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心臓移植後の人生~心音(しんおん) 乾ルカ著~

今も小児心臓移植を受けるには海外渡航をも視野に入れる必要があるのが現状の日本。

主人公の明音は9歳の時に心臓移植のため寄付金で1億5000万を用意し海外に渡り移植手術を受ける。そして手術は無事成功し帰国。
普段私たちがニュースで間接的に知るのはそこまでだ。

非常に重たいテーマを取り上げている。舞台を札幌にしたのは、単に乾ルカさんが札幌出身だからなのか、いやきっと日本初の心臓移植をしたのが札幌医大だったからなのか。

物語として書かれているのは、その後の明音。
それを周囲の目を通して描かれている。
帰国後のレシピエントが、どのような人生を歩むのか、そのことを真剣に考えたことはあっただろうか。その欠けていた視点に私は頭を思い切り殴られたような気持ちになった。

中学時代には「1億5000万円さん」と呼ばれて非難され いじめにあい、同時期に寄付金が足りずに渡航できなかった親からの理不尽な怨みをかう。

どんなに辛くても、寄付してくれた善意のもとに生かされている、誰かの犠牲のもとに心臓が動いている、という重圧。何も成せないのに何故、という葛藤。

移植については昔から賛否両論ある。
心臓ではないが、私も過去に移植医療の現場で心ない言葉を聞いたことがある。しかし自分の意見と違うからと言って、当事者にぶつける必要があるのだろうか。

海外渡航移植についてはレシピエントならびに家族の経済的・精神的支援がよく問題となっているが,日本での小児の脳死は否認し,欧米の小児の脳死を肯定するという,倫理的に重大な問題を抱えていることを忘れてはならない.また,日本の子供が心臓移植を受けた分だけ,その国の子供が心臓移植を受けられないでなくなっている可能性があることも重要であり,国際摩擦の原因ともなりうる課題である.法改正により,小児ドナーからの提供が可能になったが,我が国における心臓の提供は極めて少なく,海外渡航心臓移植が減らないのが現状である. ※小児循環器学会雑誌より引用


それしか生きる方法がないと選択した結果、待ち受けていたのは蔑みの眼だった。
明音は、生きていく苦しみを感じ続け、厳しいと感じる母や、寄り添おうとする先生や友達とも心を通わせることができず、生きる意味を気付かされた場面は悲劇的としか私には思えなかった。
心音に被さるようなバイオリンの描写が印象的に心に沁みる。

読んでいて苦しさすら覚えるが、この本は今の日本の現状を考えるきっかけになると思う。
移植に関してだけではなく、その一瞬のニュースであれこれ語ってしまうことなく、広い視野で考える力を持ちたいと心から思った。

現実の子どもたちには、明音のような責任や意味を問い続ける人生ではなく「ただ生きていて」欲しいと読み終えて、願った。

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