概念アイス
夜の京都の街を友人とぶらぶらとあてもなく歩くと、曲り角にほんのり明かりが灯った小さな店があった。“coffee and cigaretts“ならぬ、“coffee and wine“の文字。現代の禁煙推奨傾向のためにここの代替案はワインか、と思いながら店に入ると、6畳ほどの店内で外国人と日本人が同比率に混ざり合っていた。
お酒は苦手なので、コーヒーを飲もうかとメニューを手に取るとアイスクリームの文字をみつける。すると、”I scream! you scream! we all scream for ice cream!”が脳内を占領する。瞬時にアイス以外の選択肢が消え去った。
アイスクリームは2種類。”ミルクとマッシュルーム”そして”キャラメルと茄子”という変わり種。わたしも友人もミルクを希望したが、生憎にも目の前で売り切れてしまった。友人が「じゃあ、キャラメルにします」と言うのに対して、キャラメルの気分ではなかったわたしが「そしたらアイスコーヒーにします。」と注文した。すると店主が「茄子が苦手であればキャラメル抜きにしましょうか?」と言った。反射的に「いや、大丈夫です。アイスコーヒーをお願いします。」と伝え、アイスコーヒーを受け取った。
アイスコーヒーを紙ストローで啜りながら、先ほど店主がいった “茄子が苦手であればキャラメル抜き“ のアイスクリームの実態について考えていた。茄子が苦手であれば、当然茄子を取り除く。残るはキャラメルアイスだが、店主がいったのはキャラメル抜きのアイスクリーム。
茄子も、キャラメルも取り除いたのならば、そこに残るものは一体何なのだろう。少しの間ぐるぐると当てもなく思考したのちに、はたと気がついた。茄子もキャラメルも取り除いたアイスクリーム、それは、“概念としてのアイスクリーム“ ではないか!
あぁ、なんとしたことだ。わたしとしたことが “概念としてのアイスクリーム” を入手する、またとない機会を逃してしまった!と膝から崩れ落ちるような後悔をイメージしつつ、妄想癖な思考回路にウキウキした気持ちで店を出た。
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