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1年漕いだ自分の硬い腕を そっと撫でようと思う。

2021年7月2日。会社を作って1年が経った。独立したてで経歴のない私を信じて声をかけてくれた人たちのおかげで今がある。私が声をかければチームになって、仕事を受けてくれた人たちのおかげで今がある。一人で会社を作って1年生きてみた自分の、等身大の心地を残しておく。

声をかける人、声をかけられる人

実はこの1年間は、前職のスマイルズのボスである遠山正道さんにかけられた言葉を、ずっとずっと意識していた。

「声をかける人」
「声をかけられる人」
「声をかけず、声がかからない人」


これからは、個人の時代。目的に合わせて最適な個人が組織され、達成したら解散し、それぞれ次の目標に向かって散っていく。全ての企てがプロジェクト化する世界で人は、上記の3つに分けられるのではないかと。

独立した当時、もし誰からも声がかからなかったらどうしようという恐怖があったし、自分が尊敬する人たちに自信を持って声をかけられるような面白い渦を作れるか不安もあった。

小さい一人分のボート

会社員の時は、数百人が乗った大きな船の一端を「私はこのハンドル担当だから」と、目の前の一つのハンドルをがむしゃらに回していた。舵を切ることやオイルを補給すること、船の掃除は、他の優秀な誰かがやってくれた。何日か作業をやめて休んでいるうちも、船は変わりなく進み続けた。

独立してみたら、そこには小さい一人用のボートしかなかった。なんならオールもないし、地図もない。どこに進めばいいかもわからなくて、必死に両手で大海をぽつりと掻き分けるような日々が始まった。一年前。

けれど気づけばこの一年、たくさんの人に声をかけてもらった。自分だけではやりきれない仕事でたくさんの人に声をかけた。

私のボートは今も小さいけれど、ピュッと笛を吹けば「どうしたの?」と集まってくれる大小様々な船が周りを漕いでいる。たくさんのチームが出来て、解散して、また出来て。ひとときも孤独な時間なんてなかった。

仕事にぜんぶ、ついてくる

仕事が忙しいと孤独はないが「未来のためのアクション」とか「キャッチーな発信」とかはどんどん出来なくなってくる。朝から晩までずっと目の前の仕事に必死に向き合って一日が終わる。それ以外何も考えられない。社会的無音の自分がダメだとひっそり落ち込むことも最近は多かった。

先日そんな話をPR会社をやっている知人に話すと「余計な発信なんて今はしなくてもいい。仕事にぜんぶ、ついてくるから。」とカラッとした笑顔で返され はっとした。

私は「クリエイターは裏方に徹するのが美学」とは全く思わないが、素直に思ったことや好きなことだけ口にして、目の前の仕事をしっかりやっていれば、それが一番なんだと思う。よく考えたら今の仕事も全部、仕事が産んでいる。


人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇

自分の責任100%で舵を切る経験は一度はしてみて良いもんだ、と私が思うのは、独立して一喜一憂の振れ幅がガツンと広がったから。辛い時や悔しい時の落ち込みは森のように深く、その分うまくいった時の喜びはとことん明るい。

チャップリンの言葉を借りれば、人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ。辛い時も「いまは映画の辛いシーンだから次は挽回する場面かな」とかのんきに思う自分がいる。


いいと思う仕事だけ、いいと思う人とだけ

いま、尊敬できる人達だけと「これがある世の中の方がハッピーだよね」と自信を持てる仕事だけやっている。それでお金がもらえて、ちゃんと毎日ご飯が食べられて、生活ができてるのって、本当にすごいことだ。まだまだこれからだけど、1年間 絶えず海を漕ぎ、すっかり筋肉痛の左右の腕を、今日くらいは撫でてあげてもいいなと思う。


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portrait photo : 立石従寛 | Jukan Tateisi

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