長い別れのための短い手紙
3月の下旬、積読はあるのに何も読めていない状況を打開するために本屋に入った。手始めにお気に入りの海外文学の棚をチェックする。そのとき、ふと目に入ったのが「ペーター・ハントケ コレクション1」。ある友人から勧められたことのある作家で、彼の戯曲を一度読んでいたこともあり、手に取った。
表紙をめくると、目次に「長い別れのための短い手紙」と「幸せではないがもういい」という二つの短編小説のタイトルが並んでいる。その妙に閉塞的な言葉に惹かれ、本を購入し、ゆっくりと読み進めた。
「長い別れのための短い手紙」は男が女から別れを告げる短い手紙を郵便で受け取る場面から始まる。そこから男の回想と意識の変遷をゆっくりと指でなぞるように追っていく。
小説が終盤に差し掛かる頃、一通の手紙が自宅のポストに届いた。ハントケを紹介してくれた、あの数年来の友人からだった。わたしが数ヶ月前に近況を知らせるポストカードを送っていたその返事だ。封を開けるとそこには見慣れた筆跡で、見たことないほどの他人行儀な言葉が数行あり、それは明らかに別れを意味するものだった。
ハントケの「長い別れのための短い手紙」を読み終える頃、そのバトンを受け取るように、わたしのもとに「長い別れのための短い手紙」が届いた。その悪戯な循環システムと、手紙の内容にどうしようもなく腹が立って、駅のゴミ箱に手紙を捨てた。
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