2月 広島へ ~旅の備忘録①~
羽田まで1時間半。羽田から更に1時間半。
国内旅行なのに飛行機を乗り継ぐなんて。
そう思って二の足をふんでしまう土地がある。
一昨年の旅行は山陰を予定していたのに、乗り継ぎ便と知ってやめたほど。
旅の頻度が増え、飛行機に慣れたとはいえ1日の離発着は1度で十分だ。
とはいえ目的によって人は無理をする。
飛行機が揺れたとしても酔ったことなんてなかった。なのに空の旅も後半、高度を徐々に下げている機内の中で、冷汗がでてなんとなく調子が悪くなっていく。
CA呼ぼうかな。
でも、呼んだところで手立てがあるわけでもなし。
もうすぐだし。大丈夫。
そんな中、瀬戸内の海が目に飛び込んできた。
浮かぶ島々。
あまりの美しさに、思わず目が吸い寄せられているうちに着陸体勢に入った。
助かった。広島の景色最高。
着いてもいないのにもう広島が大好きになる。
人生 初広島。
空港へ降り立つとそのままバスに乗車。
高速に入ると両脇に山ばかりの景色が流れていく。
海が見えると思っていたので少し興奮から覚める。
そんな中、娘からしばしば入るLINE。
引越しを控え、家電の買い物中。その相談事。
どのオーブンレンジがいいか写真が送られてくる。
そんなものを旅先で見るってどうよ。しかもまだ調子は戻っていず、下ばかり見ているとまた酔う。
LINEの通知と車窓の景色を交互に眺めているうちに広島駅に到着した。
もう乗り物に乗りたくないな、と思う。
予定を大幅に変更する。
歩くの得意。徒歩圏内で検索をかける。
出発直前までバタバタしていた。
こんなに旅の下調べもせずに出発したことなんてないかも。そのくらいほとんど予備知識を持たずにやってきた。
とりあえず初日に宮島だけは行っておこう。
それだけ決めていた。
あたたかい。
春の日差し。
本当に雪がないんだな、と当たり前なんだけれどそんなことを思う。
駅から徒歩圏内で出てきた縮景園。
穏やかな空気が流れている空間。
気持ちがぐっと落ち着いていく。
5、6人の和服の男女が梅を愛でていた。
お茶会をしているようだった。
いい雰囲気。
梅の香りが漂い、充満し尽くしている。
ベンチに座り、香りを奥まで吸い込んでいると、気持ちが和んでいく。
1歳くらいのよちよち歩きの女の子が、私の座っているベンチまで来て上ろうとするけれど足が上がらない。可愛い。お母さんに抱き上げられて、私に手を振りながら去って行くのを、笑って見送る。
広島って以外とコンパクトに観光名所が揃っているんだなと、川にくるっと囲まれた街の地図とにらめっこ。
梅の香りの中で、広島城、原爆ドーム、平和記念公園と歩けそうだな、と頭の中へ経路をインプットして立ち上がった。
この場を離れるのがもったいないくらいの香りを背にして、 広島城へと向かう。
お城なんてどこも一緒でしょ、そんな風に思って広島城にくる予定は当初はなかった。
乗り物酔いしなければ、まっすぐ乗り継いで宮島まで行き、ここには来なかったかもしれない。
一目見て他とは違う外観に驚く。
木造?
和風な感じで、趣のあるビジュアル。
中は歴史博物館で、なかなか興味深かった。
(トップ画は、広島城 展望室からの景色)
原爆ドームと平和記念公園へ。
一度は訪れようと、ずっと思っていた場所。
たくさんの記念碑や折り鶴を見て、何度も涙が溢れそうになる。
私、何も知らずにのほほんと生きてきた。そんな気持ちが、さざ波のように押し寄せる。
公園だけではなくて、川沿いや平和大通りの傍らにも、たくさんの折り鶴。
平和への願いがこめられた街。
歩いていると、それを何度も感じた。
写真や映像で見るのとはわけが違う。
体感してこそ感じられるものって必ずある。
折り鶴タワーへ。
入り口でもらったパンフレットに「凛と澄んだ冬の空気の中、色とりどりのハーバリウムが……」云々の文字。
あ、そうか、すっかり春だと思っていたけれど、冬だった。雪がなくても冬なんだ。季節感の圧倒的な違いを、自分の中でリセットしなおす。
最上階は、端から端まで広島市街を見渡せるようになっていた。
ガラスもない。
風が気持ちよくて、そのまま風にあたり続けた。
快晴だった。冬の広島を体に記憶させる。
透明なドームテントの中でくつろぐ人。
市街を見下ろすカップル。
飲み物を横に置き、座って本を読んでいる人。
それぞれの時間。
いつまでも居られそうな場所。
階下へ降りると。
そこには爆心地点が見下ろせる場所があった。
驚いたのは今も島病院が同じ地で診療をしているという事実。ああ、私、何も知らないで生きてきたな、とまた思う。
心に留めて、改めて街を見下ろす。
展示されている資料を隅々まできちんと読み、あとで見直せるよう写真にもおさめる。
折り鶴用の折り紙をもらって、中に平和への願いを綴った。
感じた想いを大切にしよう。
帰りは、ゆっくりスロープを歩いて降りた。
エレベーターで降りるのがもったいなくて。
来てよかった、そう思いながら。
(続)