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この一球にかけろ! ある日のファイターズ対ホークス戦、長谷川勇也との対決に、繰り広げられる勝負の綾を見つける。とあるファイターズファンの観察日記(2021)

 9回裏2アウト、ランナー一塁二塁、バッターは、長谷川勇也。フルカウントからの一球。高く上がった打球が、深く守っていたレフト前へ落ちようとする。西川遥輝、疾走、スライディングのグラブに拾われる。

ゲームセット。2021年6月18日、交流戦が終わり、リーグ戦が再開されたPayPayドーム、対ホークス10回戦。ファイターズの先発は上沢直之、今季六勝目、チームにとって初めての完投勝利だった。
痺れるゲームを制し、やった!やっや!とネット中継を見ているパソコンの前で、大喜びの拍手をしながら、わたしは、ついこないだのとあるシーンを思い出していた。

 6月8日の札幌ドーム、阪神タイガースとの3回戦。先発は同じく上沢直之だった。この時は7回2失点で降板。2対2の9回表、マウンドは新クローザー杉浦稔大。いきなり先頭のサンズに打たれ、無死二塁の大ピンチになるも、バッテリーは、頑張った。続く送りバントを見事に失敗させ、次も粘られながらも三振させ、2アウトまで漕ぎ着ける。

あと一人でファイターズの負けはなくなる。タイガースベンチは、代打原口文仁を送ろうとしていた。ここでベンチから(足の負傷でマウンドにまだ行かれない荒木コーチの代理)鶴岡コーチが出てくる。原口で勝負するか、次の近本でにするかの話し合い。

バッテリーは、原口勝負を選ぶ。カウントはボール先行の3−1に。外野守備陣は、そこまで上がらなくても、もしフライ打たれたらどうするんだよレベルまで前に来ている。絶対に外野フライを打たれてはいけない、たまさかヒットを打たれても、内野を抜かれるゴロでなければならない、必ずホームで止めるために。そういう制約の中だった。

キャッチャーは石川亮、同じ帝京魂原口先輩は、勝負強い(昨年も甲子園でサヨナラヒットを打たれている)なのになぜかストライクを取りにいったのか甘く入ってきた高めのスライダー。力強いスイングから放たれた打球は、レフトの頭を越えていく。いかな遥輝の俊足でも追いつけない…。タイガースにまさしくも虎の子の1点が入り、ファイターズの作戦は、木っ端微塵に砕かれ、ゲームは決まった。

ファーストは空いていた。歩かせる選択肢もあった。だけどCS中継解説の稲田さんが言っていた「原口で勝負の決め事が、彼らを縛ってしまった」と。試合は終わり。みんながダグアウトに消えてもベンチに居残ってマウンド方向を見つめている石川亮の姿を中継カメラは映していた。何を思っていたのか、こちらには、わかるはずもないけれど…。

それから10日後のPayPayドーム。話は冒頭のシーンに戻る。
ファイターズ側からすると2対1で勝っている9回裏、最悪のサヨナラだけは避けたい布陣を取るとはいえ、状況は、似通っていた。

2アウト2塁の場面で(今回は足の傷も癒えたとスポーツ記事にもなっていた)荒木コーチがマウンドに向かう。バッテリーも内野陣も集まって、盛んに話しあっている。コーチが去り、内野が戻っても、バッテリーはまだ確認をしていた。キャッチャーは、やっぱり石川亮である。

次打者は、4番柳田悠岐。ギータと勝負するか、5番長谷川勇也で勝負するのか。この度の、指示ははっきりとしていた。ギータは申告敬遠、長谷川勝負だ。この日「上沢のチェンジアップにタイミングがあっていない」と盛んに解説の柴原さんに言われていた、その前の三打席目では、チャンスで凡退し、ベンチでグローブを投げつけて悔しがっていた。

長谷川侍ーハセガワザムライ。わたしは、勝手に彼に、そう渾名をつけている。こういったら失礼かもしれませんけども、一種狂気のごとき勝負根性、あくなき闘争心、ただでも負けず嫌いのプロ野球選手の中にあっても常軌を逸っする負けず嫌い。打席の中から震えるように伝わる、一球と一振りにかける裂帛の気合。

いや〜んな予感が走る。絶対にきっとチェンジアップを打つと決めているに違いない。ピクピク動く長谷川侍の表情は鋭い。微妙な勝負の駆け引きが18.44mの間にやり取りされ、カウントは、やっぱり3−1になった。満塁になってしまうが、塁は一つ空いている。バッテリーは外角のストレートを選んだ。高めにちょっと浮いて、画面からはボールに見えた。が、判定はストライク。

チェンジアップを待っていた(はずの)長谷川侍の集中が、途切れる。フルカウントから投げた球は、129kのチェンジアップだったのかフォークだったのか、素人目には、わからないけれど、とにかく打ち損ねる。バッテリーは、間違えなかった。ファイターズの作戦は、この夜は成功したのである。

年間143試合。日々繰り返される勝負の綾。チームの反省と選手の実践。バッテリーの成長を感じたナイスゲーム。ファイターズは、まだまだこれからだ!

と感激した翌日。劣勢から盛り返し、迎えた4対5でリードの9回裏、ピッチャーは、再びクローザー杉浦。キャッチャーはやっぱり石川亮。2アウトランナーなし、あと一人で三連勝目前。バッターは栗原陵矢。1ストライクからの高めボール球要求のストレートは、確かに高めに入ったが。思い切り振り抜かれ、ライトのホームランテラスに飛び込んで……。

野球って、本当に、難しいものですね……。
でも、だから面白い。面白くってやめられない。野球ファンであることを。さあまた明日明日!

(文中敬称略)










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