に、どのような評価になるのかが興味深いところです。