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【本】旅する力

 読書会で紹介された本を読んだ。

沢木耕太郎『旅する力 深夜特急ノート』

 『深夜特急』の書名は知っていたが、手に取ったことはなかった。沢木耕太郎さんの著書は初めて読んだ。
 沢木耕太郎さんの文章は読んだことがあった。何故か。近頃、大学入試現代文の勉強をしていて、沢木さんの文章が演習問題になっていたためである(河合塾「入試現代文へのアクセス基本編」第一問)。
 文章はとても読みやすく、スイスイ読んだ。

 その読書会のテーマは「よい距離感とは」で、距離から旅を連想した参加者の方が紹介してくださったのだが、この本の中に「距離」について書かれたところがある。

 私だったらどう考えるかというと、世の中には基本的に親切な人が多いし、そんなに悪い奴というのはいないと思う。しかし、同時に、悪い奴はきっといるとも思う。そう考える私は、どこまで行ったら自分は元の場所に戻れなくなる可能性があるかという「距離」を測ることになる。そして、私は自力でリカバリーできるギリギリのところまでついていくと思うのだ。ーー(略)ーーそういうことを何度か繰り返していると、旅をしているうちにその「距離」が少しずつ長く伸びていくようになる。

終章 旅する力 p.338

 「偶然に対して柔らかく対応できる力」=「旅する力」を伸ばしていくということなのだけど、私が思うのは、その「距離」は決して人と比べたりできないものだということ。
 外から見れば、遠くへ行ける人と行けない人がいるようでいて、その力はその人だけのものだから、「距離」を外から見て比較することはできない。だけど、きっとそれは誰でも少しずつ伸ばしていけるものだという希望を持っている。大切なのは見極めとギリギリへの挑戦だから。

 『深夜特急』の旅に影響を及ぼした人物として、ある教師のことが語られている。

私たちは、少なくとも私は、大学の講義に、書物に記されてあるような、知識の断片を求めているわけではなかった。私たちは、いや私は、大学の教師から何らかの「熱」を浴びたかったのだと思う。その「熱」に感応して、自分も何かをしたかったのだと思う。そして、松田先生には、研究者としての「熱」が間違いなくあった。
 ーー(略)ーー松田先生の「熱」は、私をスペイン語にも、日欧交渉史にも向かわせることはなかった。しかし、もしかしたら、その「熱」が私を西に向かわせたのではないだろうか、と。事実、私は『深夜特急』の旅で、マカオ、マラッカ、ゴア、そしてリスボンと、松田先生の話によく出てきた都市を追い求めるように旅をしていた。

第五章 旅の記憶 p.327

 このところ、大学へ行く意味や教室で授業を受ける意味のことを考えていたので、この文章は私に、人生で出会った何人かの先生を思い起こさせてくれた。
 他人から「熱」を浴びたい、その「熱」に感応して、自分も何かをしたいって思えることは、とても気持ちの良いことだと思うし、そういう先生や本と出会えることは素晴らしい。そして言わずもがな『深夜特急』はまさにそんな「熱」を持った本である(私は未読ですけども)。

 あとがきの後に、沢木さんと『深夜特急』のドラマで主演した大沢たかおの対談があって、そんなドラマがあったんだ、と検索したら、若き日の大沢たかおが格好良すぎて参っている。ドラマ観たい。


 こちら、読書会の感想など↓↓↓