ちらしずしと焼鴨湯麺
新しい服を買えば次の日に来たくなるし、新しい本を買ったら帰りの電車で読み始める。何か新しいものを手に入れたら、すぐに身に付けたいし使ってみたい。それはたとえ言語であっても同じことで、1年前に広東語を習い始めてから使いたくてウズウズしていた。
先日、会社の近くの中華料理屋でついにその時はきた。前々から、カウンターの奥で働く人が広東語を話しているのは知っていて、いつもそこで頼むスープヌードルが「焼鴨湯麺 (しうあっぷとんみん)」だと言う事も、広東語の先生に習っていた。
自分の広東語がどう聞こえるのか、恥ずかしくて試した事はなかったけれど、この間で遂に広東語を学習しはじめてから1年になったのだ。何か、一年前の自分はできなかったことをしてみたかった。
周りに人が居ないときを狙って、カウンターに近づく。「焼鴨湯麺、一個、唔該!」果たして1回聞き返されたものの、英語で言い直したい気持ちをグッと堪えて、広東語で言い直す。「焼鴨湯麺、一個」。2回目でオーダー成功だ。
やってやったぜ!と思って広東語話者の彼に報告すると、私が片言の広東語でオーダーしている様子が目に浮かんだのか、笑い転げられた。褒めるなら分かるが笑うとは何事!失礼極まりない。せっかくの誇らしい気持ちがしゅわしゅわ萎んで、代わりに怒りがフツフツと沸いてくる。
あんまり笑うので、それならアナタもやってみなよ!自分の母国語じゃない言語で料理を注文してみなさいよ!と怒るが、困った事に、日本料理のメニューはそのまま英語だ。寿司はSUSHIで枝豆はEDAMAME、照り焼きチキンはTERIYAKI CHICKENで味噌ラーメンはMISO RAMENだ。
どうしようか。言いづらそうで日本語メニューでこっちで売っているもの...?と悩んだ挙句思いついたのが「ちらしずし」。
「ちらしずし、1個ください、って言える?」
果たして彼は試してみる。試してみるが、言えない。ちらずし、ちらしすし、ちらずしし。。。
なんだそれは?という言い間違いが続いた後、あまりの言えなさに彼自身がまた笑い転げ始める。「思い知ったか!これからは、習得中言語の片言を笑わないように」と厳かな顔で告げたけれど、全然思い知った感じではなかった。
ちょっと悔しさが残るけど、まぁいいか。少なくとも1年前の私に胸を張れる。焼鴨湯麺1個、広東語で注文できるようになったよって。
そして未来の自分にも問いかけたい。どこでなにをしているの?今の私ができないこと、なにかできるようになった?って。(それと、彼はちらしずし、っていえるようになった?)