やりたい仕事にたどりつく
先日、ある大学の特別講義を聞かせてもらえる機会がありました。キャリアデザインに関する授業の一環だったため、大学2、3年生の進路や生き方に関する率直な声がたくさん聞けて、とても興味深かったのですが、ひとつ心にひっかかる意見がありました。
それは、そこの大学生だというだけで、進路が狭まる面があるのではないかという声でした。周囲の大人から自分の希望に対して「高望みだ」「無理だ」と言われ、卒業生の実績を見て就職や進路を考えるように助言されることが多いというのです。
聞いていて、そんな助言をする大人とやらに無性に腹が立ちました。私はその大学について、長い伝統を持ち、たくさん活躍している人を輩出している評判の良い大学というイメージがあります。なのに、学生がそんな言われようをするとは、、、。
と怒ってから、落ち着いて状況を考えてみました。私がその大学の学生だったとして、就職活動に臨んで本当にどんな企業でも受かると思えるだろうか、と。以前に比べて「難関大(の難関学部)」からしか採用しないという企業は減っているようには思えます。エントリーシートを大学等の条件で振り分け、チャンスすらくれない企業もまだあることと想像しますが、エントリーしてみないことにはわかりません。全力で希望企業のことを考え、エントリーシートを出して、もし面接やテストのチャンスをもらえたなら、どんなにダメそうに思えてもチャレンジしてみると良いと思います。
私は就職活動解禁日に大手鉄道会社に足を運んだ記憶があります。もちろん就職活動解禁前に有名国立大生が内定を得ていたことは知っていましたが、万に一つでも可能性があったらと思ったのです。行ってみると、受けに来ている学生は少なく、受付の人も面接してくれた人も熱意がない感じでした。「ああ、やっぱり事前に内定者は全部決まっていて、採用する気はゼロなんだ。形式だけ実施しているんだ」と実感しました。
なので、翌年、解禁日にその大手企業を受けると言う後輩に「あそこは行っても無駄だよ。はなから採る気なんてないから」と助言したのです。しかし、幸い後輩は私の言うことなど気にかけませんでした。解禁日に受けにいき、見事内定を得たのです!
同じ大学の同じ学部で、似たような国際交流のサークルに属し、、と後輩と私はスペックで見たら同じような感じなのですが、その会社が採りたいと思う人物像の点でみたらかなり違いがあったのでしょう。その企業の人に採用の熱意が感じられず、流れ作業のように面接されたというのは私に対してそうだったというだけで、その企業の人が本当に採りたい人材だったら、ちゃんと採用するのだという当たり前のことを思い知らされたのでした。それにしても後輩が私のアドバイスを聞き流してくれて本当に良かった。私の思い込みに従っていたらと思うと冷や汗が出る思いです。
さて、希望の企業に正面から挑みハッピーな結果が出ればいいのですが、全力で当たっていっても一つも採用されないという事態は当然ありえます。恥ずかしながら私は就職が超楽勝だったはずのバブル期に就職活動をしたのですが、50社以上落ちました。
結局、大学卒業後はもう一つの夢であった海外大学院への進学の機会を得、帰国後に運良く就職することができました。そして仕事を始めてみてから気づいたことがあります。
世の中にはいい仕事をしている会社が思っているよりずっとたくさんある!!
学生が知らないだけで、最先端の仕事をしていたり、興味深いサービスを展開している会社は想像以上に多くありました。私が学生の時に知っていたのは就職ランキングに名を連ねるような有名企業や広告で親しみを持っていた企業などだけです。BtoC(個人顧客相手のビジネス)の企業が多く、BtoB(法人顧客相手のビジネス)の企業については知らないところがほとんどでした。
そして、なにも名前を知っている企業でなくても、自分のやりたいことをやれるチャンスは広く存在していそうだということにも気づいたのです。
たとえば、小さい頃から大好きだったお菓子を作っている会社があるとします。そのお菓子を作ることに携わるのが夢だった場合、その製菓会社から内定をもらえなければ、夢はついえてしまった、と学生時代の私は感じたと思います。
しかし、そのお菓子に関わる道は他にもたくさんあるのです。そのお菓子のいい香りには、香料メーカーが関わっていることでしょう。新商品を開発する時には、マーケティング会社や調査会社の手を借りている可能性もあります。パッケージはデザイン会社や印刷会社が考えているかも。実際にお店に並ぶまでの流通に関わる会社もあるでしょうし、売っている現場はスーパーや商店です。テレビコマーシャルを作っているのは広告会社でしょうし、webサイトの運営の実務はIT企業が担っているかもしれません。
じゃあ、そのお菓子のマーケティングに興味があるからマーケティング会社を、テレビコマーシャルを作ることにも興味があるからCM制作をしている広告会社も、と考え、そこだって狭き門じゃないか!という場合もあるかと思います。
その場合でも更にBtoBの会社を探して夢に近づいていくことは可能です。私は広告会社に勤務していたことがあるので、テレビコマーシャルの制作を例にとって考えてみますが、CMは広告会社内だけで作っているものではありません。
実際の制作はピラミッド・フィルムや東北新社といった映像系を得意とする制作会社が担うことが多いですし、撮影の背景を作る会社、ロケ場所を調べ提案する会社、人形やかつらなど小道具を作り、提供する会社、タレントが所属する芸能事務所、エキストラの手配会社、撮影スタジオ、フィルム編集会社などコマーシャルにもよりますが、その道ではかなり有名だけど一般には名を知られていない会社がたくさん協力して出来上がっています。
本当にやりたいと思ったことがあったら、それを実現するためにどんぴしゃの場所がダメでもあきらめずに少しでも関わりのあるところを探して関われるようにしていくと、だんだん希望に近づいていくように思います。
そして、希望ややりたいことというのはチャレンジし続けているうちに変わってくることもおおいにありえます。
もし香料メーカーに縁があって入社したとします。入社前は第一希望がかなわなかったことに意気消沈するかもしれません。しかし、そこで自分が大好きだったお菓子の香りのみならず、食品、日用品の多種多様な香りに魅せられて興味の幅が広がり、想像した以上に充実した仕事に取り組むことになるかもしれません。
きっと向いていると思ったことがやってみたら意外と違っていたり、そこまで気が進まなかったことが思いのほか得意でみんなに感謝されるようになったり、自分の向き不向きってやってみないとわからないことが多いと感じます。私は今はフリーでPRの仕事をしています。PRのいろいろな仕事がある中で、自分ではPR用小冊子を作るのがあまり得意でない気がするのですが、小冊子作成の依頼が途切れることがなく、年中作っています。自分の評価ポイントって本人にはわからないものなのかもしれませんね。
そして正直言って、なにも企業や団体に就職することだけが仕事を始めるのに良いスタートというわけではありません。自分の興味があることをお金にする方法を考えて、試してみて、うまくいきそうだったら起業するというのも「あり」だと思います。起業して軌道にのせるまでは大変なことも多いかもしれません。しかし、軌道にのれば意外にワークライフバランスがとりやすいようにも思います。私の知っている起業家の女性は、子供が小さい頃は職場に連れてきて社員が面倒をみていたこともあると言っていました。また家で仕事をして、社員に指示をすることもあったようです。経営者としての仕事をきちんとしていれば、働き方や時間に関しては自分で決めやすいという利点があるように思います。
難関大学の難関学部の卒業生は、その時代の人気企業に大勢就職します。私が大学を卒業したのは1990年でバブル期でしたから、優秀な人の多くは銀行など金融機関に就職しました。新聞社も憧れの進路でした。某新聞社に入社するのは東大に入学するより難しいという噂も聞きました。
四半世紀が過ぎて、今の状況はどうでしょう。長銀、日債銀というとりわけ優秀な人がいった銀行はなくなってしまい、都市銀行も合併などで大きく変わり、90年当時のまま残っているところはありません。新聞社はインターネット時代となった今、大きく部数を落としてきてしまい、かつてほどの影響力を持てずにいます。
そう考えると、今の時点でみんながすごく行きたがっている企業に就職する、というのは逆にリスクが大きいのかもしれません。その時が一番輝いてしまっていて、将来はそこまででもなくなってしまう可能性もあるかもしれません。
自分の興味が動く方に少しでも近づいていく、思ったところがだめでも違う視点から近づいていく、そうしていくのが、納得のいく仕事に巡り合う一つの方法なのではないかなと私は思います。
なので、私がその大学の学生で就職活動をするとしたら、入りたい企業はあきらめず全力でアピールしてみることにします。だめだった時には、その企業でやりたい業務を請け負っている会社を調べてそこにアタックしてみます。そういう会社は、もしかすると新卒を募集していないかもしれません。それがわかっても、人材を募集するときには声をかけてもらえないかとダメもとで依頼しておいてみます。手紙と履歴書を送っておいてもいいかもしれません。就職活動はペーパーテストと違って「熱意」が状況や評価を変えることがあるので、できることはなんでもしておこうと思います。
とはいえ、連絡がくる当てもない会社へ希望を出しただけではいつ就職できるかわかりませんので、その会社が必要としている業務を請け負える個人のスペシャリストがいないかどうか考え、そういう道で関われないかも考えてみます。それも無理そうだったら、その会社と取引できそうなサービスを創り出し、起業することも考えます。まだその会社が進出していない海外の国で、その商品やサービスが受け入れられる良い市場があるんじゃないかと思える地域があったら、そこで働いてスキルを磨き、数年後ビジネスパートナーとして進出の提案をしてみてもいいかもしれません。すべてがダメで意に沿わない会社に就職することになった時には、そこで学べることをできるだけ吸収して、希望の会社との仕事上の接点、人的接点を探してみます。
もしかしてそんなことしている間に、違うことに興味を持ってそちらに邁進してよい仕事をみつけるかもしれません。どんな企業でも受かる、という自信はどの大学にいったとしても持てないかもしれないけれど、きっといつかやるぞ!という気持ちだけは誰もとりあげることはできないわけだし、全力でそこに近づいていくことを続けていきたいなと思います。
この文章を読んでくれた人が、20年後いい仕事をしている!この仕事に巡り合えて良かった!と思える状況にあることを願っています。そして、私も20年後そうなっているよう、毎日少しずつではあってもやりたい方へなりたい方へ寄せていく努力をしていきたいと思います。
*「理恵の全力尽力な毎日」より転載http://wadarie.at.webry.info/201611/article_2.html#kimochi